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 小一時間後。檸檬と桃は交渉の場に連れて来られていた。

ここには長髪、銀縁眼鏡の男の他にも数人の男達がいた。

銀縁眼鏡の男は細身だが、他は一様に鍛えられた身体をしている。

非合法なことを行うプロの集団のようだった。

そんな中、檸檬と桃は並んで立たされていた。

寝起きでぼんやりしている桃はあまり状況が判っていないらしい。

だが檸檬を始め、びとーや光輝の姿もある為、泣いたり暴れたりすることなく

静かにしている。

「桃。大丈夫か?」

 小声で檸檬が尋ねると不思議そうに見上げて

「おててがいたいよ。それとあたまがかゆいの。」

と言った。

桃も檸檬同様、手首を後ろで縛られているのだ。

 向かい側に立つ光輝は堅い表情をしている。

 銀縁眼鏡の男が口を開いた。

「土地の権利書と譲渡契約書を貰いましょうか。」

 対して、光輝が反論する。

「子供達が先です。」

「理事長さんはどちらが立場が上か判っていらっしゃらないようですね。

こちらはすぐにでも子供達を傷付けることができるのですよ。」

 相対する光輝は片方の手で二通の封筒を掲げ、もう片方の手でライターを点けてみせる。

「お互い様ですよ。子供達に何かあれば、僕はこれに火を点けますからね。」

 声が震えている。銀縁眼鏡の男は鼻で嗤った。

「良いでしょう。ならば、こちらは最初に騎士さんを渡します。

権利書を渡してもらいましょうか。」

「……判りました。」

 あっさり頷いてびとーに権利書入りの封筒を渡す光輝に、はっと檸檬が息を呑んだ。

「そっか。火事があったから、権利書はその間に盗まれたことにできるんだ!

だけど、権利書が無くても譲渡契約書があったら、

ここは何とかかわせても、後から土地の権利を奪われることになる。」

 思わず小声で呟く檸檬を

「檸檬っ!」

とびとーの怒声が貫く。

 銀縁眼鏡の男は喉の奥で嗤った。

「可愛い騎士さんは、思いの外、頭が良いようですね。確かにその通りです。

……ならば変更しましょう。譲渡契約書を先に渡して下さい。」

 光輝はキツく唇を噛んで、声を絞り出した。

「仕方ありません。でも、そちらも譲歩して頂きましょう。女の子を先に返して下さい。」

「女の子を渡したら逃げるんじゃないでしょうね?」

「ここまできて、檸檬くんを犠牲にするつもりはありません。

ただ、小さい女の子を優先したいと言っているだけです。」

 ふん、と鼻を鳴らして、銀縁眼鏡の男は背後の男に顎をしゃくった。

中の一人が桃を連れて進み出る。

 びとーは光輝と封筒の交換をして進み出た。

 鋭利な刃物同士が対峙したかのような緊張感が走る。

が、無事に桃を受け取り、封筒を渡した。抱っこして光輝の横まで戻る。

 封筒を配下の男から受け取った銀縁眼鏡は、中を改める。

確かに本物の譲渡契約書で、署名は勿論、実印もキチンと押されていた。微笑みが浮かぶ。

「よろしいでしょう。では次です。」

 桃をおろしたびとーが、もう一通の封筒を光輝から受け取り、交換の場に立つ。

びとーに確保され、男達から離れる檸檬は、後ろを気にしながら歩く。

配下の男が二通目の封筒を銀縁眼鏡に渡した瞬間、声を上げた。

「びとー、今だ!」

 檸檬の声に、びとーは指を鳴らす。と同時に二通の封筒に火が点いた。

男達が驚き、混乱する間に炎の精霊は桃を抱きかかえる。

その精霊に檸檬と光輝が掴まった。そして一気に空間を跳んだ。


「……お帰り。」

 四人が辿り着いたのは、学校の、光輝と瑞輝の居住スペースだ。

留守番をさせられた瑞輝は思いっきり機嫌が悪い。

だが、本物の権利書を守り、四人が跳ぶ為の炎を確保する誰かが必要だったのだ。

そして、それができるのは瑞輝一人だけだった。

 そう。燃やした権利書は偽物だったのである。

取引である以上、敵が書面を確認するのは当然であるといえる。

だから、先に本物の譲渡契約書を渡して、確認させる必要があったのだ。

たとえ譲渡契約書が本物でも、偽の権利書と一緒に燃やしてしまえば問題は無くなる。

びとーの力が無くては遂行できなかった作戦である。

だが、拉致された状態でここまで頭が廻る檸檬も末恐ろしい、と双子は思う。

何せ、自分達はオロオロしていただけだったのだから。

「桃、ここで檸檬と理事長先生とニセモノお兄さんと一緒にいるんだぞ。…桃を頼む。」

 びとーはそう言い置いて出ていった。

結局向こうは、譲渡契約書も土地の権利書も奪えなかったのだ。

このまま黙っているつもりは無いだろう。

だが、たとえどんな襲撃をされようが、びとーは炎を操れるのだ。

人質さえいなければ、何人来ようが、どんなことをしようが、びとーの敵ではない。

更に

「アイツが炎を操って攻撃してきた、なんて言って、一体誰が信じると思う?

頭がおかしいって思われてお終いだよ。

それに、得体のしれない危険な力を使う者がいると判っていて、

今後も絡んでくるとも思えない。

だから、びとーの好きなように、思う存分、遊んであげて。」

とは檸檬の弁だ。

桃を危険に晒したことに対して、かなり頭にきていると言っていい。

「おにいちゃん、おなかすいた。」

 檸檬を見上げる桃に、瑞輝が言った。

「そう言うと思って、ハンバーグを作ってあるぞ。桃ちゃん、手を洗ってきな。」

 途端に桃の瞳が輝く。

いつも光輝にやるように、瑞輝に抱きつくと

「うわぁ!ニセモノおにーさん、だーいすきっ!」

と言って、嬉しそうに手を洗いに行った。

こんなに可愛いんだ、光輝も檸檬もでれでれになって当たり前だよなぁ、

と思ったりする瑞輝だ。

だが、そこを差し引いても、妹絡みで怒った檸檬は絶対に怖すぎる。



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