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神の吹かせる風  作者: わた
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出会い6

えっちらおっちら階段を上り、やっと屋上までたどり着いたワープは、ほぉっと息をついた。


銀色の鐘がいくつも、出番を待つかのように釣り下がっている。ワープは手すりに手をかけ、その奥の景色に歓声をあげた。


広大な学園の敷地が全て見渡せる。あんなに大きく見えた校舎も中庭も、今は手に取れそうなほど小さい。


その中庭の芝生の中に、ガラス張りの小さな建物があった。人形の家のように華奢で繊細な造りのそれは、そこだけが異世界であるかのように、ぽつんと置かれている。


(きっと、あれが温室ですね)


ワープはにっこりした。その時、凄まじい音を立てて鐘が揺れだした。近すぎる位置にいたワープはその衝撃を直に受け、飛び上がる。お腹の中が掻き回されるんじゃないかと思うような大音量。


「す、すごぉい……」


圧倒されて立てなくなったワープは、身を低くしたままよろよろと階段へ向かう。

さあ降りようと足を踏み出したとき、トンと軽く背中を押された。


(え……?)


バランスを崩したワープの体は、ふわりと浮いて下へと落下していく。


「えっ、きゃあああー!!!!」


悲鳴をあげて階段を転がり落ちていく……と思われたワープの体は、数段転がったところで何かにぶつかって止まった。


「え……?」


おそるおそる見上げると、そこには冷たい黒の瞳があった。いつの間に戻っていたのか、ラインがワープを受け止めてくれていたのである。


「あ、あの……」


ラインはワープを立たせると、何も言わずに屋上へ駆け上がっていく。 あわてて後を追うと、彼は手すりを乗り越えて下へ飛び降りようとしていた。


「なっ何をしているのですか!!」


あまりの驚きに、ワープは今まで出したことのないような大声をあげる。

ラインは舌打ちをすると、ワープの元へ駆け寄る。そしていきなり膝と背に腕をまわして抱き上げた。


「ひやああぁ!?」


突拍子もない悲鳴をあげるワープを無視し、ラインはそのまま時計塔から飛び降りた。


「いやあぁぁぁ!!」


ワープはとっさにラインにしがみつく。ロマンを感じさせるそんな格好も、今の状況では意味がない。体に感じる風と徐々に近づいてくる地面に死をも覚悟するワープ。けれどその思いを嘲笑うかのように、ラインはきれいに着地して見せた。


「……………」


しばらく何も考えることの出来ないワープをすとんと地面に座らせ、ラインは辺りを見回す。それから何か諦めたようにため息をついた。


やっと人心地のついたワープは、かすれる声でラインに呼び掛ける。


「あの、ラインさま。一体何事なのでしょうか……?」


おどおどと尋ねるワープに、ラインは呆れた視線を向ける。


「お前もおめでたい奴だな。自分が殺されかけたのがわからないのか?」

「殺されかけた……」


ワープは先ほど背中を押され、階段から落ちたことを思い出す。あのときラインがいなかったらどうなっていたかを想像し、ぞっとした。


「なぜ……?」


自分を殺して、一体なんになると言うのだろう。


「なぜ?本当にわからないのか、お前」


うなずくワープにラインは呆れた、ととうとう口に出す。


「そんなの決まっている。お前が次期祈りの巫女だからだよ」


きょとんとするワープ。


「なぜ、次期祈りの巫女ならば殺されかけるのでしょう」

「……この国の住民皆が、祈りの巫女を崇めている訳じゃない」


ラインの目が、ふっと陰った。


「中には祈りの巫女を消すことで国の新たな象徴をつくり、革命を起こそうとする輩もいる。<神落とし>と呼ばれる集団が主だ」

「神落とし……」


そんな集団がいたなんて、全く知らなかった。やはり自分は世間知らずなのかと落ち込む。自分の身に関わることだというのに。


「どこからかこの学園に次期巫女が来るという情報を仕入れたんだろう。巫女を狙うのに一番の枷となる巫女の騎士を育てる学園だ。前々から目をつけられていただろうしな」


淡々と、でも饒舌に話すライン。ワープは頷き、そのままうつむいた。


「私、そんなこと全然知らなくて……。あの、助けて頂いてありがとうございました」


立ち上がり、深々と頭を下げる。ラインはつまらなそうに、


「別にいい」


一言答えた。

それから思い出したように付け加える。


「お前、自分の背中を押した奴に気づかなかったのか?」

「う……その、はい。全く」


恥ずかしながら、と身をすくめるワープ。呆れられるだろうと思ったが、ラインは表情を変えず、何か考えるように歩き去ってしまう。


「あ、あのっ?」


あわてて声をかけるものの、ラインは振り返らない。

後を追うのもなにか阻まれ、ワープはぽつんと立ち尽くすしかなかった。

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