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6.探索結果の報告

「おはよう」

 翌日学校へ行くと早速、音子ちゃんが近くに寄ってきた。

「おはよう。それで、日曜日の予定はどうなったのかしら」


「お祖父ちゃんに聞いたら、一緒に行っても良いって言ってくれたよ」

「そうよかったわ」

 そう言うと、音子ちゃんは花が咲きほころぶような笑顔を見せてくれた。

 こんなに喜んでくれるなんて、音子ちゃんは相当ダンジョンが好きなんだなあ。


「疑問なんだけれど、音子ちゃんは何でそんなにダンジョンに興味があるの?」

「ダンジョンというか、ロールプレイングゲームとかその手のゲームね。女の子らしくはないかもしれないけれど、冒険とか未知への探検とか言う言葉にあこがれるじゃない」


「ふうん、うちのお祖母ちゃんも似た様なことを言っていたなあ。やっぱり、音子ちゃんうちのお祖母ちゃんと気が合うかもね」

「そうなの? ぜひ一度お会いしてみたいわね」

「日曜日に会えると思うよ」


「あ、でもダンジョンと言っても危険のないテーマパークのようだってお祖父ちゃんが言っていた。冒険と言うには期待外れかもしれないけれど、それでも良いの?」


 私の質問に音子ちゃんは目を輝かせながら解説してくれる。

「まずは、実物を見て調べてみなければ何も分からないわ。確かに一部では物質的な財宝もなければ、超人的な力が得られる訳でもないから、つまらないと言う人も少なくないのは知っているわ。でも、ダンジョンは存在そのものが現在の人類の知識を超えた代物よ。つまり、ダンジョンそのものが、未知なる知識の宝庫と言ってもいいわ」


 話しているうちに興奮してきたのか、音子ちゃんが早口になる。

「もちろん、こんなことに気づいているのは私だけじゃないことは分かっている。今も世界中の科学者が新たなる知識と言う財宝を求めて探求の旅に出ているのは分かっている。でも、せっかくこんな時代に生まれたのだもの、私もその調査の一角に加わってみたいと思っているの」


 熱く自分の意見を語る音子ちゃんに圧倒され、私はしばらく呆然としていた

「ほえ~、音子ちゃんそんなこと考えていたんだ」


 自分が興奮しすぎていたことに気づいたのか、音子ちゃんが耳まで真っ赤になる。

「熱くなり過ぎたみたいね。変なこと言っちゃってごめんなさい」

「ううん、いいよ。むしろ、感心しちゃった。音子ちゃんは理系志望なの?」

「ええ、そうね。この春までは迷っていたけれど、ダンジョンができたのを知って決心したわ」

「すごいね。私なんか、数学が苦手だから文系に進もうというだけで、自分の進路まではまだ考えていないもの」


 その時真由美ちゃんが教室にちょうどやって来た。

「おはよう、加奈ちゃん、音子ちゃん」

「おはよう真由美ちゃん」

「もうすぐ、予鈴よ。席に着いた方がいいんじゃないかしら」

 真由美ちゃんがそう言う。

「そうね、この続きはお昼にしましょう」



 お昼休みは、私たち三人で机を寄せ合いお弁当を広げる。

 お弁当の準備ができると、音子ちゃんが早速ダンジョンの話を切り出してきた。

「それで、ダンジョンの様子はどんな具合だって言っていたの?」

「ダンジョンの中に草原が広がっていて、ウサギが出たって言っていたよ。やたらと、体当たりをしてくるけれど、ぬいぐるみをぶつけられたみたいで大して痛くないんだって」

「ふうん、ゲームのおどろおどろしい雰囲気とはずいぶん違うのね」


「あ、そうだ。今日のお昼のおかずそのウサギのモンスターのお肉なんだけど、音子ちゃん食べる?」

 そう言ったとたん、音子ちゃんの目が私のお弁当にくぎ付けになる。

「いただくわ。私のハンバーグと交換しましょう」

「真由美ちゃんもいる?」

「それじゃあ、私はこの唐揚げと交換でいいかしら」


「うん、いいよ。ごめんね昨日の夕食のシチューの残りもので」

「いいわよ。うん、少し硬いけれどあっさりした味ね」

「あら、ウサギの肉の味って鶏肉に似ているんですね」

 真由美ちゃんがそう感想を述べる。


「それにしても、ウサギなんてどうやって(さば)いたの?」

 音子ちゃんの疑問に、唐揚げを食べていた私が答える。

「お祖母ちゃんと一緒に私が捌いたんだよ。お魚を捌く時の応用だよ」

「魚とウサギじゃあ随分違うと思うんだけれど、器用なものね」

 音子ちゃんが感心したようにそう呟く。


「私も調理部ですけれど、もっぱらお菓子作りばかりで、ウサギどころか魚を捌く自信もないですね。少しお魚料理にも挑戦した方がいいのかしら」

 真由美ちゃんもぽつりと呟く。


「あら、経験値が入ってステータスが閲覧可能になったってメッセージが流れたわ」

 音子ちゃんの言葉に、真由美ちゃんが「私も聞こえたわ」と答えた。

「あ、言うのを忘れていた。モンスターのお肉を食べると微量だけれど経験値が入るんだった」

 私の言葉に、音子ちゃんは「そういうことは先に言いなさい」と答える。

 そう言いつつも、音子ちゃんは自分のステータスを出してそれを確認するのに忙しいみたい。


 音子ちゃんが一通りステータスを確認して満足したのを見てから、私はダンジョンに関する次の話題を口にする。いや、音子ちゃんの真剣な表情に圧倒されて忘れていたわけじゃないよ。

「そういえば、音子ちゃん。ウサギを捌いているときに心臓から小石が出てきたんだけれど欲しい? お祖母ちゃんは、まるで魔石みたいだとか言っていたけれど……」

「魔石! それはぜひ見てみたいわ。今持っているの?」

 音子ちゃんが大声で叫ぶ。私はその剣幕に驚かされる。

「今は持ってないよ。家に置いてきちゃった。明日持ってくるね」

「お願い」


 真由美ちゃんがその言葉に不思議そうに首をかしげる。

「魔石って何なんですか?」

 その質問には音子ちゃんが意気込んで答える。

「魔石と言うのは、ゲームなんかだと魔法のもとになったり、売ってお金に変えられたりできるものよ。ゲームにもよるけど万能のエネルギー源として扱われることもあるみたい」

 例によって音子ちゃんが暴走気味になるのを、私と真由美ちゃんが可笑しそうに眺める。


「あくまで魔石みたいであって、魔石そのものと決まった訳じゃないってお祖母ちゃんは言っていたよ。期待しすぎるとがっかりするかも」

 私は、お祖母ちゃんからの情報を音子ちゃんに伝えたけれども、音子ちゃんはそんなことはお構いなしだった。

「構わないわ。本物かどうかを調べるのも、ダンジョン探索のうちだもの」


「そういえば、ダンジョンにはかわいい蛇やトカゲはいなかったのかしら?」

 爬虫類好きの真由美ちゃんがそう尋ねてくる。

「お祖父ちゃんたちが見かけたのはウサギだけだよ。もっとも昨日はあまり奥まで行かなかったそうだから、いないと決まった訳じゃないけれど……」


「お願いね。できれば、新しい子をペットとして迎え入れたいの」

 真由美ちゃんがかわいらしくお願いのポーズをとる。ただ、対象は爬虫類なんだよなあ。


「でも、ダンジョンから出たら死んじゃうんじゃない」

 私は、不安になってそう言ったけれど、真由美ちゃんはポジティブだった。

「それはモンスターの場合でしょう。もしかしたら、モンスター以外の普通のトカゲがいるかもしれないじゃない」

「いるのかなあ? まあ、見かけたら教えてくれるようにお祖父ちゃんたちに言っておくよ」

「お願いね」


 その言葉を聞いて音子ちゃんがぶつぶつと何かを呟き始める。

「そうか、草原と言うことは、ウサギ以外にも小さな昆虫や微生物がいる可能性が……。いえ、そもそも生えている草はどんな植物なのかしら。それらは、ダンジョンから連れ出しても生きていられるのか、それともモンスターと同じように死んでしまうのか……」

 ああ、また音子ちゃんが暴走してる。


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