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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~悪魔狩りの一族~ 編
109/208

醜悪な悪魔ども

 一歩進むごとに、肌のひりつきが増していく。


 今までも何度もこういう感覚は味わった。何度体験しても慣れないけれど、今の私には自分のことよりも隣を歩く王狼さんの事が気掛かりだった。肌のひりつきが増すほど、王狼さんの吐息もまた荒くなっていく。

 皆もそれは気が付いていたけれど、わざわざそれを指摘はしなかった。王狼さんを気遣ってという部分もあったけれど、今向かって行く先に待っている人物の強さが肌で伝わってくるからだ。


 その二人の姿が視界に入ると、その緊張感は最高潮に達した。


「あらあら、ルディちゃんどうして……」

「念のため確認しておこう、その悪魔達を差し出しにきたわけではないのだな」

「……はい、違いますヴァル兄様」


 王狼さんは大きく息を吸い込み、震える声でそう言った。

 月を背にした大男と、梟の表情は分からない。

 

「悪魔に魂を売るのだな」

「いいえ、それも違います。家族を守りに来たのです」


 王狼さんはそう言って銃を、実の家族に向けた。それは王狼さんにとってどれほど恐ろしいことだろう、どれほど辛い事だろう。でも、彼女が決断したのなら、私たちにできる事はひとつだ。


「そこまで悪魔に魅入られたなら仕方ない。ここで殺し――」


 瞬間、銃声が夜の静寂を破った。王狼さんのものではない。千晴さんがリボルバーの引き金を引いたのだ。ヴァルカンが一瞬で大槌を持ち上げ、柄の部分で銃弾を弾いた。


「すぐに反応するなんで、頭が固いわりに体は柔らかいんだな」

「醜い悪魔が……」

「こんな美女捕まえて醜いはねえだろ。……こちとら家族にはもう会えねえってのによ、生きてる家族に向かって殺すだなんだと言いやがって……」

「悪魔の分際で家族を語るか」

「どっちが悪魔だかな。それにな、こいつはダチだ。そいつが馬鹿な家族に殺されるってんなら放っておけねえだろ。なあ、ヴァルにーさま?」


 千晴さんの軽口に答えず、ヴァルカンが獲物を構えた。その体から放たれる殺気で、全身の毛が皮膚ごと逆立ち、私は足が浮いたのかと思った。つまりかけた喉を必死に開き、何とか呼吸する。


「私もいるからね~」


 背後から聞こえたおっとりとした声。気が付くと前方からミナーヴァの姿はなく、後ろに回り込まれていた。とっさに振り返った私の顔に、飛沫が降りかかる。切り裂かれた蛙田さんの首から血が噴き出ていた。

 蛙田さんの首は肉と皮で何とかつながっている状態だったけれど、この人はそんなくらいじゃなんともない。首をぐわんぐわんと動かしながら、ミナーヴァに向かって蹴りを放つ。見た目かなりホラーだな相変わらず。


「あはは~☆ なんかいっつも狙われる~☆」

「あらあら…ずいぶんとタフなの――」


 蛙田さんの蹴りを苦も無くかわしたミナーヴァに、間髪入れずに花牙爪さんが飛びかかる。躱されるのも厭わず、爪でがれきをまき散らしながら襲い掛かる。うまく誘導してミナーヴァとの戦いに持っていくつもりなんだろう。


「あらあら~、ずいぶん強そうね~」


 まったく焦りの感じない声色でそう言うと、ミナーヴァは月明かりの届かないビルの陰に溶けていった。花牙爪さんはその闇に飛び込み、蛙田さんも「まかせて~☆」と言い残して花牙爪さんの後を追った。

 よし、予定通りに戦いが組めている。そう思った瞬間、すぐ横で大気が揺れた。比喩ではなく、その衝撃で私は吹き飛ばされ、ごろごろと地面を転がった。ゴブリンの体じゃないせいか、ぶつけた体のところどころが痛む。

 痛みに耐えながら顔を上げると、ヴァルカンが振り下ろした大槌を、千晴さんは刀で、王狼さんはどの刀を後ろから押さえるように銃身で受け止めていた。均衡を保っていたのは僅かな時間で、すぐに二人は吹き飛ばされた。


そうだ、予定通りの対戦カードになったからなんだっていうんだ。この二人の強さは尋常じゃないんだ。私は痛む体を無理やり動かして立ち上がった。なんとか、私も役に立たなくちゃ……!


「消え失せろ、醜悪な悪魔ども……!」


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