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私とあの子と槻山くんの49日間  作者: 雨咲まどか
私とあの子と槻山くん
4/6

私の日記4

5/13 (月)

 遠足だねえ、と槻山君に言ったら、「だから校外学習だって」と言われた。…つまり遠足だよね。

 山にはそれはそれは驚くほどの毛虫がいて、槻山くんとまなみの叫び声がしょっちゅう響き渡った。槻山くんのあんなに大きな声ははじめて聞いた。私はそんなに虫って怖くないけど。私の後ろに張り付く二人はなんだか新鮮だった。


 そして出来上がったカレーだけど、火が入っているような入っていないような、ちょっぴり不安の残る出来栄えだった。この班には料理が出来る人間がいないのか。いません。

 料理練習しようかなあ。もう中学生だし、多少は出来たほうがいいのかも。今度お母さんに習ってみよう。

 それにしても疲れた。疲労困憊とはこのこと。困憊って最近覚えた。






5/14 (火)

 暑い。気温上がりすぎじゃないかな。

 下敷きでぱたぱたしていたらまなみに「なんかおばさんくさい」と言われた。そんな事いってるけど、じきにまなみもぱたぱたしだすに決まってる。


 制服もそろそろ、シャツ一枚でも平気なくらいになってきた。でもあれ透けるし、汗かくとばれるからなあ。毎年結構ぎりぎりまでベスト着てるなあ。マキちゃんなんか決断が早い。真っ先に半そでになるのもマキちゃんだ。

 槻山くんは未だにカーディガンを着てくる。薄いとはいえ、暑くないかな。

 聞くと、


「寒いの苦手なんだ。朝とか、まだちょっと寒いし」


 といっていた。おじいちゃんか。






5/15 (水) 曇り

 五時間目、美波はまなみとマキちゃんと一緒に自習のプリントを早々に終わらせると居眠りをしていた。

 私は本を読んでいる槻山くんに話しかけた。なんだかすごくどきどきした。

 槻山くんは甘いものが好きらしい。ケーキより和菓子、紅茶より緑茶派だそうで、似合うなあと思う。


「古谷さんは?」


 聞かれて、答えられなかった。私は、どうかなあ。






5/17 (金)

 裁縫は苦手だ。だから、家庭科のトートバック作りも苦手だ。

 そもそも、なんで裁縫なんかする必要があるのか。だって、トートバックなんかそこらへんでいくらでも売ってるじゃない。普通に授業受けてるよりは楽しいけど。槻山くんが妙に上手いのはいつものことだが、まなみの意外な裁縫技術には驚いた。最初の、縫い方の復習なんかさっさと終わらせてしまってた。すごい。


 放課後は書道部に入部して、早速新しい友達が出来た。これで私の字も、綺麗になることだろう。






5/18 (土) 晴れ

 話せば話すほど、目を合わせれば合わせるほど、どんどん好きになる。

 色んなことをしてみたい。色んなものを食べてみたい。色んなものをみてみたい。美波みたいに。






5/20 (月)


「昨日、おばあちゃんの家に遊びにいって、手土産に近所でドラ焼きを買っていったんだけど、すっごく美味しかった。ドラ焼きってあんな美味しいんだね、ネコ型ロボットの気持ちがわかったよ」


 マキちゃんがしみじみと語り、私たちがふうん、と適当な返事をすると、珍しく横から槻山くんが「それ、どこの店?」と話に入ってきた。


 それから、マキちゃんと槻山くんはドラ焼きトークで盛り上がり、私とまなみは顔を見合わせるばかりだった。ドラ焼きねえ……。どうも槻山くんはあんこに対して熱い思いがあるようだけど、私は断然生クリーム派である。






5/21 (火)

 体育は1、2組合同だから、よーこちゃんと一緒だ。ハードル走に対するよーこちゃんの言い分が、ちょっと面白かった。たしか、


「何ゆえ、あんなものを飛び越える必要があるのか。行く手を遮られたからといってそれを避けるのは心の弱い人間のすることだよ。突き進んでこそ女だよ」


 だったかな。

 そんなよーこちゃんのハードル走は、「彼女が走った後はハードルが残らない」と評される。







5/22 (水) 晴れ

 槻山くんが、美波のことを「美波さん」と呼ぶようになった。「美波でいいよ」と美波が言ったから。私は、そんなこと言えない。でも、それでもさん付けなのが槻山くんらしいな。

 わかっていたはずなのに、槻山くんが「美波さん」と言うのを聞いて胸が痛んだ。困ったな、諦めなくちゃ。






5/23 (木)曇り

 歌のテストが近々あるみたい。私は歌なんてぜんぜんだしわかんないけど、美波は上手い。まなみも上手い。槻山くんは苦手だと言っていたけど、どうなのかな。男の子は声変わりがあるから、どうしても安定するのに時間がかかるって先生がいってた。いつか聞いてみたいなあ。







5/24 (金)

 よーこちゃんの話は面白い。あの赤い眼鏡の奥で、変な事ばかり考えているのだろう。

 けど、今日見せてもらったよーこちゃんの字は、とっても豪快でかっこよかった。字って、人柄があらわれるのかも。槻山くんの字は、まとまっているようで勢いがあって、綺麗だけど癖がある。私の字はまだまだ汚いのでなんともいえないけど、よーこちゃんが「面白い字だね」といっていた。嫌味にならないのが、よーこちゃんのいいところ。







5/26 (日)

 どうにも、おかしい。最近寝てばっかりだし、記憶が飛んだり、あいまいになっている事がある。


 あ。


 忘れていた。今まで、忘れたりしなかったのに。ここの所、頭の片隅にも浮かばなかった。

 あの子の事を、私は、忘れていた。

 なのに今、ぱっと頭に浮かんだのは、どうして。


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