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ワイズサーガ  作者: 槙弘樹
第二部「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」
60/64

強酸の海

  59


 確かな手応えを得てからも、オウバルパ・ジィンファウスは引鉄(トリガー)を絞り続けた。

 ただそれだけのことでも体力を消耗した。

 発火した左腕の損傷があまりに大きすぎるのだ。

 封貝は主の生命力が大きく削られた場合、維持回復に力を割くようになる。

 必然、その分だけ攻撃に回される力は減じる。

 いまや〈遠距離用封貝(フォックス・ツー)〉の威力は普段の半分にも満たないはずだ。


 それでも轟き渡る銃声の合間を縫って、弾丸が人体を削り血と肉片をまき散らすとき特有の、びちゃびちゃという怪音が耳に届いてくる。

 負傷で弱体化しているのは敵も同じだということだ。

 先住民族(オクスゥ)どもの家屋へ吹っ飛んでいった無印級封貝使い(ワイズサーガ)は、既に数十発の弾丸を全身に浴びているはずだ。

 もはやばらばらに砕け散り、人の姿を留めていないかもしれない。


「グ………ハァ――ッ」

 遂に限界が訪れた。

 糸が切れたように突然、封貝を支えていることすらできなくなる。

 銃口がほとんど真下に垂れ下がり、足元の地面を穿(うが)ちはじめた。

 オウバルパは発砲をやめ、その場に崩れ落ちた。

 支えにしていた移動用(ヴィクター)ペルナからも滑り落ちる。

 いつの間にか手からこぼれ落ちていた突撃小銃を尻が下敷きにするが、もう痛みすら感じなかった。

 ただ重たい衝撃がじわりと毒のように広がっていくのみだ。


 凍った湖に転落した間抜けのように、全身が冷え切っている。

 まるで死体だった。

 なのに、脳は()だっている。

 ただ座っているだけでも息が切れる。

 高熱で視界が歪み、時にぐるぐると回るような錯覚に襲われることすらあった。


「くそが……」

 荒い呼吸を繰り返しながら、オウバルパはかすれた声で吐き捨てた。

 膝の高さに浮いているヴィクター・ペルナに肘をかけ、苦労して上半身を引っ張り上げた。

 溺れた人間がボートへすがりつくように、封貝に乗り込む。


 ワイズサーガが突っ込んだ掘っ立て小屋は、銃撃の嵐で壁の大半が吹っ飛んでいた。

 オウバルパが視線を向けると、屋根近くに残っていた板材の一部が、力尽きたように落下していった。

 内部の床には、凄まじい大きさの血溜まりが広がっていた。

 明らかに致死量を超えた鮮血で作られたものだった。


 予想通り、ワイズサーガの肉体は銃弾を(あめ)(あられ)と受けて見事に四散していた。

 広範囲に血に(まみ)れた大小さまざまなピンク色の肉片、白い脂質を(から)ませたかつて人体であったどこかの部位などが散乱している。


 良く見るとワイズサーガが着ていた服の切れ端や履き物も確認できるが、靴に関しては片方だけがどうしても見当たらなかった。

 身体はそれほどの勢いで粉砕されたらしい。

 血飛沫が全方向の壁にべっとりと付着していることからも、勢いはうかがい知れた。

 間違いなく、天井にもかなりの血痕がこびりついているはずである。


 リースゴ。とりあえず、片はつけたぞ――


 それだけ確認すると、オウバルパはボードの上で仰向きに倒れ込んだ。

 これ以上はもう、痛みと虚脱感でなにも考えられそうになかった。

 とにもかくにも、今は治療である。

 祭壇広場に戻れば、部下が待機している。

 ポーションや封貝で治療を受けられるだろう。

 ()(まい)を避けるため、慎重に移動封貝を始動させた。

 縁から四肢をだらりと垂れ下げざるを得ないのは、封貝に充分なスペースがないためだ。


「オウバルパ様ッ」

 広場に近付くと、気配を察した側近たちが文字通り飛んできた。

 左腕を見て、一様に息を呑む気配が伝わってくる。

「オウバルパ様……これは……」

「ポーションだ」

 目を閉じたまま、遮るように言った。

 干上がった口内のあちこちに舌が貼り付く。

 一言発するのにも苦痛が伴った。

「ありったけよこせ」


「これを」

 オウバルパは目を開けて、差し出されたポーションの瓶を受取った。

 部隊が携行している物の中では、最上位品質のものだ。

 起き上がろうとすると、部下達が慌てたように手を差し伸べてきた。

 複数の腕に背を支えられ、瓶を傾ける。


 通常の外傷ならかなりの深手でも瞬間治癒するグレードだけあり、みるみる体力が回復していくのを感じた。

 首から下に血の循環が戻ったような感覚が得られた。

 凍った身体を、毛細血管に行き渡る血潮の熱が溶かしていくイメージだった。

 伴って、呼吸もそれと分かるほど楽になった。

 握った拳に力を込められる。

 少なくとも封貝の上に座っている分には、他人の手を借りる必要はなくなった。


「チーロはどこだ」

 エリデンテ・チーロは部隊随一の癒し手だ。

 だが、その治癒封貝の効能は上級ポーションを大きく(しの)ぐほどではない。

 この左腕はどうにもできないだろう。

 だが、知識や経験は役に立つ。


 そのチーロは後方の戦線で支援に回っているという。

 部下の一人を呼びに走らせ、オウバルパは差し出された水を一杯あおった。

氷狼(ジン)はどうした?」

 問いはしたが、側近達が答えるより早く、オウバルパは状況を理解した。


 あの頼れる右腕が、敵方の封貝使いと共に飛び去っていった方角から、時おり遠雷を思わせる爆音が轟き渡ってくる。

 高位の封貝使い同士が激闘を繰り広げているのだ。

「まだ()ってやがるとは……氷狼が手こずるほどの相手か」

 それに次ぐ青級封貝使いたちの姿も見当たらない。

 気配を探れば、確かにこの祭壇広場から離れた位置に、幾つか強大な封貝使いの反応を感知できた。


 ワイズサーガの派閥(プラトォン)は恐ろしいまでの手練を幾人も(よう)しているということらしい。

 しかしこれだけの戦力を持つ集団なら、国内でも屈指の巨大勢力として名が知れているはずだった。

 オウバルパの耳にも一度は入ってきてしかるべき存在である。

 だが、ワイズサーガなど聞いたこともない。


「くそっ。なにが起こってる……奴らは何者なんだ」

「オウバルパ様。そちらでなにが起こったのですか。敵は――」

 部下が恐る恐る問いかけてくる。

「野郎はぶっ殺した。だが、見たこともない封貝ばかりを使う奴だった。おかげでこのザマよ。手こずった」

 それから逆に問い返す。

「この左手、どうにかなると思うか」


「分かりません。完全に……炭化しているように見えます。一体、どんな封貝ならここまで……」

「打撃タイプの特殊効果だ。

 呪詛的なものかもしれねえ」

 言うと、連中は一様に黙り込んだ。

 単なる火傷なら、最悪でも腕を根元から切断する手段が使える。

 封貝。

 宝貝。

 ポーション。

 神の奇跡……

 四肢欠損の復元なら、幾つもの手段があるためだ。


 特に封貝使いは、只人より欠損部位の再生成功率が高い。

 これは、契約している封貝たちが主の身体情報をバックアップしているからだと言われている。

 肉体の一部が欠損すると、封貝が記憶している情報を持ち出し、再構築を補助してくれるのだという。


 しかし、そこに呪詛の要素が加わると、話は一気に複雑になる。

 存在そのものが汚染されるため、封貝のバックアップデータまでも破壊されたり、復元中に狂いが生じて再生に失敗してしまうのだ。

 こうなると呪詛を取り除かない限り、欠損部分は永遠に元に戻らない。


 やがてチーロが到着したが、首領の状態を見るなり顔色を変えた。

 絶句したまま動かない。

「どうにかなりそうか」

 オウバルパが問うと、ようやく口を開いた。

「私には到底、手に負えるとは……」

「はっ。

 だろうな」

 オウバルパは再び両目を閉じ、元のようにボードの上に寝転んだ。


「それで、御頭(イゼル・ズェフ)。いかがされますか」

「――引きあげだ」

 一度、短く嘆息して続けた。

「俺は一足先に戻る。お前らは残って広場のゴミを全て処分しろ。いつも通りだ。祭壇の火は消せ。終わったら街ごと焼き払え」

「尻尾まいて僕から逃げる気かな?」

 聞き覚えのある声に、オウバルパは目を開いた。


 声は頭上から降ってきたような感覚があった。

 反射的に身を起こす。

 素早く真上に視線を投げた。

 半オービット(約二五メートル)ほどの上空に、ワイズサーガの姿があった。

 隣に凄まじい圧を放つ封貝使いを伴っている。


 中性的な出で立ちだが、どうやら若い女であるらしい。

 踏みつけるようにして、火を噴く車輪型の移動封貝(ヴィクター)に乗っている。

 首には紅い(りん)()を巻いており、生き物のように蠢いている。

 恐らくはあれも封貝なのだろう。

 腰に巻き付き、ワイズサーガを空中で支えているのもその綸子であった。

 情報屋が言っていたインカルシを単独で攻め、処刑される予定だったという謎の封貝使い〈赤繭〉。

 その正体がこそが、あの娘なのだろう。

 噂ではなく実在していたのだ。


 だがそれより今は、ワイズサーガだった。

「てめェ……」

 顔を見た瞬間、萎えていた怒りがふつふつと再燃しはじめた。

 散々、面倒をかけてくれた格下の無印野郎が、どういうわけか再び目の前に現れたのだ。

「なんで生きてやがる。殺したはずだ! ばらばらに撃ち砕いてやったはずだッ」


 その怒号で、祭壇広場にすし詰めされた先住民族(オクスゥ)たちも上空の様子に気付きはじめた。

()()――」

「先生……そんな……」

「酷い……」

 頭上にワイズサーガの姿を認めると、オクスゥたちは口々に叫びをあげはじめる。

 単純に生存を喜ぶ声もあったが、目立つのはやはり悲鳴や嘆きの類だ。


 実際、ワイズサーガは(さん)惨たるありさまだった。

 まとっていた上着を失っており、上は裸身をさらしている。

 その肌は大部分が鮮血に塗れ、真っ赤に染まっていた。

 なにより左肩だ。

 封貝で貫かれて空いた大穴は、たとえ只人の視力であろうと遠目にはっきりと目視できるほどだった。

 風穴から指先に到るまで、左腕は全体がどす黒い紫色に変色し、もはや完全な死に腕となっている。

 到底、戦闘を続行できるようには見えない。


「あの小屋には先住民族(オクスゥ)の遺体があった」

 ワイズサーガが言った。

 それが合図であったかのように、腰に巻き付いていた紅い綸子が反応する。

 するりと結びを解くと、生き物のような動きで遠ざかっていく。

 ワイズサーガの身体が自由落下を開始した。

「小屋の中に吹っ飛んだとき、上着を脱いでその人に被せた。

 片方だけ脱いだ靴も」


 そして、転移したというわけか――。

 オウバルパは全てを理解した。

 自分が弾丸の雨を浴びせかけたのは、関係のないオクスゥの死体であったのだ。

 小屋の中に散らばっていた肉片と血溜まりの主は、ワイズサーガではなかったということだ。


「決着をつけようか」

 小さくつぶやき、ワイズサーガが真っ直ぐに降下してくる。

 その目はオウバルパしか見ていない。

「ふざけんな、コラァ!」

 側近たちがこめかみに青筋を浮かべて絶叫する。

 護衛である自分たちに目もくれない。

 直接、頭を狙われる。

 これは連中にとって最大の屈辱であり侮辱だ。

 封貝を使える二名が、噛みつくような勢いで地を蹴った。

 そのまま怒濤のごとくワイズサーガに迫る。


 両者が接触する、その寸前だった。

「――BUST YOU(バスト・ユー)!」

 マーカーを召喚したワイズサーガの追加口訣が聞こえた。

 これ以上ない、絶妙のタイミングだった。

 当然、相手の特殊な戦い方を知らない側近は、これに全く対応できない。

 ワイズサーガは対面の二名を軽々飛び越え、一気に地表付近まで跳躍。

 着地を決めるや、オウバルパめがけて黒腕の拳を唸らせた。


「そう来ると……思ったぜ!」

 オウバルパは咄嗟に氷壁(デルタ・ワン)を展開し、その一撃を受け止めた。

 同時にヴィクターを後ろ向きに走らせ、距離を取る。

 と、上空で立て続けに悲鳴が木霊した。

 ワイズサーガの連れ――〈赤繭〉が、飛び上がっていた側近たちを一瞬にして片付けたのだ。

 やや遅れて、失神した二人が地面に激突する重たい音が連続して響いた。


 その動きを目で追うことすらできない。

 まさに次元の違う動きだった。

 先ほどまで、こちら側の青級と戦っていたのがこの娘だろう。

 それを倒してきたというなら、青級から百人長級は確実。

 下手をすると、氷狼にも匹敵する使い手である可能性があった。


「――ナージャ。ありがとう。助かったよ」

 背後に降り立った女封貝使いへ、ワイズサーガはそちらを見ずに言葉を投げた。

「そいつも私がぶっ飛ばすか、ダーガ?」

 ナージャと呼ばれた化物の双眸が、真っ直ぐにオウバルパを見据える。

「いや。色々約束しちゃったしさ。ここは僕にやらせてよ」

「そうか?」

「僕が本格的に駄目そうだったら、あとはナージャに任すから」

 言って、ワイズサーガは無造作に一歩進んだ。


「そっちも最後までつきあってもらうよ」

 是非もない。

 自分が選択権を失っていることは、オウバルパにも理解できていた。

 もしこのまま氷狼が戻らなければ、すべて終わりだ。

 ワイズサーガはともかく、〈赤繭〉のナージャを倒して逃げ切ることは絶対に不可能だ。

 イメージすることすらできない。


「てめえは……なんなんだ」

 思わず、思いが口をついて出ていた。

 一度こぼれだすと、もう止まらない。

「一体、なんだってんだ。関係ねえだろう! てめえらはオクスゥですらねえ。なんでしゃしゃり出てきやがる。こんな連中が生きようが死のうが、なんの意味があるってんだ!」


「僕の友人は――」

 ワイズサーガが静かに言った。

「どこかの駐車場だったかな。親から無茶苦茶に踏みつけられてる子どもを見て一目散に駆けていった。

 それは、あきらかに(しつ)けの範疇を超えた、ただの暴力だった。

 四、五歳だったと思う。その子は号泣しながら何かを謝ってたけど、親は手加減なしだった。クルマのドアに捕まって身体を浮かせて、体重を込めた踏みつけを何度も繰り返してた。


 友人は駆け寄って、その勢いのまま男親を蹴り飛ばした。

 吹っ飛んだ男は――オウバルパ。君とそっくり同じことを言ったよ。

 なんだてめえは。関係ねえだろう。

 友人は黙ってその男の股ぐらを蹴り上げた。そして、這いつくばる相手に言った。

 目の前で見て、聞いたこととの関係は、他人じゃなくて私が自身が決める」


 ワイズサーガは、相手に言葉が正しく浸透しているかを確かめようとするように、一旦口をつぐんだ。

 その表情は、スリージィンを向こうに回した人間のそれとは到底思えないほどの落ち着きを払っていた。

 ワイズサーガが続けた。

「僕の目と耳が届く範囲で起こった事にどう関係するか、決めるるのは君ではなく――僕だ」


「……くだらねえ理屈で、俺を敵に回そうってのか。

 スリージィンとやりあう気か」

「なんで分からないんだ、オウバルパ。

 自分も大切な人をなくして、この世が終わったみたいなショックを受けたんじゃないのか?」

 何を言わんとしているのか理解した瞬間、かっと頭に血が上った。


「てめえがリースゴのことを口にしてんじゃねぇ!」

 気付くと叫んでいた。

 だが、ワイズサーガは微塵も動じない。

「オウバルパ。精神に大きすぎる傷を負った人の時間は、そこで止まってしまうんだ。その瞬間に囚われて、先に進めなくなる。

 僕もそうだから分かる。なら、君だって分かってるはずなんだ」

「あぁ……?」


「君が消そうとしているあの火は――」

 ワイズサーガの黒い義手が、祭壇の〈分け火〉を指した。

「軽い気持ちで手を出していいものじゃないってことだよ。

 山賊風情がおもしろ半分に触れていいものじゃない。

 あれが消えれば、全てのオクスゥの時が壊れてしまう。消えない傷が刻まれてしまう。僕がヨウコを喪うのと同じように」


「フゥ――」

 オウバルパは顎をあげ、溜め息と一緒に長く声を発した。

 不思議と憤怒の念はかき消えていた。

 かわりに胸の奥でじわりと虚脱感が広がりはじめる。

「もう良い……どうでも良い。うんざりだ」

 自分でも驚くほど低く、乾いた声が出た。

 なにもかも消え去れば良い。

 気だるさの中で、冷ややかな破壊衝動だけが唯一はっきりと感じられる。


「てめえの理屈は聞いてるだけで吐き気がしてくる。心底な。そんなに先住民族(うじムシ)どもの焚き火をありがたがるなら、そいつと一緒に心中でもしろや」

 言うと、オウバルパたちは広場に残った数少ない部下たちへ向けて声を張った。

「てめえら、援護しろ!」

 何度も繰り返してきたことだ。

 それだけで通じる。


 現実、側近たちは素早く反応した。

 それぞれに武器を構え、猛然とオクスゥの群れへ飛び込んでいく。

 そうして手近な者から、老若男女を問わず血祭りに上げはじめた。

「やめろぉ――ッ!」

 ナージャと呼ばれていた女封貝使いが、それにまんまと釣られた。

 暴挙を止めようとそちらへ突っ込んでいく。

 ワイズサーガも続こうとしたが、オウバルパはそれを呼び止めた。


「オイ、てめえは俺と遊んでくれるんだろ。最後まで」

「……ッ」

「俺ごときじゃ、手を出すことが許されない神聖な〈分け火〉だっけか? 今からおもしろ半分に、かるーくちょっかい出してみるからよ。しっかり守って見せてくれや。自分の言葉を曲げずにな」

 恐らく、ポーションで回復した分の体力はこれで全て持っていかれるだろう。

 あともう、何もできなくなる。

 言葉通り最後だ。

 最後の切り札だ。

 だが、まったく躊躇は覚えなかった。


「――最終決戦封貝(リーサル・フォックス)

 唱えた直後、移動系封貝(ボード)が垂直上昇を始めた。

 オウバルパの意思とは無関係の動きである。

 切り札と同時に発動する、限定の特別モードだ。

 封貝はゆっくり半オービットほど上昇すると、そこで静止した。


 同時、真下の空間に巨大な歪みが発生する。

 最初は拳大の黒いシミでしかなかったそれは、見る間に半径を倍加させていく。

 そうして二階建ての建造物をも丸々飲み込むスケールの、円形の大穴と化した。

 オウバルパ自身もどこと繋がっているか知らない、異界への門の完成だ。


 その向こう側に広がる深淵から――文字通り(せき)を切った勢いで雪崩れ込んでくるのは、一言でいうならば海そのものだ。

 街ひとつを軽々呑み込み、()(くず)と消し去る圧倒的水量の暴力。

 強酸性の津波である。


「なっ……!?」

 ワイズサーガの顔から血の気が引く。

 そして、烏合の衆からも続々と悲鳴があがりはじめた。

 地上に降りそそぐ強酸の大(ばく)()は、噴火の地鳴りを連想させる重低音を轟かせながら急速に地上を侵蝕していく。


「〈分け火〉が! 〈分け火〉が!」

「イレスよ――」

 オクスゥどもは恐怖で半狂乱になりながらも、己の身以上に〈原初の分け火〉を心配している。

 ワイズサーガも同様だった。

 蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う大勢のオクスゥと、広場の中心に鎮座する〈分け火〉の間で忙しく視線を行き交わせている。


 だが直後、判断を決めたらしい。

「ナージャ! 敵は無視だ。オクスゥの人たちをできる限り避難させて」

「カズマッ」

 返された叫びは、しかし別の女からのものだった。

 声の方を見やると、紅い首巻きの女封貝とは別に、ワイズサーガの仲間と思わしき(ちん)(にゅ)者がまたひとり現れていた。


 貴族風の着衣で男装しているものの、腰のくびれや不自然に隆起した胸元を見る限り、〈赤繭〉同様に女なのか。

 身に纏う凄烈な封圧は、青級以上の上位の封貝使いであることを物語っている。

 とすれば、オウバルパ(こちら)が差し向けた青級の精鋭を倒して駆けつけたのだとしか考えられない。

 着衣の所々に見られる汚れやほつれも戦線を潜り抜けてきたことを物語っている。


 とは言え、女には着衣の乱れ以上の外傷は見受けられなかった。

 この事からも装いに恥じぬ洗練された戦士であることは疑う余地もなかった。

 ただ、さしもの手練封貝使いも、眼下に突然出現した強酸の津波には驚愕を隠し切れていない。


「これは……一体」

 鼻白む女に、ワイズサーガが声を張り上げた。

「レイさん! 皆の避難を」

 はっとした顔で我に帰った男装の封貝使いは、表情を引き締めると叫び返した。

「承知した」

「――で、お前はどうすんだ、ワイズサーガさんよォ」

 オウバルパは気力の残り(かす)を集め、脂汗の滲む顔になんとか笑みを形作って見せた。

 (あお)るように言葉を投げる。


「言っとくが、俺の〈強酸の海(リーサル・フォックス)〉は俺を殺しても消えないぜ?」

 実際、オウバルパはもう死体と大差がなかった。

 そのようなコンディションからほど遠い満身創痍の状態で、切り札(リーサル)を切ったのだ。

 もはや自力では立ち上がることすらできない。


「くっ……」

 ワイズサーガは歯噛みしたが、やるべきことは心得ているように見えた。

 オクスゥを救うために奔走するか。

 〈分け火〉を守りに入るか。

 なにをする気かはまでは分からない。

 だが、瞳に迷いは感じられなかった。

 ――さて、お手並み拝見といこうか。

 オウバルパは唇を歪めながら、高みの見物を決め込む。


「ドリュアスさん、僕に力を!」

 と、ワイズサーガが何のつもりか、左手に向かって呼びかけた。

 正確には、手先に嵌められた指輪に、だろうか。

 次の瞬間、オウバルパは我が目を疑った。

 ワイズサーガの(かたわ)らに(きら)めく新緑色の(つむじ)風が発生したかと思うと、一瞬にして人のシルエットを形作ったからだ。


 ドリュアス……つったか。まさか、精霊とでもいう気か?

 一瞬、脳裏にチラついた疑念を、オウバルパは慌てて振り払う。

 ふざけんな。

 ありゃ、お(とぎ)(ばなし)だろ。

 だが、薄らと輪郭が透き通った神秘の貴婦人は、お伽話を持ち出すことでしか存在に説明がつきそうもない。

 それもまた現実だった。


「盟友オウル・オ・イレスよ、お呼びですか」

 精霊が訊いた。

「ご覧の通りです。このままじゃ〈分け火〉ごと街の人たちがあれに……」

 ワイズサーガは早口にまくし立てると、唸りをあげて迫り来る津波を目線で示す。

「選択してください。何本かの樹木を召還して人々の避難場所に使うか。彼らを諦め、それらを〈分け火〉を覆い守る壁とするか」


「皆を!」

 即答だった。

「〈分け火〉は僕が何とかします」

「分かりました。盟約に従い、その願いにこたえましょう。ですが、この奇跡を使うために私は多くの力を消費します。しばらくはお役に立てない状態が続くでしょう」

「すみません。ありがとう、ドリュアスさん。お願いします」


 ドリュアスが微笑んだのが分かった。

 と、伝説に語られる〈翠緑の貴婦人〉は天に祈りを捧げるがごとく、両手を広げて頭上へと差し伸べた。

 それから起こった出来事は、我が目を疑うような――まさしく神話世界の一幕そのものだった。


 最初の変化は、神殿広場の地表近くに現れた。

 土の地面を割って、あちこちから小指ほどの木の芽が顔を出す。

 かと思うと直後、それらは一斉に真上に向かって伸び始めた。

 まさに爆発的としか言いようがない、超倍速の異常成長だった。

 本来一〇年、一〇〇年という年月を経て生育していくべき存在が、ほとんど一瞬で成樹へ変貌を遂げていくのだ。


 気付けば塔に匹敵するスケールを誇る大樹が、祭壇広場に並木となって君臨していた。

 両手の指では数え切れない数だった。

 しかもドリュアスの聖樹は、明らかに意志を持っていた。

 蛇のように(しな)りうねる枝枝が、津波に追われるオクスゥたちに巻き付き、抱え込み、安全域まで持ち上げていく。


 大樹の枝が届かない所には、〈赤繭〉や男装の女封貝使いたちが駆けつけ、次々に高台へと運んでいった。

 それでも強酸の海は逃げ遅れたオクスゥたちを少なからず呑み込んでいったが――それはオウバルパが当初想定していた人数からすれば、桁が二つも落ちる規模でしかなかった。


「だが、身体を守っても魂を消されちまったら一緒だよなあ」

 オウバルパの位置から見下ろすと、広場は中心部に備えられた祭壇に向かって、微妙な傾斜をもつ(すり)(ばち)状を成していることが分かる。

 必然、物理法則に従い、強酸の海は中心部へ向かって雪崩を打って押し寄せていく。


「どうする、ワイズサーガ」

「くっ!」

 津波は、疾駆するワイズサーガのすぐ後ろに迫っていた。

 そして両者はもう〈分け火〉の祭壇から目と端のところにきている。

 間に合わないと判断したのだろう。

 ワイズサーガは例の赤いマーカーを射出し、一気に祭壇の上へ転移した。


「ダーガ、無理だ!」

 ナージャなる封貝使いが叫んだ。

 自身は、赤い首巻きを信じられないほど長く伸ばし、それで一〇人を超えるオクスゥを荷物のように巻き込んで宙に浮いている。

 両手にも子猫をそうするように襟首を引っつかんで、ふたりをぶら下げているのが見えた。


「先生、逃げてくださいっ」

「カズマ様!」

「ああ、〈分け火〉が呑み込まれる……」

「イレスよ救いの御手を!」

 ドリュアスの樹に避難したオクスゥたちから悲痛な叫び声があがる。

 それらは強酸の海より一足早く祭壇広場を埋め尽くした。


「――〈不可視の盾(デルタ・ワン)〉ッ!」

 ワイズサーガは〈分け火〉を背に(かば)うように立ち、真っ直ぐ腕を突き出した。

 目には見えないが、板状の防御封貝を召喚したのだろう。

 だが当然、一面を覆うだけの小さな盾では、四方から囲い込むように襲い来る津波を防ぐことなどできない。


 と、最初に到達した津波の一部が、ワイズサーガの盾に接触した。

 大きな飛沫があがる。

 そのまま押しきられるかと思いきや、そうはならなかった。

 どうやらワイズサーガは、不可視の防御板を複数枚展開していたらしい。

 そのうち二枚は九〇度のコーナーを形成するように組み合わされ、前面に配置されているのが分かる。

 強酸の海はその角にぶつかり二つに割られ、盾を回り込むように流れ始めた。


「ほう――」

 オウバルパは思わず感嘆の声を漏らした。

 盾に防がれ左右に分かれた津波が、そのまま祭壇を避けるように進み始めたからだ。

 どうやら前方に二枚、そして祭壇の左右にも一枚ずつ不可視の防壁が張られていたらしい。

 つまり、口訣すればワイズサーガは少なくとも一度に四枚以上の〈不可視の盾〉を呼び出せるらしい。


 だが、オウバルパに焦りはなかった。

 防御に特化したタイプでもない限り、防御(デルタ)系の封貝を長期間維持することは難しい。

 なにより、ワイズサーガは重傷を負って疲弊している。

 封貝の力は傷の回復と体力の維持に使われ、出力は落ちているはずなのだ。

「いつまでもつかな」

 ほとんど囁きに近い小声だったが、ワイズサーガには聞こえたらしい。


「この火は絶対に消えない――」

 強がるように叫び返してきた。

「僕が消させない!」

「うるせえよ。吠えりゃ守れんのか?」 

 (たん)()を切るにしても、ワイズサーガはもうオウバルパに目を向ける余裕すらなかった。

 額から背中から大粒の汗をびっしりと浮かべ、血と混じりあったそれらが、ぼたぼたと足元に染みを作り続けている。

 

 最初は両腕を前に突きだしていたが、負傷した左手は既に力を失ってだらりと垂れ下がっている。

 残った右腕も、負荷に耐えかねぶるぶると震え始めていた。

 なにより、その盾は津波を受けきるには小さすぎ、また少なすぎた。

 押し寄せる強酸の海が、水圧でせき止められた前面部の(かさ)を押し上げる。

 同時、後方では左右の壁面を回り込んだ水流が〈分け火〉に向かって雪崩れ込みはじめていた。


「おぉおおっ」

 ワイズサーガが雄叫びを上げる。

 前面の盾を乗り越えた一部が、守りの内側へ侵入を果たす。

 それだけではない。

 盾自体に亀裂が入ったか、破損があったらしい。

 そうでなければあり得ない位置から、ぴゅーぴゅーと小さな水漏れが発生している。

 それらの浸水が、ワイズサーガの靴元をゆっくりと漬していくのが分かった。


 破局は、その背後でも進行していた。

 津波が遂に〈分け火〉へと達したのだ。

 瞬間、じゅわと一際大きな蒸発音が、あたかも〈分け火〉のあげる悲鳴がごとく周囲に響き渡った。

 呼応するように、オクスゥたちのすすり泣きと絶叫、嘆きの声がまた一層強まった。


「カズマッ。……くそっ」

 男装の封貝使いが援護に駆けつけようとしかける。

 が、歯噛みしつつも思いとどまった。

 広場には避難しきれず、今この瞬間も強酸の海に呑み込まれようとしているオクスゥが何人もいる。

 お優しい正義の味方は、連中を放り出すことなどできない。

 大勢の力なき人々を救うためには、一人の味方を見捨てなくてはならないのだ。


「――それがてめえらの限界なんだよ」

 注ぎ込んでくる強酸の飛沫を浴び、〈原初の分け火〉はみるみるその火勢を弱めていく。

 どの部族のそれよりも群を抜いて巨大であった大神火が、いまや小村のささやかな〈分け火〉と見分けが付かない。

 それを守ろうと足掻くワイズサーガもまた追い詰められていた。

 流れ込んだ大量の強酸性溶解液の()まりは、既にすねの高さまで嵩をあげている。


 もっともオウバルパの〈強酸の海〉は、基本的に対封貝使い戦を想定したものではない。

 地を這う津波など、多くの封貝使いは空中に退避して簡単に避けてしまうからだ。

 その上、酸自体の効き目も悪すぎる。

 ひ弱な只人ならまだしも、強靱な肉体と防御力を持つ封貝使いにとっては、強酸性の溶解液も大きな脅威にはなり得ないのである。

 そもそもダメージを負いにくいし、ダメージを受けたとしてもすぐに回復してしまう。


 だが、ワイズサーガは封貝使いとしては不完全な無印級(ブランク)だ。

 身体ごと、しかも長時間浸かれば相応の痛手を負うだろう。

「終わりだ」

 オウバルパのそのつぶやきを待っていたかのように、ワイズサーガの結界が崩壊した。

 〈不可視の盾〉が完全粉砕され、せき止められていた水流が猛り狂って流れ込む。


 瞬間、なにを思ったかワイズサーガは反転し、背後の〈分け火〉に向かって走りはじめた。

 地を蹴り身を躍らせると、まさに風前の(ともしび)、幼児ほどまで縮み込んだ〈分け火〉へ覆い被さっていく。

 直後、そのワイズサーガごと、津波は〈分け火〉の祭壇を呑み込んでいった。

 どこか獣じみた、オクスゥどもの絶望の悲鳴が木霊する。


 当然ながら、強酸の海はその後も侵攻の手を緩めなかった。

 広くあまねくチュゴの大集落を蹂躙していった。

 木造家屋や人間(エイン)、死んだ家畜が酸で焼かれ、それによって生じたえも言われぬ異臭が街中を包みこんだ。

 経験上、この匂いが長期に渡ってその土地に残留し続けることを、オウバルパは知っていた。

 あたかも呪詛のごとくだ。


 四方に向かって無軌道に広がっていく強酸の津波は、その異臭を除いた全てを、彼方へと押し流してしまう。

 そうして集落を満たした破壊の海は、さらに薄く遠く引き延ばされ、やがて潮引くように消えていった。

 オウバルパの眼下――海底隆起によって地上に姿を現わした古代遺跡のごとく、祭壇広場が輪郭を取り戻しはじめる。


 水圧というのは、人が想像するより遥かに恐ろしい。

 水嵩が人間(エイン)の腰の高さを超えれば、馬や牛、大型肉食獣でも立っていられず押し流されはじめる。

 オウバルパが知る限り、この時点で只人の生存率はほぼゼロである。

 封貝使いには弱いが、封貝使いがいなければ都市をひとつ完全破壊できる。

 住人を皆殺しにできる。

 それが〈強酸の海〉というものなのだ。


 当然、今回も例外ではないとオウバルパは考えた。

 破壊の濁流は何もかもを――間違いなく全てを流し(さら)っただろう。

 そう信じ切っていた。

 疑いもしていなかった。


 だからこそ、オウバルパは干上がった〈強酸の海〉の底から〈分け火〉の祭壇が現れた時、我を忘れるほどの恐怖に襲われた。

 恐慌状態に陥ったと言って良い。

 なぜなら、あり得ないものがそこにはあった。

 ワイズサーガである。

 右腕を祭壇の床に突き刺し、錨のようにして己を押しとどめ――最後に見た姿のまま、ワイズサーガはそこにいた。


 胎児のように丸まったままぴくりともしないが、流れ去りもう目にすることもなかろうと思っていた存在である。

 あの水圧に耐えきり、今もまだ自分の目の前にあるというだけで、オウバルパには何かとてつもなく異様なものに見えた。

 ――なんで、てめえは……

 狼狽のあまりまともに声にすることもできない。


 しかし、本当の恐怖はその先に待っていた。

「……ん……れぇ」

 舌足らずな、明らかな幼子のそれと分かる声が、遠く聞こえた気がした。

 空耳ではない。

 すべてはそこから動き始めた。

「がんばれえ」

 盛んに繰り返される言葉は、ある瞬間を境にだんだんと明瞭さを増していった。

 やがてオウバルパの耳朶をしっかりと打つまでに到った。


 それは、呼び声だった。

「がんばれえ……わいずさーが、がんばれぇ!」

 強酸の海に長時間漬され、ワイズサーガの全身は火傷のように赤く焼け(ただ)れていた。

 比喩ではなく、熱湯で煮立てられたように皮膚のすべてが真っ赤に染まっている。

 死んだように固まっていたその身体が、オウバルパの凝視の中、微かに震え――そしてゆっくりと動きはじめた。

 まるで呼びかけに反応したように思えた。

 少なくともオウバルパにはそうとしか思えなかった。


 生きてやがる……!

 相手が封貝使いである以上、その可能性が高いことは知っていた。

 理解していたはずだが、オウバルパはなぜだか喩えようもない焦燥感にかられた。

 第六感が、盛んに警鐘を鳴らしている。


 ワイズサーガがスローモーションのような動きと速度で、伏せていた顔を上げていく。

 その目が真っ直ぐ自分に固定された瞬間――

 そして、ワイズサーガが発した小さな一言が耳朶を打った瞬間、オウバルパは遂に恥も外聞も捨て「ひっ」という小さな悲鳴をあげた。


 (おもて)をあげたワイズサーガは、胸に何かを抱きかかえていた。

 それは拳大ほどのごく小さな灯火だった。

 今にも消え入りそうなほど弱々しく、だが確かな光を放ちもしている。

 オウバルパは自分が見ている物が、消し飛んだものとばかり思っていた〈原初の分け火〉であることを理解した。

 ワイズサーガの口元に、その炎と同じくらいのささやかな笑みが浮かべられる。

 そしてがさがさに荒れ果てた白い唇が一言、結んだ。


 ――ほぅら、消えない。


 一瞬で全身が粟立った。

「待て……」

 オウバルパは狭いボードの上で、後ろ手を付き無意識に後ずさろうとした。

 だがもちろん、そこに逃げ場などない。

 現実を認めると同時に、ようやく自分の胸から光線が生えていることにも気付いた。

 紅く輝くそれは真っ直ぐ、しかるべき進路を示すようにワイズサーガの元へと伸びていた。

 続いていた。


 違う。

 オウバルパは絶望の中で理解した。

 胸からじゃねえ――

 無意味と知りながら、背後に向かって首を捻った。

 いつだ? いつの間に……

 背中全体を見渡すことができれば、間違いなくそのどこかに、左右一対の紅いマーカー型封貝が貼り付いているのが分かるだろう。

 肚の底から伝ってきた恐怖で、ぶるりと大きく身体が震えた。


 あいつは一体、いつから仕込んでやがった。

 どれほど前から……この、瞬間のために……

 考えられたのはそこまでだった。

 ワイズサーガが、のろのろとした動作で右の黒腕で作った拳を持ち上げる。

 狙いを定めるように、オウバルパに向かって突き出す。

 そして、追加口訣が紡がれた。


「――奇跡は線と結ばれた(ロック・ユー)


挿絵(By みてみん)

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