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11.ダンジョンツアーの提案(三崎重蔵 視点)

 月曜日、今日は近所の老人会の主催でゲートボールが行なわれる日だ。

 先週はダンジョンの騒ぎで参加できなかったから、ずいぶん久しぶりのような気がする。

 わしと菜奈さんが会場となっている近くの公園に行くと、もうすでに人が集まっていた。


「よお、みんな久しぶりだな。先週は用事があって出れなんだからすまんかったの」

「なに構わんよ。病気とかで無かったのなら何よりだ」

 そう言ってくれたのは、ご近所に住む樋口さんのご隠居だ。

 会社を定年退職してからは、悠々自適の隠居暮らしだと言っている。

 もっとも、実際にはやることがなくなって暇を持て余しておるのは、わしら男衆に共通の悩みだ。


 その点わしは幸運なのかもしれん。

 菜奈さんがこうして近所の集まりに定期的に連れ出してくれるし、最近はダンジョンでの間引きと言う仕事もできて暇を持て余すこともない。


「お前さん、何か化粧でもしとるのか」

 樋口さんの問いかけにわしはびっくりする。

「いや、わしは男だぞ。役者でもあるまいし、特に化粧などするわけがない」


「そりゃそうだ。だが、やけに若々しく見えたんでな。馬鹿なことを言って済まない」

 樋口さんの言葉にわしはしばし考え込む。

「そういえば、孫にも同じようなことを言われたな。最近ダンジョンでモンスターの間引きをしているのだが、それがちょうどいい運動になっとるのかもしれん」


「ダンジョンていうと、モンスターがあふれ出して悪臭騒ぎの原因になるとかいうあのダンジョンか? そんなものどこにできたんじゃ?」

 樋口さんの驚きの声に、わしは安心させるように答える。


「ダンジョンができたのはうちの自宅の孫の部屋じゃ。なに、騒ぎが起きんように間引きを定期的にしとるから安心しても良いぞ」


 樋口さんは安堵したように頷いた後、心配そうにわしに問いかけてきた。

「しかし、お互いにいい歳じゃ。激しい運動はかえって良くないのだが、ダンジョンの間引きとやらは大丈夫なのかね」  


「むしろ、間引きを始めてから体の調子が良い。わしの腰の具合もすっかり良くなったわ。あれじゃな、ダンジョンでのレベルアップだかステータスアップだか言うやつが、体に良いのかもしれんのう」


 その言葉を聞いて、樋口さんも少しはダンジョンに興味を持ったようでした。 

「ほう、ダンジョンにはそんな効果があるのか? わしの膝の具合も良くなるかのう」

「うむ、暇なら試してみるのも良いかもしれん。もっとも、ダンジョンは孫の部屋にあるから、孫に入ってもいいか許可を取る必要があるがな」


 わしと樋口さんが話していると、奈菜さんがご近所の奥さんたちを引き連れてやってきた。

「あなた、こちらの方たちに最近若く見えるわねと言われて、その秘訣を聞かれたの。それで、ダンジョンに潜ってモンスターの間引きをしているのが、美容と健康にいいんじゃないかという話になったの。今度、みなさんを連れてダンジョンに潜ってもいいかしら」


「わしは構わんが、加奈が何というかだな」

「加奈さんなら、私の方から説得してみますわ」

 やれやれこういう時の行動力は女性にはかなわんなと、わしと樋口さんは顔を見合わせて苦笑した。


「そういうことなら、みんなで行くダンジョンツアーでも組むかの」

「そうね、日を合わせてできるだけ大勢の方が参加できるようにしましょう」

「そうは言っても、人数が多すぎるとレベルアップの効率が下がってしまう。わしと菜奈さんがそれぞれ別のパーティを率いるにしても10人程度が限界ではないのかな。それ以上の人数になるなら何回かに分けた方がよいかもしれん」


 わしの意見には菜奈さんも同意する。

「確かにそれはその通りですね。むしろ、ウサギの(さば)き方まで教えるとなると、さらに人数を絞った方がいいのかも知れませんね」


 菜奈さんの話にわしは意外そうに答える。

「ウサギの捌き方まで教えるのか?」

「少しでも家計を安く上げるために、ウサギ肉を無料で手に入れたい。だから、ウサギの捌き方を、ぜひ教えて欲しいと奥様方から頼まれたのですよ」


 言われてみれば納得の答えに、わしは実際に捌く光景を想像してみた。

「なるほどな。確かに、キッチンで実際に捌いて見せるにしても、人数が多すぎるとキッチンに入りきれなくなるしな」


 菜奈さんとわしの二人は相談してダンジョンツアーの詳細を詰めてゆく。

「それなら2パーティで合計6人程度が適切ですかね」

「そうじゃな、1回3人ずつ相手に実演して見せるのならばうちのキッチンでも何とかなるだろう」


「1回の人数が少ない分、ツアーの回数を増やす必要がありますね」

「捌き方の実習が終わったら、ツアー人数を増やすのもいいかもしれんな」

「そうですね」



 その日の夕食の席で加奈にダンジョンツアーの許可を取ることにした。

 早速、奈菜さんが加奈に話を切り出す。

「今日のゲートボールの時に話が出たのだけれど、ダンジョンが健康にいいならご近所の老人会のみんなもモンスターの間引きに参加したいということになったのよ。ご老人方を加奈さんの部屋に招待してもいいかしら」


 美奈はその話を聞いて、嫌そうな顔をしている。

「加奈、もし、どこの誰とも分からない人を部屋に上げるのが嫌なら断ってもいいんだよ」


 しかし、加奈は特に困った顔もせずに賛成してくれた。

「お姉ちゃんは知らない人っていうけれども、お祖母ちゃんとお祖父ちゃんの知り合いでしょう? だったら、全く知らない人と言う訳でも無いんじゃないかな。私は構わないよ」


 本当に加奈はいい子じゃの。普通は美奈のように自分の部屋に他人を入れるのは嫌いそうなものじゃが。


 わしは、加奈が気を使っているのではないかと思って提案してみた。

「もし、自分の部屋に他人が入るのが気になるようだったら、わしらの部屋と交換してもよいぞ」


「やったね、あの大きな部屋と交換なんだ」

 美奈が自分のことでもないのに歓声を上げる。

 しかし、加奈はわしの提案を断った。

「そんな、あの部屋はお祖父ちゃんとお祖母ちゃん二人の部屋でしょう。私の部屋は二人には狭いから交換しなくてもいいよ」


「それならは、私と母さんの部屋と交換するか? 平日は寝るぐらいにしか使ってないから多少狭くても構わないぞ」

 息子夫婦も気を使ってそう提案してくれるが、加奈は首を横に振る。


 そんな加奈の様子を見て、奈菜さんが助け舟を出してくれた。

「そういえば、クローゼットを移動できるかどうか試してみたことがありませんでしたね。クローゼットごとダンジョンを移動できるなら、それでいいんじゃないかしら。夕食の後で試してみましょう」


「まだ、クローゼットの下の段の引き出しに下着が入ったままだから、少し待って欲しいな」

 加奈の答えに、美奈が呆れたような声を出します。


「まだ、あのクローゼット使ってたんだ。次に、洋服がダンジョンに吸い込まれて無くなっても、あたしは服をあげないからね」

「きっと、大丈夫だよ、お姉ちゃん」

「あなたのその楽天的な思考にはついていけないわ」

 加奈の答えを聞いて、美奈が呟いた。



 夕食後、加奈がクローゼットの整理を済ませてから、クローゼットの移動を試してみることにした。

 しかし、クローゼットは地面に根が生えたように、びくりとも動かない。


 わしと息子で少しだけでもずらすことができないかと、色々と試してみたが、前後にも横にもピクリとも動かない。ましてや、持ち上げることなどとてもできそうにない。

 扉の開閉状態によって移動可否が変わるかと思って、扉を閉めた状態はもちろん、扉を開けて鳥居が現れた状態でも試してみたが結果は変わらなかった。


「これは、とうてい移動できそうにないのう。後はクローゼットを壊してみるぐらいじゃが、それで良い結果になるとも思えん」


「そうですね。クローゼットを壊しても運が良ければ、鳥居がそのままの位置に残るかもしれませんが、最悪の場合予期せぬ事故が発生するかもしれません」


 菜奈さんの言葉に、美奈が顔をしかめて呟く。

「最悪の事態って、何? ブラックホールでも発生するとか……」

「絶対にないとは言えんのう」


「そんなの嫌よ。もうこんなもの放置して引越しましょう」

 美奈は半ば泣きそうになりながら、そう提案する。


「お姉ちゃん、きっと大丈夫だよ。あのテレパシーの人だってそんな危ないものを市街地に造ったりしないよ。それにクローゼットをこの位置に置いたままにしとけば問題はないんだから」

 加奈は、心配いらないと美奈を慰める。


「どうする、美奈がこの家に住むのがどうしても嫌だと言うなら、美奈だけ引っ越すという手もあるが……」

 息子がそう提案してくるが、それには美奈が嫌がる。


「そんなことできるわけないでしょう。ああ、もうどうしてみんなそんなにお気楽なのよ。これは、私がみんなの分まで気を付けるしかないじゃないの」

 美奈はみんなの様子を見て逆に何かやる気になった様で、だんだん落ち着いてきた。


「それで、加奈の部屋をどうするかは決めたの?」

「私は今のままでいいわよ」

 美奈の問いに、加奈がそう答える。

「はあ、加奈がそういうのなら仕方ないわね。もし、嫌になったらあたしにいなさい」

「はーい」


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