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神の吹かせる風  作者: わた
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出会い3

大きなガラス扉をそぉっと開き、ワープは校舎に足を踏み入れる。そして、小さく歓声を上げた。

広いエントランスの真ん中には噴水があり、火の精霊の加護で光るシャンデリアに照らされてきらきらと輝いている。床は天然石でできており、これでもかと言うほどに磨かれていた。窓も、壁も、全てが完璧に手入れされ、観葉植物の葉一枚に至るまで、汚れた場所など見当たらない。


同じ豪華でも古代から装いを変えない神殿とは違い、この学園は最新のインテリアを揃えている。ワープの目にはどれもこれも新鮮に映り、すぐにでも走り出して全てを見て回りたくなった。

けれど仮にも次期祈りの巫女としてここへ来た身である。寸でのところで思いとどまり、軽く咳払いをして気を落ち着ける。


「貴女がワープ・セベリア嬢かな?」


不意にかけられた声に、ワープは飛び上がった。

目の前に現れたのは、ひとりの老人。長い白髪を後ろ手に束ね、白いローブに身を包んだ全身白づくめの温和そうな老人だ。

一体どこから出てきたのだろう。目の前に居るというのに、彼がいつの間にそこまで来たのか、まったくわからなかった。それとも、最初からそこに居たのだろうか。

おろおろし始めるワープに笑いかけ、老人は穏やかに言う。


「どうぞソファーにお掛けなさい」


そこでワープはあわてて挨拶をし、ソファーに腰掛ける。ふかふかだ。


すると、奥の方からとてとてした足取りで小さな女の子が出てきた。明るい栗毛を赤いリボンでふたつに束ね、ふりふりしたドレスを着ている。手にはティーポットとカップ。どうやらお給事さんらしい。


「お茶をお持ちしました」

「ご苦労様、ルル」


少女はぺこりとお辞儀すると、またとてとてと引っ込んでしまった。

老人はゆったりとカップにお茶を注ぐ。ふわりといい香りが広がった。


「このお茶はリフィルからもらったものなんです。貴女には馴染みがあるでしょう」


確かにリフィルがいつも飲んでいる紅茶に香りが似ている。

ワープははっとして、老人に問いかけた。


「あなたがエルミタージュ校長ですか?」

「えぇいかにも。貴女のことはリフィルから聞いていますよ、ワープさん」


見る者全てを安心させるような笑顔で答えてくれるエルミタージュ。ワープは立ち上がり、深々と頭を下げた。


「この度は私のような者を入学させていただき……」

「いやいや」


笑顔のまま手で制し、エルミタージュはワープの言葉を遮る。


「リフィルの考えには私も大賛成ですからね。この頃は優秀な騎士候補生が多くて。ぜひ君には彼らとの絆を深めて欲しいものです。」


穏やかに言うエルミタージュに、ワープもにっこりする。

騎士候補生のいる学校とはいえ、知らない人たちの中で暮らすのが少し怖かったワープは、エルミタージュの優しい風貌に大層安心した。校長先生がこんなにも優しいのだから、生徒だってよい人ばかりに違いない。


エルミタージュはワープに紅茶を薦め、自分も美味しそうにカップをあおぐ。


「リフィルという巫女にも欠点はあります。人ならば当たり前です。けれど彼女は自分の信じる道はとことん信じるという、実に見上げた美点の持ち主です。そして彼女の信じる道というのは、決まって正しい。リフィルが信じてこちらに送り出した貴女には、私も期待していますよ」

「そんな、私なんてまだまだ未熟です。期待に添えるかどうか……」

「その未熟さが、貴女と貴女の騎士の未来をつくっていくのですよ」


物知顔で紅茶を飲んでいくエルミタージュ。納得のいかないワープが問いかけるように見つめても、彼は答えることはなかった。


「今日は自由に学園内を見て回るといいでしょう。明日から、正式に授業を受けてもらいますから。巫女の騎士となる者と同じ教室で」


ワープは胸が高鳴るのを抑える。これから、自分と生涯を共にする騎士と出会うのだ。


嬉しいというよりも恐ろしい思いが込み上げる。自分のために生きようとしてくれるひとがいるというのは、恐れ多くて震えが起きるほどだ。


エルミタージュはじっとワープを見つめ、それから優しく微笑んだ。


「貴女は騎士に恥じない巫女となればよいのですよ」


それを聞いて、ワープはこの老人が自分が思うより遥かに賢く、そして優しいひとなのだということがわかった。深い知恵を称えたエルミタージュの瞳を見て、ワープも笑顔になる。


(そうです。私はリフィルさまの弟子なのですから。頑張らなければなりません)

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