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届くところ

不思議な体験を目の当たりにしたが、俺の頭は意外と冷静だった、と思う。

俺はすぐに周囲をみわたして誰も目撃者がいないか確かめた。そしてライターをしまって原付のある駐輪場へと向かった。学校へ行くか悩んだ。だが好奇心が勝った。幸いにもこの周辺は山が多い。人目につかない山林の中に行けば思う存分この謎の現象を調べることが出来る。

駐輪場に到着しヘルメットを被ってカギを差し込んだ。中古で買ったホンダのTodayは元気よく走ってくれるがセルが使えなくなってしまったのだけが欠点だった。バッテリーを変えればいいのだろうが、キックでエンジンがかかるのだから余計な出費はしたくない。いつも通りレバーに足を掛けて踏み込む。グッと踏み下ろした瞬間、急に何かがそこにいるような感覚を感じた。バイクの下から急に野良猫が現れたのかと思ったが見渡してみてもいない。気を取り直してもう一度点火しなかったエンジンをかけてみる。やはり同じような感覚に襲われる。次は踏み込んだ時にエンジンはかかったがやはり近くに何かいる感覚がある。だがさっきと違うのはその感覚が持続していることだ。そのころにはもう俺の頭は気づいていた。この気配は原付から来ている。いや、原付の中、車やバイクに詳しくない俺でもわかる。この原付のエンジンの位置が把握できる。いやさらにその中、原付の中で燃える炎を感じ取っている。さっきのライターは自分が自覚して点火していたから何も感じなかったが、無意識に発生させたエンジンの火は自らの存在を俺に訴えかけているかのようだった。ますます学校へ行く気はなくなった。


道中、すれ違う車両に意識を傾ければその中の炎を感じることが出来た。とても新鮮な感覚だ。日常が全く別物になった。

到着したのは周囲に民家すらなく、最後に通った信号はもはや何キロも前という山中だった。遠くに高速道路の橋げたは見えるが向こうからこっちは見えない。それにもはや車の通って来れる道幅ではなかった。すぐ近くに川も流れているから自分の身に何かあっても大丈夫だ。山火事も気になったが前日に台風が来ていて足元も木もたっぷりと水を吸い込んでいるので簡単には燃え移らないだろう。

まずはライターを使ってさっきと同じように火の玉を操作した。そのあとはどこまで大きな火の玉を作れるか試してみた。結果としては直径1メートルほどが限界だった。初めに出現させた火の玉を大きくしていくことは出来るのだが、大きくなればなるほど等比級数的に集中力が必要になった。ちょっとでも集中を切らせば火の玉は形を崩して宙に消えてしまった。つまり自分の集中力の限度が直径1メートルだったのだ。だがまだまだ成長の余地は感じることが出来た。

少し休憩をはさんで次は火の玉をどこまで遠くまでコントロールしながら飛ばせるかを試してみた。これは思っていたよりも遠くまで飛ばせた。十メートル先くらいまでなら安定させて飛ばすことが出来た。そこから3~5メートルほどはちょっとした風にも影響されるようになりさらに先に飛ばそうとすると形状を保てず消えてしまった。火の玉を遠くに飛ばす練習は楽しかった。人間は自分の力の及ぶ範囲は決まっている。せいぜい手の届く範囲、触れるだけなら足の届く範囲。せいぜい1メートル圏内が限度だ。それを延長させるために道具を使う。容易に使える道具が棒だろう。これもせいぜい3メートルくらいまでだろうし、出来ることも限られている。叩くか突くくらいだ。それをさらに延長させたのが銃だろう。直線状にある物を破壊できる。ライフルともなればキロ単位で遠くのものに影響を与えることが出来る。だができることは限られている。破壊だけだ。俺の能力も限られたものだ。スターウォーズのフォースみたいにいろいろできるならいいが、贅沢は言わない。半径10メートル圏内の物に点火できる。それだけで到底人並み外れた芸当だ。自由に影響を与える範囲が広がったのを実感するとなんだか自分が強くなったような気がした。

最後に燃えている火をどれくらい遠くから消せるかを試してみた。これは火の大きさも関係したが普通のたき火程度なら10メートルくらい遠くからでも消すことが出来た。もっと大きな火を消す練習もして見ようと思ったがそのころには神経が疲れ果てていた。まだ昼過ぎだったが眠気が襲ってきていた。さらに空腹感も感じていた。とりあえず近くのコンビニへ行って食事と新しいライターを買おうと思った。

ふと携帯端末を見ると電波受信圏外になっていたことに気付いた。

きっと彼女から連絡来てるだろうな。何の連絡もなく授業をすっぽかしたんだから。


コンビニで買った食事を原付に座りながら食べ、その片手間で何度も携帯端末の電源を入れなおしてみたが彼女からの連絡はなかった。いつもなら俺が遅刻していると出席票を多めにもらっておくと報告が入る。どうでもいい広告メールは入っているのに彼女からの連絡がなかった理由が気になった。初めてのセックスの後は気持ちが変わるもんなのかとも思った。もしかしたらこっちからの連絡を待ってるのかもと思い電話を掛けてみた。学校も昼休みだから出るだろうと思ったが、数回のコールの後で聞こえてきたのは機械的な女性のアナウンスで電源が入っていないか電波の届かないところにいるとの案内だった。

無断で授業サボって怒らせてしまったか?やっぱり昨日の今日だから会いたかったのかもと思いはじめると今すぐにでも彼女に謝りたくなった。同じ学科でいつも彼女も含めてよくつるんでいる友人タケに電話を掛けた。

「おう!お前ら今日学校こねーの?あ、もしかしてついにヤッた!?ホテルから事後報告ってわけですかー。」

ヤッという言葉が過剰に耳に残った。こいつ鋭い。だがその前の言葉が気になった。「お前ら」と言う言葉だ。

「そんなんじゃない。それよりアイツも今日学校来てないの?」

そう尋ねるとタケは少し驚きながらも彼女も学校に来ていなかったことと、今日の授業の出席票は二人分書いておいたと報告してくれた。

礼を言って電話を切った。

彼女も朝は学校に行くと言っていたのに俺に連絡もせずに欠席していることが気になった。


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