鼓動
即興小説トレーニングというサイトで、
制限時間15分 お題:僕の愛した虫
でかかせていただいたものです。珍しく書ききった。
ちょこっと修正とかしてる。
「またそんなのの世話してんの?」
「うん、」
「ほうっておけばいいのに。生き物係がやるだろー?」
「うん、でも、僕がやりたくてやっているから」
今日も寺戸くんに声をかけられた。僕がこの子たちのお世話をしているのが、あまり気に入らない? のかな。よくわかんないけれど、いつも話しかけてきてくれる。僕はそれが少しだけ嬉しかったりする。
「ふうん」
それから寺戸くんは、サッカーボールを持ちだして校庭へみんなと遊びに行ってしまった。お昼休みにひとりぽっちでカイコと戯れる僕なんかに、毎日ごくろうさまだなあ、なんて考えていた。 きっとこんな僕でも、遊びに誘おうとしてくれていたんだろう。本当に良い子だと思う。
クラスで生き物を飼いましょう。先生がそう言い出して、なぜだかカイコガの幼虫を飼育することになった。もちろん、金魚だとかハムスターだとかを期待して係に名乗った女子達は、こんな毛虫(毛なんてはえていないけど)の世話をするなんてみじんも思っていなかったみたい。
僕はこの子たちの白い体に、初めて見た時から幾分か惹き付けられていた。それで今じゃ完全に虜なのだ。
とても、かわいいんだ。家に帰ってお父さんに話を聞くと、カイコは自分たちだけでは生きていけないらしい。足が退化しているから、ずうっと木の枝なんかに止まっておくことができないんだそうだ。そうでないにしても、すぐに鳥とかに食べられちゃって、いなくなっちゃうんだと聞いた。
確かにこんなに輝く白色をしていたら、すぐに見つかっちゃうかもしれないね。と、僕はお父さんに笑って言った。
指の腹でカイコのお腹をすこしつまんでみる。ぷち、ぷち、と、桑の葉から足が離れていく感覚が、僕は可愛らしくてたまらなかった。そうして手のひらにのせてやれば、のろのろ、ぷちぷち、と、可愛らしく歩いてくれるのだった。
僕もカイコになれたらいいのになあ、なんて考えながら、今日もあの子たちの世話をするんだ。先生がいうには、カイコたちは繭を作っても、そのなかでそのまま死んでしまうことが多いそうだ。成虫(ガの事だよね?)になっても、羽があるくせに飛べはしないんだと聞いて、本当にいとおしい存在だと感じた。愛おしいなんて感情はよくわからないけど、体のどこかしこがむずむずして、ちょっときゅって苦しくなるんだ。
オトナの人はそれを恋とか愛とか謂うんでしょう? なら、きっとこれもその、恋だとか愛だとかなんだと思う。
そしてぼくは、放課後になって、みんなで飼おうと決めたカイコをぜんぶ捻り潰したんだ。なぜかはわからないけれど悲しくて悲しくて、それでいてとてもドキドキして、可愛くてしょうがなくて、それから少しだけ其れを舐めてみた。
ぼくの大好きな、非力な虫達。重力に逆らえない可哀想な虫達。
ぼくのだいすきな、いとおしい虫達。
そして、きっと僕らも、この子たちみたいに、何か大きなものに簡単に捻り潰されてしまうんだろうなあ、なんて、根拠のないことを考えながら、それからおかしくてたまらなくなって、ただただ嗤っていた。
「寺戸くん。カイコ、みんな死んじゃったよ」