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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~悪魔狩りの一族~ 編
111/208

試したいこと

 瞬間、ミナーヴァの姿は消え、金属音と主に紫陽の体が再び浮いた。二度三度、四度、五度。収まらない攻撃を何とか爪で受ける紫陽だったが、地に足が付いた時にはその爪が一本彼女の後を追うように地面に突き刺さった。


「……涓滴岩を穿つ」


 いくつもの爪のうちのたったひとつを狙い撃ちされた。目で追いきれないほどの速度で移動しながらである。反応しきれないわけではなかったが、捕らえる事は難しい。紫陽はわずかだがじわりと汗が滲むのを感じた。


「あはは~☆ こっちもズタズタ~☆」


 きらりの言葉通り、彼女の体のところどころの肉が抉れ、骨まで露出していた。まるで、仕留められた獲物が猛禽についばまれたかのようだった。だが、きらりの体はあっという間に元に戻った。


「このままじゃまずいかも~☆」

「……三十六計逃げるに如かず」


 再び音も無く飛び込んできたミナーヴァの爪がこちらに届く前に、紫陽は両の爪で地面を思い切り叩いた。人外の強力で撃たれたアスファルトがめくれ上がり、砕け、四方に飛び散りビルの壁面に衝突する。あわよくばその破片でダメージをとも思っていたが、ミナーヴァも人並外れた反射神経でその全てを躱し、一瞬で安全圏まで下がった。


Piuma(音無)silen(しの)ziosa(羽根)……」


 ミナーヴァは下がると同時に羽型の投擲武器を無数に紫陽たちのいた場所へと放つ。両腕の翼を模した装置を数回振るい、二人が居た場所に羽根矢を放つが、土埃が晴れた時にはそこには誰も居なくなっていた。


「あらあら~どこにいったのかしら~」


 間延びしたミナーヴァの声がほんのわずかに届く距離、遠方の崩れた瓦礫の陰に、紫陽ときらりは居た。二人の体には無数の羽が突き刺さり、血が流れていたが、騒ぐことなく一本一本引き抜き、そっと地面に置き、小さく囁き合った。


「あはは~☆ まずいね~☆」

「……二階から目薬」

「しーちゃん、どう思う~☆」


 非常に悪い状況だった。向こうの攻撃が致命傷にならない程度ならば持久戦に持ち込むことができただろうが、今はもう紫陽すら仕留めかねない力を持っている。爪は紫陽の体で最も固い部分だ。あれが首だったらと考えると、うかつに身を晒してはいられない。

 きらりにしてみても、再生能力は桁外れだがいつまでも復活が可能なわけではない。現に今も羽を引き抜いた部分の穴が埋まるのが遅くなってきている。数回なら問題ないだろうが、十数回、数十回となると、どうなるかはきらりにも分からなかった。


「……このままじゃ押し切られる」

「うんうん~☆ ワタシも無限に残機あるわけじゃないし~☆」


 なにより恐ろしいのは、ハカセが言うところの回復能力に特化した覚醒をしているにも関わらず、この状況になってしまっているという事である。きらりはともかくとして、紫陽の爪は攻撃を受ける端から再生していたのだが、あっさりと折られてしまった。

 攻撃をするにしてもいまのままでは絶対に捉える事はできないだろう。下手に攻勢に出ればその隙を突かれて致命傷を負う事になりかねない。きらりの毒も効き目が薄くそれもつかえない。正しく八方ふさがりだ。


 だが、きらりの顔には相変わらず笑みが浮かんでいた。


「ちょっといいかな~☆」

「……ん?」


 きらりはつま先立ちになり紫陽に向けて背伸びをし、紫陽はきらりに向けて体を傾ける。きらりはわざとらしく手のひらを立て、そっと耳打ちした。


「試したいことがあるの~☆」


 その手には、禍々しい光を放つスマホが握られていた。


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