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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~悪魔狩りの一族~ 編
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こんなものか

「ほう……」


 ヴァルカンは滴る血を手で拭うと、小さく息を吐いた。指についた血を眺めると、そのまま手を下げて視線を千晴さんに戻した。彫刻のようにほとんど動きのなかった彼の顔に、僅かに感情が浮き出たのが分かった。


「傷を負ったのは久方ぶりだ」


 だけど、その顔に浮かんだ感情は恐怖でも、ましてや賞賛でもなかった。もっと薄くて低いところの感情――読んでいたつまらない本に、ほんの僅か好みの表現でもみつけた。そんなような、意味も動きもほとんどない感情だった。


「我が妹なら当然として、お前もそこらの凡百の悪魔とは違うらしい」

「当たり前だ! ルディ、一気に行くぞ!」

「ああ、わかった!」


 千晴さんが刀を両手で力強く握ると、刀身が縄のようにほどけ、彼女の体に巻き付き始めた。縄状の刀身は、腕に巻き付いたものは銀に、脚のものは金に輝き、千晴さんはある種の神々しさすら感じる姿になった。

 王狼さんの銃も青白く光り始め、彼女の手足と口周りにその光が映る。両手両足の光は金の西洋防具のようなものに変貌し、口元の光も鈍く輝く銀色のマスクにその姿を変えた。そのどれにも狼の、ルルちゃんたちの装飾が施されている。


「……面白い」


 ヴァルカンは静かにそう言うと、手にした大槌を地面に突き立てた。すると、大槌が赤黒く鈍い光を放ち、そのまま大槌はどろりと溶岩のようにヴァルカンの体を覆った。ぼこぼこと脈打ちながら、その形を変えていく。


「なんだありゃ」

「私も知らない、きっと兄様の……」

「新しい、力……?」


 ヴァルカンの手足と口元に、溶岩のように鈍く輝く防具が装着された。王狼さんの装備とよく似ていたけれど、デザインやサイズが違う。王狼さんのものより、厚く大きく、頑強に見えた。


「悪魔の力を転用して変形能力をつけた。ルディ、お前を参考にして開発された技術だ」

「な……!」

「お前の動きは逐一報告を受けていた。悪魔に飲まれてしまった時に狩るためだったが、こんな思わぬ収穫もあったというわけだ」

「ハッ! 妹の猿真似してなに得意げにしてんだ!」


 千晴さんは叫び、一直線にヴァルカンに向かって駆けた。王狼さんもその後ろを追いかけるように地を蹴った。対してヴァルカンは静かに足を前後に広げ、両手をゆっくりと体の前に構えた。


「……お前たちの力を見せてみろ」


 二人はヴァルカンに突撃し、そのまま乱打を叩き込んだ。近くにいる私が風圧でのけぞるほどの速さだった。銀の拳が、金色の脚が、狼の手足が、絶え間なくヴァルカンに襲い掛かる。

 だが、ヴァルカンはその場から一歩も下がっていない。驚くべきことに、二人の攻撃を完全にいなしている。手のひらで払い落し、腕で払いのけ、脚や手で攻撃の起こりをおさえられ、膝や膝で迎え撃たれる。


「こ、の……!」

「く……ッ!」


 徐々に均衡が崩れ始めた。迎撃でダメージを蓄積させられた二人の動きが鈍っていく。


「――! 千晴さん!!」


 叫んだが遅かった。一瞬の隙をつかれ、ヴァルカンの拳が千晴さんの腹に突き刺さる。千晴さんは体をくの字に曲げ、血反吐を吐き出した。その場で耐えきることができず、千晴さんの体は吹き飛び、ビルの壁面を突き破った。

 間髪入れずに王狼さんの頭にヴァルカンの蹴りが降りぬかれる。咄嗟に防御に回った両腕は意味をなさず、千晴さんと反対方向へと吹き飛ばされた。廃屋が砕ける轟音鼓膜を揺らし、湧き上がる土埃がほとんど同時に左右から広がる。


「そんな……」


 どれだけこの男は規格外なんだ。

あれだけの連撃を受けて一歩も引かず、むしろこちらがやられてしまうなんて――。

ヴァルカンはゆるりと構えを解くと、再び真っ直ぐに立った。


「……こんなものか」


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