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8.モンスターハウス(三崎重蔵 視点)

 20メートルほど進んだとき、メロンソーダのゼリーでできた丸いクッションのようなモンスターが現れた。

 そいつは、ぽよんぽよんと音がしそうな弾むような動きでゆっくりとわしら近づいてきた。


「スライムですね」

 菜奈さんがそのモンスターのことをそう呼んだ。

「情報によると核がおいしいそうですよ」


「まずは、わしが戦ってみる。菜奈さんは周囲を警戒しといてくれ」

 そう言って、わしはスコップを構え前に出る。

 ぽよぽよと弾みながら近づいてきたスライムに、タイミングを合わせてスコップを振り下ろした。

 スライムは一瞬だけ弾力でスコップに抵抗したものの、次の瞬間にはぺちゃりと音を立ててつぶれてしまった。


 ウサギ同様簡単に倒されたスライムを見てわしは安堵のあまり一瞬気を抜いてしまった。

「あなた!」

 菜奈さんから警告の言葉が発せられたのはその時だった。


 しかし、警告は少し遅かったようだ。

 わしの顔に影から飛び出してきたもう一匹のスライムが張り付いた。

 窒息しそうになりわしは慌ててそいつを顔から引きはがそうとする。しかし、ヌルヌルと滑ってしまいなかなか上手く行かない。

 わしは焦りのあまり、スライムのぽよぽよとした体の中に手を突っ込みかき回す。

 それが功を奏したのか、スライムは力を失いぬるりと顔からはがれて行った。


 ぜえぜえと息をしながら辺りを見渡すと、なんと数十匹のスライムが周囲を飛び跳ねていた。

「なんじゃこれは⁉」

 わしが驚きの声を上げると、ハンマーを振り回してスライムたちを相手にしていた菜奈さんが答える。


「どうやら、モンスターハウス、モンスターの集団の中にさまよいこんでしまったようです」

 菜奈さんの言葉を理解する暇もなく、スライムが次々と襲い掛かってくる。


 一匹一匹は対して強くもないが、何しろ数が多い。それに、さっきのように顔に張り付かれれば命の危険が無いとも言い切れない。

 わしらはお互いに背を守るようにして、必死になってスライムを倒していった。


 半数ほどを倒したときであろうか、それまで仲間が倒されてもお構いなしに攻撃してきたスライムが逃走に移った。

 わしらは、疲労と安堵のあまり、逃げるスライムを追いかけるのも忘れ、その場に立ちつくしてしまった。


「はあ、びっくりしたわい」

 わしの呟きに、奈菜さんも疲れた声で答える。


「ええ、ここまでモンスターが増えているとは思いませんでした」

「と言うことは、逃げたあれも何とかせんと、モンスターがあふれ出す恐れがあるのか」

「一応、半分は減らしましたが、もう少し減らした方がいいかもしれませんね」


「そうは言ってもさすがに疲れたわい。一端家に戻って休憩したほうがよさそうじゃ」

「そうですね。そうしましょうか」

 菜奈さんもわしの意見に賛成する。


「少し待っていてくださいね。無事なスライムの核を集めておきますから」


 あの戦闘の後で食べ物を集めようとする菜奈さんのたくましさにわしは感心する。

 疲労を感じておったわしにも男の意地がある。なるべく平気そうな顔をして菜奈さんに手伝いを申し出た。菜奈さんはわしの状態に気づいていたようだが、何も言わずに申し出を受けてくれた。


「あら、どうもあのスライムには核が2個あるようですね。2つずつ対になって落ちています」

 菜奈さんが不意にそんなことを言う。言われてみれば核は2つずつまとまって落ちているようだ。

 あの戦闘の後でよくそんなことに気づく余裕があるものだと感心しながら、わしは無事なスライムの核を探して回った。

 さすがに激しい戦闘の後とあって無事な核は少なかったが、それでも10個あまりの核が集まった。


「この核はどうやって食べるのじゃ?」

「何でも、一度湯がいてから冷やすと水まんじゅうのようでおいしいということです」

「いったい誰がそんなことを調べとるのかのう」

 わしは奇特な人間もいるものじゃと感心したが、奈菜さんは格別不思議には思ってはいないようだった。

「さあ? 私たちのようにモンスター料理に興味を持った誰かが調べているのでしょう」

「いや、わしは特別モンスターを食べたいと思っている訳じゃないんだが……」


 帰り道もウサギを狩りながら草原を歩く。

 いい加減疲れて来たところで、ダンジョンの出口となる鳥居が見えてきた。

「やれやれ、やっと帰ってこれたか」

 わしはぼやきながら加奈の部屋に足を踏み入れる。

 土足を脱いで後に続く、奈菜さんのために場所を空けてやると、ほどなくして彼女も部屋に戻ってきた。


「あなた、ウサギの肉を冷蔵庫に仕舞いたいのでキッチンの方に移動しましょう」

 菜奈さんの声にわしは相槌を打つ。

「分かった、そうしようかの」


 わしは、キッチンにウサギ肉の入ったリュックを置いた後、疲れ果ててリビングの椅子に腰を下ろした。

 一方の菜奈さんは、キッチンで忙しそうに料理を始めた。まったくこういう時の女性のスタミナには

かなわんのうと感心しながら、わしは菜奈さんを眺める。


「あなた、今日のお昼は簡単に親子丼でいいかしら?」

 菜奈さんからの質問にわしは「それでかまわん」と答える。

 ほどなくして、奈菜さんが親子丼の入ったどんぶりを持ってリビングにやってきた。


「いつもいつも、すまんのう」

 わしは菜奈さんにそう言って礼を言う。

「突然なんですか」

「いや、わしと同じように疲れとるはずの菜奈さんにばかり、食事の支度をさせていることが申し訳なくてな」


 菜奈さんは、苦笑しながら答える。

「料理は昔からずっとやってきましたから、今では慣れたものですよ。それに今日のお昼は手抜きもいいところですから、そう(かしこ)まられると却って恐縮してしまいますよ。さあ、そんなことより冷めないうちにお昼を食べてしまいましょう」

 菜奈さんにそう言われて、わしらは「いただきます」と言って親子丼を食べた。

 菜奈さんは、手抜き料理といったが外食で食べる親子丼に負けない味がした。


 親子丼を食べ終わった後、奈菜さんは水まんじゅうを出してきた。

「これがスライムの核を調理したものです。熱湯で湯がいた後、氷水に漬けて荒熱を取ったものですよ。作り方も見た目も水まんじゅうと同じですね」

 水まんじゅうの作り方など知らないわしは、菜奈さんの言葉にもっともらしく「うむ」と相槌をついた。


 スプーンですくうと、本物の水まんじゅうと同じようにぷるぷるとした触感が伝わってくる。

 ただし、本物の水まんじゅうは中心は餡子であるのに対して、スライムの核は中心までゼリー質のようであった。

 スプーンを口に入れると、くず粉特有のぷるぷる感が広がる。いやこれはスライムだから、スライムの食感はくず粉そのものと言うべきであろうか。

 中心の部分は、水ようかんをさらに濃厚にしたようなまろやかな甘みを持っており、それが周囲の部分の淡白な甘みと何とも言えない調和を保っていた。


「これは美味いのう」

 わしは目を細めながら(うなづ)く。

 菜奈さんも、それには同感のようで夢中でスプーンを動かしている。

 わしは、茶を一服口にした。

 口の中に残ったスライムの甘みが、茶の渋みをまろやかにし、茶の香りを引き立てる。

「うむ、茶ともよく合うな」

 わしがそう言うと菜奈さんも茶を口に含みゆっくりと頷いた。

 そのようにして、少しの間わしらは静かにスライムまんじゅうの味を楽しんだ。


 スライムまんじゅうを食べ終えてしばらくしてから、奈菜さんがわしに聞いてきた。

「あなた、午前中の探索でまたレベルが上がっているはずですから、午後の探索の前にステータスの更新処理をやっておいた方がいいのではないかしら」

「そう言えば今日は腰の具合が普段よりもいいな。もしかしてこれもステータスを向上させた効果かな」

 わしは自分でも半信半疑だったがとりあえずそう言ってみる。


「そうかも知れませんね。まあ、どの程度の効果があるのかはともかく、やっておいて損はないでしょう」

 お互いにステータスを確認したところ、レベルが1から4に上がっていることが分かった。得られたステータスポイントは6ポイントである。


 わしと菜奈さんはお互いに相談しながら、まずは10以下の弱点を補強するためにステータスポイントを使用することにした。


 その後、1時間程休憩を取った後、逃げ延びたスライムを退治するため再度ダンジョンに潜ることにした。

 ステータスを上げた効果か、午後の探索は午前中よりも疲れが少ないような気もした。

 もっとも、午前中はスライムの巣に突っ込むというアクシデントがあったため比較にはならないのかもしれない。


 それよりも、逃げたスライムが散らばってしまい、結局午後の探索では9匹しかスライムを狩れなかった方が問題だ。

 まだ、しばらくはモンスターの間引きを続ける必要がありそうだ。


 ああ、そうそう加奈の部屋に戻るときは、まず菜奈さんに様子を確認してもらうことにした。

 昨日のように着替え中の加奈と鉢合わせするわけにはいかんからな。


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