正しい婚約破棄の結末
王子にざまあしてくださいという希望が多かったのでこんなんなりました。
結局のところ。
これは政略結婚に過ぎない。
ヘレーネは優雅にカップを傾けながら思う。
厳しい王妃教育の合間の一時の休息。
ここでお気に入りの紅茶を傾けるのがヘレーネの最近の習慣だった。
シャルロッテ姉さま――姉ではないが親しみを込めてそう呼ばせていただいている――とあの皇太子が婚約したのが十年前。
十年。
それだけあれば政局は動く。
イエーガーを押さえるためにエーレンベルグと組んだはずが――十年の年月の間にむしろ抑えられるべきはエーレンベルグとなった。
それが此度の婚約破棄――正式には解消の一番の根底。
少なくとも国王陛下の御意志はそこにある。
あくまでも――政略。
貴族間のパワーバランスを正常に保つための結婚――とあらばヘレーネとしても断る理由はない。
これでも歴史ある侯爵家の一員である。貴族としての務めを怠るわけにはいかない。
例え皇太子の事を――どう思っていたとしても。
初めて会った時から気に入らなかった。
シャルロッテ姉さまという婚約者がありながら他の女にやけに馴れ馴れしく近づいて。
まあ、それだけならエーレンベルグ封じの計略――とでも思ったが。
あの男こともあろうにヘレーネを口説いたのだ。
婚約者のいる身で――である。
流石に。
ただの色ボケではなかった。
あの男はエーレンベルグが力を付けつつある現状に不満があった――らしい。
進歩を尊び革新を旨とするエーレンベルグ。
伝統を重んじ正統を旨とするイエーガー。
新興貴族や大商人からの支持を受けるエーレンベルグ。
古参の貴族や教会からの支持を受けるイエーガー。
あの男はシャルロッテ姉さまの進歩的で自由な考え方が気に入らなかった。
後任にヘレーネを指名したのも――イエーガーの娘なら古式ゆかしく夫の後を黙ってついてくるとでも思ったんだろう。
お笑い草だ。
婚約者がいるくせに他の女を口説くような男、どんな古風な女でも黙ってついて行くわけない。
くすり。
思わず笑みがこぼれた。
あの男を褒めるなんて死んでも嫌だが――姉さまのお相手にローレンツ氏を薦めたことは評価しても良い。
ローレンツ氏は新興貴族や大商人からの支持が厚い。
彼は今まで上級貴族の独占物だった歌劇を新興貴族や大商人に開いた立役者。
政治にこそ疎いがその人脈は馬鹿にできない。
姉さまなら――それを正しく扱える。
顔だって皇太子よりもずっと良いし――開明的な紳士だ。
あのバ――否、皇太子は資産こそ大きいが宮廷での立場の低いローレンツ家をエーレンベルグの重しにしたと思っているようだが――本当に。
どうしてどいつもこいつも女の頭の中には宝石とドレスしか詰まってないと思っているのかしら?
本当に――愚か。
あの賢く気高く誇り高いシャルロッテ姉さまを――そんなふうにしか見れないなんて。
「ヘレーネ様。午後の抗議のお時間です」
「今行きます」
シャルロッテ姉さまが十年で身につけた王妃教育。
ヘレーネは五年で身に着けるように言われている。
スケジュールは過密だがやり遂げてみせる自信がヘレーネにはあった。
だって、あの皇太子に見下されるなんて冗談じゃありませんでしょう?
くすくす。
淑女のしとやかな笑顔の裏でヘレーネは思う。
ねえ、皇太子殿下。
御存じかしら。
王家は血によって王家となる。
ねえ、だから。
私に子供が生まれたら――あなた用済みですのよ?
ヘレーネはシャルロッテLove。「姉さま~」とか言いながら追いかけてた。
シャルロッテも妹のように可愛がっていた、とか。
皇太子のことは好きでも嫌いでもない……ぐらいだったがシャルロッテを振った事により激怒「姉さまの何が不満なのよ!!」
自立志向の強いシャルロッテに強く影響を受け結婚後は影の女帝として君臨する。
「皇太子はヘレーネ好きだったけどヘレーネはそんなでもなかった」が当方のざまあの限界でした……。
ざまあムズい……OTL