出会い10
ルルが案内してくれたのは、学生寮の最上階にある部屋だった。三角屋根のおかげで部屋の形も三角の、一際小さな部屋。それでも今まで自分の部屋というものを持ったことのなかったワープは、感激して瞳を輝かせた。
「申し訳ありません。機能性より安全を考慮すると、やはり最上階が適当かと思いまして」
「とっても素敵な部屋ですよ。小さくて可愛らしいです」
嬉しくてクッションを抱きしめたりするワープに、ルルは目を丸くする。
木の壁や床はどこか安心する香りを放ち、丸い窓からは明るい光が射し込む。小さなテーブルやベッドなど家具も愛らしいサイズで、ワープはすっかりこの部屋を気に入った。
「ご用があれば、ベルを鳴らしてください」
ルルはベッドの隣の小さなベルを示す。
「風の精霊がわたしに音を届けてくれます」
「お世話をおかけしてすみません」
頭を下げるワープ。それを見て、ルルが不思議そうに首をかしげる。
「ワープさんはなぜ祈りの巫女となる身分なのに、そこまで腰が低いのでしょう」
「え、」
どう返したらよいのかわからず固まるワープ。ルルは悪気があるわけではないようで、単なる好奇心で尋ねたらしい。
「リフィルさんはどちらかというと図々しい方です。だから祈りの巫女とはそういうものだと思っていました」
まったくの本音を吐き出すルル。彼女の言葉から少しの悪意も感じられないのがせめてもの救いで、ワープは苦笑いを崩せない。
「……私は、でも、リフィルさまに憧れていますよ」
「はい。わたしもリフィルさんはよいひとだと思っています。だから、ワープさんもよいひとなのでしょうね」
ルルは可憐に微笑んだ。見る者すべてを幸せにしてくれるような、愛くるしい笑顔だった。
つられるようにしてワープも笑顔になる。この学園には強烈なひとがいっぱいだ。
「あの、ワープさん」
今まで常に淡々としていたルルが不意にもじもじと俯く。
「わたしの部屋はすぐ隣ですので、よければたまーに、お話相手になっていただけないでしょうか。気が向いたらでいいのですが」
恥ずかしそうに言うルル。ワープは感激して何度も頷いた。
「もちろんですっ。わたしもお話ししたいです」
その返事にほっとしたのか、ルルも嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます。それではお荷物の整理をお手伝いします」
ふたりは荷物をワードローブに納めていった。もともと服はあまり持っていないので衣類の整理はすぐに終わり、次にお祈り用の道具の整理に移る。
巫女衣装や水晶の埋め込まれた髪飾りなど、神聖な道具を大事に引き出しにしまっていく。
「きれいなお道具ですね。これを使ってお祈りするのですか」
「はい。休日は毎日しようと思っています」
ふたりは慎重に道具を納め、最後にパタンと引き出しを閉めた。
「手伝って頂いて、ありがとうございました」
「お疲れ様です。それではわたしは校長室に戻ります。ワープさんもいらしてください。今日のところは騎士候補生と接触するより、校長室で過ごした方がよいでしょう」
見た目に反するきびきびとした口調に戻ったルルに言われ、ワープはおとなしく従うことにした。ひどく疲れていたので、校長室の落ち着いた雰囲気に居れるのは喜ばしい誘いだった。