出会い2
数日前、ワープは白い巫女衣装に身を包み、いつものように神殿で祈りを捧げていた。聖堂には女神セナフィールドの像が重々しく置かれ、見下ろされる形で祈りの文句を唱えていく。
「ワープ。話があるの」
祈りを中断し、女神に一礼したとき、背後から声がかかった。
振り向くと、そこには金髪をさっとかきあげる美しい女性がいた。巫女衣装ではなく黒いドレスとブーツを身に付け、口紅と同じ色の瞳が白い顔に映えている。見た目からは少し信じられないが、彼女こそがこの王国の象徴、祈りの巫女として神殿に仕えるワープの師匠、リフィル・ハートレットであった。
「なんでしょう?」
ワープは微笑んでリフィルのそばへ寄る。
巫女衣装が嫌いで化粧好きなこの巫女の力を疑問視する国民もいる。
けれど誰よりも神へ忠誠心を向け、修行にも耐えてきたリフィルを知っているワープからしてみれば、彼女こそが歴代で最高の巫女なのだった。
「あなた、世間を学ぶ気はない?」
「世間?」
きょとんとして師匠を見つめるワープ。それから、ぱっと顔を輝かせた。
幼いころから次期祈りの巫女として修行の日々を送り、神殿に籠りきりだったワープは、まるっきりの世間知らずである。務めのためとはいえ、そのことを密かに気にしていたワープにとって、リフィルの言葉は願ってもないものだった。
「あたしの知人に、学園を営んでいる老人がいてね。そこは優秀な巫女の騎士を育てているの。あなたを守るための騎士よ」
「私を、守るため……」
「あたしは常々思っていたのだけれど、やはり巫女と騎士は絆で結ばれなければならないわ。お互いを守りあうのだから。なのであなたには学園に入学してもらい、世間を知り、その上騎士候補生と仲を深めてほしいの。どうかしら?」
優しくそう言ったリフィルに、ワープは感激のあまり涙で瞳を潤ませた。
募りに募っていた神殿の外への興味を解放させてくれると言うリフィルがあまりにも素敵に見え、親愛の情で胸がいっぱいになる。
「リフィルさま、ありがとうございます」
「わっ何泣いてるのよ。言っておくけど、学ぶことがたくさんあるのよ。大変なの。わかってる?」
呆れたように弟子の頭を撫でるリフィル。
彼女の心配の種はワープに自分で生活していく能力が乏しいことで、その上おとなしく流されやすい性格のため、集団生活に耐えられるのかが問題だ
それでもワープに新たな道を用意したのは、彼女の持つ芯の強さを信じたからである。彼女ならば自らの剣と盾となってくれる騎士と心を通わせ、巫女として立派に成長してくれるであろうと。