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She know what?

新しく決まった名前とそれ以外の個人情報が存在しないこと、あと体の事を船員に紹介が終り、次に各船員たちから簡単に自己紹介がおこなわれた。もちろんエンは一度で全てを覚えきれなかった。そして気になっていた肝心のもう一人の半分半分の人間、ジョンと呼ばれていた外国人は睡眠中と言うことで会えなかった。

その後自分専用のベッドもあてがわれたが、さっきまで長時間寝ていたし、その後もミサイルの爆炎を操る程度にしか能力を使っていなかったので眠気はまだ訪れていなかった。

エンは外の空気を吸うためデッキに出ていた。外はまだ夜が明けておらず墨汁の様な黒い海がウネウネと揺らいでいるだけだった。水平線を見ても陸地の様なものは見えず退屈な景色が広がっているだけだった。船内に戻る前にデッキを一回りしようと思ったエンは船首に向かってあるきだした。初めはただのポールかと思ったが、良く見ると船首に人が一人いることに気付いた。さっきの自己紹介で一人も顔と名前を一致させて覚えていなかったので話しかけるかどうかためらっていたが、そうこうしていると向こうがこっちに気付いたのか、シルエットがこちらに振り返ったような気がした。

近寄ってみるとシルエットの主が女性であることに気付いた。

だがさっきの船員たちの自己紹介の際には女性はいなかった。全員男だった。自己紹介に参加していなかったジョンは船内で一度会っているが、ジョンは男だ。

近づくにつれてシルエットの主の顔も見えるようになってきた。

身長は高いが華奢でスレンダーな体つき、顔も小さくモデルの様な頭身だった。彼女の顔で真っ先に注目したのは眼だ。眼は暗闇でも白目が目立つほどに大きいが、だからと言ってギョロっとした印象はない。知的で聡明な印象を与える眼だった。顔は良く見ると不思議な雰囲気を漂わせていた。黒髪から日本人かと思ったが女性にしては少し濃い顔をしている。広く東洋といったエキゾチックな顔立ちだった。そして年齢の分からない顔だった。若いのは確かだが、十代の様な健康的でキメ細かい肌と化粧っ気のない純朴さがあるが、ひょっとすると自分の二倍以上も長い時間を生きてきたかのような経験が表情に刻まれている。

まじまじと顔を見つめていることに失礼と気付いたと同時に向こう側から声を掛けられた。

「気分はどう?」

まるで外国人が出逢った時の様な質問だなとエンは思った。

「えぇ、全然眠気がなくて。ちょっと外の空気を吸いに来ました。」

すると女性は表情一つ変えずに言った

「そう、良かったね。うまくいったみたいで。」

「え、うまくいったって何がですか?」

「そうか、研究所の記憶も消したんだっけ。」

「え、研究所の記憶って一体何のことですか?もしかして俺の事何か知ってるんですか?」

「私がもしこれからの事知らなかったらあんたの事今ぶん殴ってるんでしょうね。今のアンタむかつくし、がっかりする。」

そう言うと女はエンに背を向けて歩き始めた。

「ちょっと待って、アンタ誰なんだ!さっき集合の時いなかっただろ。俺の何を知ってるんだ、教えてくれ!」

エンが呼びかけると女は半身振り返って冷たいまなざしで言った。

「アンタ自身の事についてはアンタが言うなって言ったのよ。ただ一つだけ言っといてあげる。ここの人達と一緒にいちゃダメ。アンタの為に言ってるんだからね。どうせ聞かないんでしょうけど。」

そういうと女は再び背を向けて歩き出した。一歩二歩歩いた瞬間、エンの視界から女の姿が消えていた。

エンは急いで女のいた場所に駆け寄った。船首の甲板の真ん中。海に飛び降りるには距離がありすぎるし、ジャンプしたようなモーションは無かった。甲板から降りる場所などもなく、これまでに見た瞬間移動の時の様な空間の裂け目も音もなかった。まるでこの世界から追い出されたかのように、忽然と消えた。


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