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後日。やはりオバサン達はやってきた。
「学校でラクガキ騒ぎがあったようですが、
不審者への対策はどうなっているんでしょう?」
幽霊話の時と比べて、腰が低く化粧が濃い。
あまり相手にしたくないのが本音だが、追い返す訳にはいかない。
とはいえ、面倒事も嫌なびとーは魅惑の笑みを浮かべて対応した。
柔和に、美しく、スマートに、さっさと撤退させる気マンマンである。
「ラクガキの被害に遭ったのは、児童・生徒も下校し、教職員も全て帰宅した夜間です。日中、子供達がいる際は、理事長も私も頻繁に見回っておりますし、
防犯カメラなどの設置も検討中です。」
美青年に微笑み返して、オバサンは畳み掛けてきた。前回とは違った意味で。
「実はPTAでも先生方に協力しようと思いましてね、
当番制で校内を巡回して回ろうと思いますの。」
オバサン連中にウロウロされるのは尚更面倒である。
「ですが、美しくか弱い女性の方々を危険な目に遭わせる結果になっても困りますし、
その辺の対応は学校に任せて下さいますか?」
話はお終いと言わんばかりの、笑顔のびとーにオバサンはあっさりと、
とんでもないことを口にした。
「学校には私共の子供達が通わせて頂いているのですから、
先生方にばかりご負担を掛ける訳にも参りません。
そこで、PTAのメンバーが順番に学校に参りますので、
びとーさんにも一緒に巡回して頂きたいんです。
二人で回れば何か遭っても対処できますでしょう?」
オバサン達はどうやら、これ幸いと、
人間離れした美しさを持つびとーとお近づきになろうとしているらしい。
尤も、こういう機会でも無ければ、
理事長秘書であるびとーと保護者の接点は極端に少ないのだ。
ニッコリ笑うオバサン達の突飛な提案に、当のびとーは急には反応できなかった。
「へっ?」
唖然とするびとーを後目に、瑞輝は笑顔で即座に承諾した。
「そういうことでしたらお願いします!」
かくして、瑞輝のささやかな意趣返しの結果、
びとーは日替わりでオバサン達とデートすることに決まってしまった。
意気揚々と引き上げるオバサン軍団を見送って扉を閉めると、
瑞輝は振り向いて、小さくガッツポーズを決めた。
「ざまあみやがれ!」
「瑞輝、お前っ!」
我に返ったびとーが瑞輝に怒りを向けようとした、ちょうどその時
「びとーっ!りぢちょーせんせーっ!ニセモノおにーさーんっ!」
と、大声で叫びながら、桃が理事長室に飛び込んできた。
だが、比喩ではなく本物の火花を散らしながら怒るびとーに尻込みする。
人間サイズのままなのでその迫力も半端じゃなかった。
「……びとー。こわいよ。どしたの…?」
半無きの桃を見て、びとーの態度がコロッと変わる。火花も消えた。
「桃。お勉強は終わったのか?がんばったな。」
満面の笑顔で良い子良い子と頭を撫でる。桃の機嫌も直った。
「うんっ!」
実は桃は小さいびとーよりも人間サイズの方が好きである。甘えやすいからだ。
そして、力も強い。
コロコロした桃は細身の檸檬は勿論、父親でさえも重くて抱っこができない。
だが、びとーは抱っこだろうが肩車だろうが全然平気だった。
腕を伸ばす桃を、びとーは笑顔で抱き上げた。