出会い1
春の風の香りが心地よい季節になった。
寒かった冬を洗い流すような暖かい風が吹き付けてくる。これからやってくる暑い夏のことなど感じさせない陽気だ。
それは無意識のうちに心を浮き立たせ、まだ見ない未来に限りない希望を予感させてくれた。
フィリエット学園―
王国中から多数の入学希望者を集めるこの学園には、ある特徴があった。
王国の守り神を祭る神殿に仕える「祈りの巫女」が、王国の象徴とされる世。巫女の存在は国民の心の支えであり、なくてはならないものである。
その祈りの巫女を守護する役目を負うのが、「巫女の騎士」と呼ばれる武人である。
巫女の騎士となることは騎士を志す者の憧れであり、最高の名誉を意味する。
そしてフィリエット学園こそが、巫女の騎士を育てる、王国一の名門校なのである。
そのフィリエット学園の中庭に立ち、巨大な校舎を見つめる少女がいた。
「ここが……」
ガラス張りの正面棟は太陽の光できらめき、まぶしいくらいだ。壁面の中程には女神を模したステンドグラスが張られ、その存在感を一層強めている。
少女は大きく息を吸った。
ワープ・セベリア15歳。今日フィリエット学園へ編入する彼女は、大いに緊張していた。
淡い金色の髪を赤い石の髪どめでふたつに束ね、まっすぐに垂らした髪型。体はか細く背は低く、一見15歳には見えない。真新しい制服はぶかぶかで、スカートを生真面目に膝下まで長くしている。
そんな彼女の瞳は、祈りの巫女として修行を受けた者にしか表れない、澄んだ紅色であった。
そう、彼女こそが次期「祈りの巫女」として神殿に仕えるべき少女なのだ。師匠である現巫女に言いつけられ、礼儀見習いとしてフィリエット学園にやって来たのである。