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とりあえず、関係の薄い慶太と明は先に帰し、光輝は檸檬に経緯だけを説明した。
光輝にもびとーの正体が判らなかった為もある。
その間、瑞輝は少し離れ、腕組みをして理事長の執務机に寄り掛かっていた。
びとーを含めた会話になると、この二人が喧嘩腰になってしまい、
話が脱線してしまうからだ。
そして何とかびとーの話をまとめると、こういうことになる。
びとーは異世界に棲む精霊のような存在らしい。
炎に属する精霊で、希にこちら側の人間に召喚され、使い魔として契約することがある。使役したいと思う人間が精霊に対し、
属性の力を自分の為に使ってもらうことの代償を提示し、それを精霊が受け入れ、
更にその人間が精霊に新しい名前をつけると契約は成される。
更にびとーの話では、彼を召喚し契約した前の主人は
他に少なくとも水、風、雷、土の精霊を呼び出して契約していたらしい。
そして天命が尽きる前に、その使い魔達をそれぞれキャンバスに封印したのだ。
「たくさん呼び出しては契約してたんだね、前のご主人っていうのは。
でも、封印なんてしないで、契約を解除して、
精霊達を元の世界に戻すことはできなかったのかい?」
光輝が問うと、びとーは首をすくめた。
「異世界の門はそう簡単に開くものではないし、
ましてや世界っていうのは幾つも重なるようにして存在しているんだ。
そんな中で俺達の故郷限定で門を開けるっていうのは
相当高度な技と精神力、体力が必要とされる。
命が尽きかけていたマスターには到底無理な話だったんだ。
更に付け加えれば、その全員が同じ世界から召喚された訳じゃなかった。」
前髪をかき上げながら檸檬が頷いた。
「確かにそれは無理があるね。」
見た目はしっかりしていてもまだ純粋な中学生故か、
この異常な事態にも思考は見事に順応しているらしい。
「じゃあ、桃ちゃんに君が見えて、僕達に見えなかったのは?封印のせい?」
更に光輝が問う。びとーは頷いた。
「確かに、俺と波長の合う限られた人間にしか、
絵の具に隠された封印の紋章の、更に下にいる俺の姿は見えない筈だ。
つまり、見えた時点でその人が次の主人になれる可能性が高いことになる。
波長が合うということは意志の疎通が上手くいくということだからな。」
「ということは、だぞ!」
聞き役に徹していた筈の瑞輝は慌てた声を出した。
「今後は桃ちゃんがコイツの炎の力を使役するってことだ。」
言いながら瑞輝の顔が青ざめた。
その頭の中に、桃が無邪気に使役した力で炎の地獄絵図に変わる世界が浮かんでいるのは間違いなかった。
その横にいた光輝も同じように顔色を失っている。
「「どうする?!」」
声をそろえた二人にまた桃が叫んだ。
「ハッピーアイスクリーム!」
とりあえず光輝は、びとーの属性の力を使わないことを約束させ、
兄妹プラス使い魔を帰した。
約束させたのは兄の檸檬である。
桃やびとーと約束しても不安が残るからだ。
桃は状況を理解していないし、
びとーは、今の段階では、
ご主人さまでもない光輝や瑞輝の言うことを聞いたりしないだろう。
ただ、そんなびとーも、新しい主人である桃の兄で、
純粋さもあり冷静かつ頭の回転も速い檸檬のことは気に入ったようだった。
檸檬の頼みなら聞いてくれそうなのだ。
更に、精霊は状況に応じて姿を変化させることもできるということで、
兄妹以外には見えない姿になってもらった。
また、精霊絡みのトラブルに慶太や明を巻き込まないよう、今後は桃と檸檬とびとーで登下校することにも決めた。
だが、常軌を逸した状況であることには変わりはない。檸檬を味方につけたとはいえ、考えれば考える程頭が痛い状況だった。