届かないところ
ネットで電車の遅延情報を調べてみたが彼女の利用する沿線では何も起こっていなかった。
彼女の家に行ってみようかとも思ったが両親もいる実家に押しかけて彼女が授業をサボっていることを報告するのも気が引けたし、なによりまだ彼女の両親にはあったことがなかった。だが、もし彼女が通学途中で何らかの事故に巻き込まれていたら?都市部の人通りの多い場所ばかりを通過する彼女の通学路は雨の日でも傘を差さずに学校に来れるとよく自慢された。地下道と電車とバスだけを使う彼女が交通事故に会うとは考えられないが、彼氏の贔屓目を除いても彼女は可愛い。変な奴に絡まれている可能性はゼロではない。付き合う前に一度電車で痴漢にあったという話を聞いていたのを思い出した。どんどんと不安が募っていき、気づけば俺は原付で彼女の実家を目指していた。
だが結局彼女の実家に行くことは無かった。かなり近くまで行ったのだが、おおよそ彼女の家の近くまで来たので詳しい番地を見直そうと携帯端末を開くと彼女から連絡が入っていたのだ。
「二か月前から入院してたおじいちゃんの容体が急変しました。
元気づけにおじいちゃんのいる病院にお見舞いに行ってきます。
テスト範囲とか聞き漏らさないでね。」
いつもの彼女にしては飾り気のない文面だった。だがどの程度体調が悪くなったのかは分からないが、身内に大変なことがあったら文面を飾り付ける気も起きないのだろうと自分を納得させた。
ここから家に帰るのに電車を使うと定期圏外と原付の駐輪所代がかかる。時間はかかるが原付で我が家まで帰ることにした。
昼食時に飲んだコーヒーの効果が切れて眠気が襲ってきたころに自宅にたどり着いた。道中は今日自分の身に起こったことを頭の中で整理していた。科学的にどう説明がつくのだろう、なぜ自分にこんな能力が身に着いたのだろう、この能力は世界で自分だけだろうか、いやきっと世界中に不思議な能力を持った人たちはたくさんいて表舞台には姿を現さずに影で戦ったりしているのかもしれない。もしかしたら世界を守るヒーローなのかもしれない。自分もその一員としてスカウトされるかもしれない。
そんなことを妄想しながら俺は自宅のドアのカギを開けていた。
いつもよりだいぶ早い時間の帰宅に何か言われるだろうか?
その時は休講とでも言い分けすればいい。
そんなことを思いながらドアを開けると目の前には予想だにしていない光景が広がっていた。