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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~悪魔狩りの一族~ 編
110/208

VS音無しの梟雌

 紫陽は、暗闇でミナーヴァの姿を見失っていた。彼女が立ち止まった場所は、いくつもの傾いたビルとビルが互いを支え合い、巨大なドーム状になっていた。その中心で紫陽は目を閉じ、周囲へ意識を集中した。


 道中口にした真理矢の血を混ぜた液体の効果で、彼女の各神経の性能は増幅されていた。以前使用したもののように巨大化などはできそうもないが、それでも能力の底上げは十分だった。

 神経を研ぎ澄ますと、廃ビルから別のビルへと移動する存在を感じる事ができる。今まで数多の悪魔、悪魔憑きを相手にしてきた紫陽だったが、そのどれよりも素早かった。動き回る気配の中に、ぴょこぴょこと跳ねるように近づいてくる気配が混じる。


「あはは~☆ 一人じゃ危ないよ~☆」

「……ごめん、きらり」

「怒ってないよ~☆ それにしても~あの人も毒効かないのかな~☆」 


 きらりは遠くを見回すように額に手を当て、そのままぐるりと周囲のビルを見回した。彼女の血には猛毒が含まれているが、周囲を飛び回る気配は一向にその動きを止めようとはしない。


「また耐性持ちか~☆ ついてな――」

 

 音の外れた声で愚痴る彼女の額に、何かが突き刺さった。きらりはがくんと後ろに倒れた頭を何でもないように戻し、額に刺さったものを引き抜いた。それは、金属でできた羽根のように見えた。

 ルディの言っていた通り、ミナーヴァは飛び道具を使えるようになっている。そう二人が理解すると同時に、四方から風切り音と共に羽の矢が二人を襲う。紫陽はとっさにきらりに覆いかぶさり彼女を守った。

 急所である頭部のみを爪で守り、後は刺さるに任せた。僅かな痛みを感じるが、服に似た紫陽の表皮を突き抜けるほどの威力はなかった。羽の雨が止み、立ち上がろうとしたその瞬間、耳の奥に突き刺さるような金属音と共に紫陽の体が浮いた。


「……!」

「あら~貴女も頑丈なのね~」


 間延びした声を残して、再びミナーヴァは姿を消した。ダメージはないものの、重量のある自分の体を浮かすほどの攻撃力があることに、紫陽は僅かに動揺した。飛び道具だけでなく、攻撃力もルディの知る頃より向上しているようだ。


「あはは~☆ 守ってくれなくてもワタシは死なないのに~☆」

「……つい」


 きらりは「やさし~☆」と首を傾けて笑うと、闇に向かって「ね~☆ どうして毒が効かないの~?」と叫んだ。少しの間を開けて、少し離れた場所の瓦礫に、音も無くミナーヴァが降り立った。


「あらあら~そんなことないわ~効いてるわ~」

「あはは~☆ そうは見えないけど~☆」

「毒の巡りを遅らせる訓練と、抗体を造る訓練はしたからね~」

「……抗体?」

「そうよ~貴女の毒は特別ね~毒を弱める事しかできないわ~」


 「お陰で動きが鈍いわ~」と言ってのけるミナーヴァだったが、二人が瞬きする間に音も無く別の瓦礫に移動した。二人が咄嗟に目で追うと「ほらね~」と眉を寄せて笑った。


「本気出せば目で追われる事なんてないはずなの~……これはお互い困ったわね~」


 ミナーヴァの言う通りであった。ルディの思惑通り、紫陽ときらりは彼女にしてみれば最悪の相性だろう。片や攻撃が通らず、片や攻撃を加えても意味がない。紫陽ときらりにしてみれば、ミナーヴァの動きを完全に捉える事は難しい。


「このままだと、ヴァル兄様に怒られちゃうわ~……だから――」


 ミナーヴァが弧を描いていた目を開けると同時に、小さな機械音と共に彼女の鼻から口元が黒いマスクの様な物に覆われた。猛禽のくちばしを模したような装飾が施されたそれを装着した途端、辺りの温度が下がったように二人は感じた。


「ちょっと乱暴にいくわ~……」


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