同じ六歳、違う結末② 〜佐川の胸の内〜
扉を閉めた瞬間、背筋を伸ばしていた力がわずかに抜けた。
——雑巾のようなカーディガン。
胸の奥で、その言葉が静かに反響する。
似合っている、と言われた。
侮辱のはずなのに、否定できない自分がいる。
(似合っている……そうでしょうね)
かつてはシルクやカシミヤしか身につけなかった。
自分の屋敷で、使用人たちが頭を下げる光景を当たり前のように眺めていた。
若い夫を隣に置き、六歳差を誇らしく思っていた。
「年下でも私が導く」と、本気で信じていた。
だが、導いていたのはどちらだったのか。
財産が尽きた途端に消えた笑顔。
「あなたに価値はない」と言われた日の冷たい視線。
そして今。
自分より六歳年下の女に「佐川」と呼び捨てにされ、
顎を上げられ、過去を暴かれ、
“選ばれなかった女”と静かに断じられる。
(六歳差……同じだった)
あの瞬間、胸の奥がひどく抉られた。
奥様は、同じ六歳差でも“上がった”。
私は、落ちた。
同じ年齢差なのに、結果は真逆。
それが、何よりも残酷だった。
カーディガンの袖をそっと握る。
毛玉の感触が指先に当たる。
十日洗っていない。
許可がないから。
自分で決められないから。
かつては、屋敷の中のすべてを決めていた女が。
(自分で何も決められない)
奥様の言葉が胸に刺さる。
でも——
出て行く勇気もない。
あの屋敷を失った日、
誰にも必要とされなくなった日、
自分はもう一度“居場所”を求めた。
ここは冷たい。
残酷だ。
だが、少なくとも——命じられる。
命じられるということは、
まだ必要とされているということ。
それがどんな形であれ。
「似合っている」
あの言葉は、侮辱であり、
同時に“今の自分を認める宣告”だった。
(今の私には、これが相応しい)
悔しい。
情けない。
惨めだ。
それでも、どこかで理解している。
私はもう、主人ではない。
若い夫を支配したと思い込んでいた女は、
今は六歳年下の奥様に支配されている。
立場は逆転した。
完全に。
涙は出ない。
泣く資格すら、もうない気がする。
ただ、静かに息を吸い込む。
(奥様は上がった。私は落ちた)
その事実だけが、冷たい刃のように胸に居座る。
そしてそれでも——
「ありがとうございます、奥様」
そう言ってしまった自分を、
心のどこかで理解してしまっている自分が、
何よりも苦しかった。




