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 オバサン達の襲撃から数日。

びとーは色素を変えて人間サイズで理事長室にいることが多くなった。

オバサン軍団がなんやかんやと理由を付けて、びとー目当てに理事長室に来るからだ。

保護者達には勿論、学校関係者にもびとーは臨時の理事長秘書としてある。

学校関係者以外の者が校内をうろついているというのは、

光輝の立場を更に悪くしかねないのだ。

また、人によっては、檸檬が桃を迎えに来る時間を目掛けて理事長室を訪れていた。

精霊であるびとーの美しさには敵わなくとも、光輝も瑞輝も醜い訳では決してなく、

四人が揃う時間は最高のタイミングだと思われているようだ。

オバサン達に巻き起こる一時の良い男ブームであった。

 だが、幽霊の噂はかなり鎮火したものの、その出所は判らなかった。

 ようやくオバサンまみれの状態が少しだけ落ち着いたある朝、

登校する桃を連れて支援学校に着いた檸檬とびとーは、あまりの事態に度肝を抜かれた。門の奥、学校の校舎に、広範囲に渡って

ペンキやカラースプレーで色とりどりのラクガキがされていたのだ。

「一体、どうなってるんだ?」

 目を白黒させる檸檬に、びとーが言う。

「とりあえず檸檬は学校へ行け。それが檸檬の義務なんだろう?

桃のことも、このラクガキのことも、今は俺に任せて欲しい。後のことは全て放課後だ。」

 桃を教室に入れてしまうと、人間サイズになったびとーはラクガキを見に行った。

案の定、そこには光輝と瑞輝が雑巾を持ってラクガキと格闘していた。

現れたびとーを見て、瑞輝が怒鳴った。

「おい!このラクガキを何とかしやがれ!」

「俺の力は炎だ。この力でラクガキを消すと校舎まで消える。」

「違いない。」

 しれっと怖いことを言うびとーに、光輝は苦笑した。

 そこに何人かの児童が走り寄ってきた。

みんな手にマジックやらクレヨンやらサインペンやらを持っている。

光輝も瑞輝も素晴らしい予感がした。

「おえかきしたいーっ!」

 子供達はその恐ろしい期待を裏切らなかった。

「ちょっ、ちょっと待って!先生達はお絵かきを消しているんだよ?!」

 光輝が叫ぶが、子供達は聞いちゃいない。

わいわいと楽しそうにお絵かきをする。

そして、その人数は時間と共に増えていった。

宮田を始め、他の教師達も集まってきて必死に押し止めようとするが、

子供達の勢いは止められない。

青ざめる双子の横でびとーは声を上げて笑った。

そして当然、お絵かき組の中に桃の姿もあった。

嬉しそうにレモンと火のついたロウソクの絵を描いていた。

 結局、一限目は子供達の勢いに負け、お絵かきタイムとなった。

そのかわり、二限目以降をラクガキを消す作業に当てた。

勿論、子供達にもう二度と校舎にラクガキをしないことを言い含めた上で。

 檸檬が桃を迎えに来た時には、ラクガキはほぼ綺麗に消えていた。

が、光輝も瑞輝も疲れ切っていた。

檸檬の顔を見た瑞輝が重く口を開く。

「檸檬の学校に、こんなイタズラを平気でするようなヤツらはいるか?」

 少し考えて首を振る。

「ここまで大胆なラクガキをする以上、これをしたのは人目の無い夜だと思うんです。

でも、そんな時間だと門は施錠されているだろうし、

この学校の塀はニメートル近くありますよね。

しかも塀のすぐ外はぐるっと溝になっている。

そう簡単には、侵入してラクガキして逃亡まで完璧にこなし、

何の痕跡も残さないなんてことはできない。

というか、そこまでして校舎にラクガキするなんて無意味でしょう?

もしうちの学校の生徒がイタズラするなら、そこまで面倒なことをしないで、

塀にラクガキするんじゃないかな、と思います。

それなら溝に落ちないように気を付けさえすれば何とかなりそうだし、

絵を描く面積も十分過ぎるくらいにあるし。」

「そうだよな。俺もそう思う。」

 肯定する瑞輝。更にびとーも頷いた。

「これも理事長への悪意のひとつだな。」

「……そうかもしれないけど、落ち込むなぁ。そこまで僕は誰かに嫌われているのか?」

 頭を抱える光輝の言葉を、びとーは言下に否定した。

「違うだろう。何か利害関係がある筈だ。」

「学校を利益換算するとなると、一番利害関係があるのは俺なんだが。」

 瑞輝がムッとしている。

「利害関係については、俺はわからないんですけど。」

 喧嘩になる前に檸檬が割って入った。

「学校関係者って線は考えられないんですか?

合い鍵を作って門を開けてラクガキをしたって可能性は?」

 その時ノックがあり、校長の沖田が入ってきた。

檸檬は仕方なく会釈をして、桃の手を引いて理事長室を出る。

だが、ニセ秘書であるびとーはそのまま理事長室にとどまった。

「理事長。先日の噂の件は不可抗力ですが、

今回のラクガキは少し注意すれば防げたのではないのですか?

少なくとも理事長と瑞輝さんのお二人は、ここで生活もしていらっしゃるのですから。

もう少し理事長としての責任感を持って頂きたいですね。」

「すみません。」

 謝る光輝に沖田は続けた。

「こんな形で校舎に侵入されたとあれば、またPTAが騒ぎますよ。

不審者に対する安全対策はどうなっているのか、とね。対応を考えておいて下さい。」

「はい。」

 頷く光輝に沖田は厳しい目を向けた後、退室した。

「ふー……。」

 光輝は大きくため息をついた。

「キツいな……。」

 光輝に瑞輝も頷く。

「確かにな。だが、沖田さんの言うことも尤もだ。またオバサン達が押し掛けるぞ。」

 双子はゲンナリした。

「大変だな。」

 他人事のようにそう言ったびとーが一番大変になるとは、

その時は誰一人思っていなかった。



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