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 大宝特別支援学校の一限目は、全校の児童、生徒が体力作りをすることに決まっている。当然のことながら、障害の種類や程度によって可能な運動にはかなりの個人差がある。

だが、桃のような知的部門では運動能力に差があっても、

動作の可能不可能に大きな差はないため、

小学部全員が大体育館に集まって、走ったり踊ったりする。

低学年や運動嫌いな子は途中でやめてしまったりもするし、

みんなとは違う動きをしている子もいる。

教師達はいろいろな個性を持つ子供達と上手く接して、

その子ができうる運動をさせていく。

健常と比べて身体の弱い子供達だからこそ、毎日少しずつの運動は欠かせないのだ。

但し、体調の良くない時には無理は禁物で、

それを自己申告できる子供はごく一部に限られる為、

そういった見極めも教師の大切な職務のひとつである。

 さて、この日も体力作りが始まり、簡単な準備体操の後、ダンスの音楽が流れてきた。嵐の“ハピネス”だ。以前は大塚 愛の“さくらんぼ”だった。

日によっては“石川サンバ”も踊る。

ダンスも歌も大好きな桃は、今日もノリノリだ。

慶太はダンスの最中であっても、

やはり叫び声を上げながら体育館内を走り回っているし、

明は勿論ステージの上の机上に乗ったり下りたりしている。

他にも、自分で作った勝手な振りで踊る子や、大声を出している子、

床にコロコロと転がっている子、なにやら泣きわめいている子もいるが、

そんな誰もが生きる躍動感を輝かせていた。

それは、お受験の為に猛勉強を強要され心身共疲れ切っていたり、

テレビゲーム相手でしか上手く時間を過ごせなかったり、

インターネット上でしか友達を作れない健常の子供達より遙かに

今を、現実を、真剣に生きている姿かもしれない。

ダンスが終わり、次は曲と共に体育館の中を走る。

特に曲は決まっておらず、担当教師の気分によって決まる。

その為、SMAPの“らいおんハート”の日もあれば、

スピッツの“ロビンソン”の日もあれば、

いきものがかりの“じょいふる”の日もあれば、それ以外の曲の日もある。

ヴォーカロイドの曲の時さえあるのだ。

そして勿論この時も、全員がちゃんと走っている訳ではない。

だから走るのが苦手な桃は早々に戦線を離脱して、

走っている子達の円の内側をゆっくりと歩いた。

「ほら!桃ちゃん、頑張って。」

 外側で走っている他の子供達と併走している先生が声を掛けてくれるが、

わざと視線を合わさずに

「もも、がんばってるもーん。」

と言って歩く。

その時開け放した扉から、大きな包みを抱えて前の廊下を歩く男性の姿が見えた。

走るのが嫌だった筈の桃は、戦線離脱どころか体育館を脱走する。

桃的最高速度で。

「りぢちょーせんせー!」

 後ろから腰に抱きついた桃はぱっと離れた。

「ちがう!ニセモノ!」

 タックルしておきながらすぐに離れた桃に振り向いた男性は、

確かに姿形は光輝に瓜二つだった。

だが、いつも抱きついている桃にとっては完全に違う人だ。

「おじさん、だぁれ?」

 尋ねる桃に、瑞輝はニッコリ笑って問い返した。

「君のだぁい好きな理事長先生は、おじさん?お兄さん?」

 桃は胸を張って答える。

「おにーさんだよ!やさしくてカッコいいから!」

「じゃあ、俺もおじさんでなくてお兄さんだよ。優しくてカッコいい、ね!」

「ほえ?」

 呆気にとられている間に、桃は追いついた先生に捕まってしまった。

「はーい、桃ちゃん。走るのは体育館の中にしようねー。」

「えー?もも、もっとニセモノおじさんとおはなししたいー!」

 だが、残念ながら既に瑞輝の姿はそこには無く、

桃は引きずられるように体育館に連れ戻された。



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