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9.音子ちゃんとダンジョンへ

 今日は日曜日、音子ちゃんがダンジョンの見学にやってくる日だ。

 お祖父ちゃんたちが間引きを頑張ってくれたおかげか、今のところダンジョンからモンスターがあふれ出てくる気配はありません。

 とは言っても、ダンジョンのことは分からないことだらけなので、絶対に安心と言うことはないのが実情です。


 今日もニュースで、どこそこのダンジョンからモンスターがあふれ出たとかいう話をやっていました。


 正直私にとっては、ダンジョンははた迷惑なやつという感想しかないのだけれど、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんは別の感想があるみたい。


 お祖父ちゃんはダンジョンに潜るようになってから、体の調子がいいと言っています。

 ダンジョン探索がちょうど良い運動になっているんだそうです。

 実際、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんもダンジョンに潜るようになってから、少し若々しくなったみたい。

 私としては、この調子で二人には元気で長生きしてもらいたいです。


 一方、お祖母ちゃんやお母さんにとっては、ウサギの肉が手に入って食費が助かるのが大きいみたい。

 私もお肉やスライムまんじゅうは好物だからいいんだけれど、お姉ちゃんにとっては逆に変な食べ物が手に入ることが許せないみたい。

 相変わらず、お姉ちゃんは自分の食事だけは別に作って、ダンジョン産の食べ物が混じらないよう警戒しています。


 確か音子ちゃんがやってくるのは9時の予定だと思って、ふと外を見てみるとそこには既に音子ちゃんの姿がありました。

 まだ、8時だというのに音子ちゃんは何をしているのでしょう。

 しかも、うちに入っても来ないで外で待っているなんてどうしたのかな。


 私は外に出て音子ちゃんに声を掛けます。

「おはよう、音子ちゃん。随分と早いね」

 音子ちゃんは、ばつが悪そうに視線をそらしながら「おはよう」と挨拶を返してきます。

「そんなところで何をしているの。中に入ったら?」


「でも、まだ約束の時間まで随分あるし迷惑じゃないかしら」

「大丈夫だよ。外にいられる方が気になるよ」

 そう言いながら音子ちゃんを家に招待します。

「そう、それじゃあお邪魔させてもらうわ」

 音子ちゃんは申し訳なさそうに家に上がってきます。


「お母さん、少し早いけど音子ちゃんが来たよ」

「すみません。約束に遅れないよう早く家を出たら、予定より早くついてしまいました」

 恐縮する音子ちゃんに、お母さんは笑って声を掛けます。


「まあまあ、遠慮せずに上がってください。朝食はもう済んだのかしら? デザートのスライムまんじゅうだけでもどうかしら」

 その言葉を聞いて音子ちゃんの態度が変わります。

「頂きます」


 音子ちゃんの前にスライムまんじゅうが差し出されます。

「これが、スライムの核なのね」

 音子ちゃんは感動のあまり、まるでスライムのようにぷるぷると震えています。

「いただきます」

 そう言って、音子ちゃんはまんじゅうにスプーンを入れます。


 音子ちゃんはスプーンに乗ったまんじゅうを、一瞬たりとも見逃してたまるものかという目で眺めていました。 

 その後、恐る恐ると言う雰囲気でスプーンを口に運びます。

 じっくりと口の中で味を確かめながら、一口ずつ味わいながらまんじゅうを食べていきます。


 その音子ちゃんの口が一瞬止まります。口の中をもごもごしていたと思うと、小さな石を口の中から取り出します。

 それを見て私は音子ちゃんに告げます。


「あ、それ当たりだよ」

「当たり?」

 不思議そうに呟く音子ちゃんに、私は説明します。

「スライムまんじゅうの中に魔石が入っているのが混じっているの。まあ、だいたい2個に1個は入っているからそう珍しいものでも無いんだけれどもね」


「そう、これがスライムの魔石なのね」

 音子ちゃんは真剣な顔になるとその石をじっくりと眺めます。


「ねえ、この魔石私が貰ってもいいかしら」

 音子ちゃんの質問は予想通りでした。私はそのことに微笑むと、「どうぞ」と答えました。

 音子ちゃんは持ってきていたリュックからプラスチックケースを取り出すと、大事そうにその石を仕舞いました。


 音子ちゃんがスライムまんじゅうを食べ終わると、いよいよダンジョン探索です。

 予定の時間より少し早いですが、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの準備はもうできていました。


 私たちも、急いで準備を整えると私の部屋のクローゼットの前に集合しました。

 私たちは汚れてもいいように、お出かけ用の服から作業着に着替えています。


 クローゼットを開けて、ダンジョンの入り口となる鳥居が飛び出すと、音子ちゃんが息を飲むのが分かりました。


「これは想像以上にすごいわね。明らかに空間が歪んでいる感じね」

「音子ちゃんこの鳥居について何か分かる?」

 しかし、音子ちゃんの答えは悔しそうなものでした。


「無理ね。さすがにこれだけのものとなると一介の高校生が調査するには手に余るわ」

 そう言いながらも、音子ちゃんの目には諦めは見えません。今はまだ手が届かなくても、いつかきっとこの鳥居の謎を解き明かして見せるという決意が現れています。


 そんな音子ちゃんの様子を見ているとなんだか私も嬉しくなり、彼女に抱き着いてしまいます。

「きゃ、いきなり何をするのよ」

「えー、だって音子ちゃんかっこいいんだもの」

「何のことか分からないけれど、離れなさい」

 そんな私たちの様子をお祖父ちゃんたちは微笑ましそうに見ています。


「ほら、二人を待たせているからさっさと行くわよ」

「はーい」

 音子ちゃんは少し恥ずかしそうに、お祖父ちゃんたちに話しかけます。

「お待たせしました。今日はよろしくお願いします」

「なに構わんよ。わしらにとってもいい気晴らしになるしの」

「音子さん、いつも孫と仲良くしてくれてありがとうね。これからもよろしくお願いしますね」

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは、そんな風に音子ちゃんと挨拶を交わしています。

「さて、準備はいいな。ダンジョンに入るぞ」

 お祖父ちゃんの合図で私たちは一列になって鳥居をくぐります。


 鳥居をくぐった先は一面の大草原でした。地平線が見える景色なんて私は初めて見ました。

「わあ、すごく気持ちのいい景色ね」

 私の感嘆の声に、音子ちゃんも「そうね」と答えます。

 私はこの景色をずっと眺めていたかったのですが、音子ちゃんは違う様でした。

 地面にしゃがみ込み、土や草を採取しています。


「音子ちゃん何しているの」

「ダンジョン内の環境を確認している所よ。やはりここは変ね。普通なら小さな虫などが地面にいるものだけれども、ざっと見渡した限りではそれらがいないわ」

 そう言いながら、草や土を除けて虫がいないか探しています。


「やっぱりあのテレパシーの人が人工的に作り出した環境なのかな?」

「さっきおばあ様も、あの青い空は天井に映された幻影のようなものだと言っていたし、人工物であるのは間違いないでしょうね」


 音子ちゃんの言葉に私は少しがっかりとします。

「天井があるの? じゃああの地平線とかも偽物なの?」

「おばあ様の話ではだいたい1キロメートル四方の部屋になっているそうよ」



「1キロメートルか、相当大きいのは確かだけれどあの地平線を見た後だと微妙だね」

「そうね、せめて5キロメートル以上にしておけば本物の地平線が見えたかもしれないわね」

 音子ちゃんの言葉に首をかしげます。


「5キロメートルって何?」

「地球で平均的な身長の人から見た地平線までの距離がだいたいそのくらいなのよ。もっとも、この部屋が球面になっているとは限らないのだけれどもね」

「そうなんだあ」

 私はよくわからないけれど適当に相槌を打ちます。


「どうする? もう少しここにおるか? それともそろそろ移動するか?」

 お祖父ちゃんが少し離れたところから、私たちに聞いてきます。

「音子ちゃん、どうする?」


「そうね、一か所に留まっていても仕方がないわね。そろそろ移動しましょう」

「分かった。お祖父ちゃんそろそろ移動するって」

 私はお祖父ちゃんにそう声を掛けます。


「おお、急かせたようですまんな」

 お祖父ちゃんは音子ちゃんにそう謝ります。

「いえ、こちらこそお待たせしてすみません」

 音子ちゃんもお祖父ちゃんに謝っています。

「二人とも謝ってばかりじゃ仕方ないよ。さあ、次はウサギ退治だよ」


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