彼女の想い
ドアが軽いと思った。
ドアを引くといつもは暗い玄関があるはずだった。だが目の前はとても明るかった。
玄関の電気がついていたのではない、玄関がなかった。見渡すとそもそも家がなかった。
何を言っているのか分からないと思う。俺も何が起こったのか分からなかった。
ドアを開くとそこには空間が広がっていた。我が家があった場所は何もないただの空間になっていた。まるで我が家だけ綺麗に切り取られたかのように床や壁や天井は鉄骨とコンクリートと配線の断面がむき出しになっておりドアの次はそのままベランダが見通せた。玄関もクローゼットも俺の部屋もリビングもトイレもキッチンも廊下も風呂も妹の部屋も両親の部屋も何もかもない。
見間違いだと思った。
一歩踏み込んで我が家のあったはずの場所がどうなっているのか調べようと思った、その時ふと思った。
「世界中で俺みたいな能力を持った奴はきっと沢山いるんだろう。もしかしたら能力者は悪いやつらから隠れて暮らさなければいけないのかもしれない。
「二か月前から入院してたおじいちゃんの容体が急変しました。
元気づけにおじいちゃんのいる病院にお見舞いに行ってきます。
テスト範囲とか聞き漏らさないでね。」
「にかげつまえ・・・
げんきづけに・・・
てすとはんいとか・・・」
「に・・げ・・て・・」
彼女からのメールを縦読みすると「逃げて」となる。
そのことに気付いた時、同じフロアの隣人の家が次々とドアが開き人が出て来る音が聞こえた。
プロローグ完