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⒆『小説の語法について』
⒆『小説の語法について』
㈠
簡単な物事を簡単に見るのではなく、複雑に見るということは、簡単なことではない。人間の本質は、簡単なものは簡単に、複雑なものは複雑に見る習慣があるからである。凡そ、簡単な物事を複雑に見るということは、それだけ見る者の力眼が発達していると言うことなのである。
㈡
それは語法でも同じで、簡単な語法で複雑な文章を作るということは、この上なく難しいことなのだ。しかし、叡智を備えた過去の数々の逸脱者的力学は、これを遣って退けるのである。これは、簡単な語法という、簡単に、複雑が組み込まれているということだろう。
㈢
つまり、簡単なことを複雑にやる、ということは、普通は考え付かない。利潤を追い求めれば、簡単なことを簡単にやった方が、早く物事が済むからである。小説の語法が、この様な場所にも使われているということを鑑みると、凡そ語法とは、複雑な形体を持っていると言わざるを得ないだろう。




