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愛おしい人魚姫

作者: 秋庭 はにわ

〔全年齢〜PG12相当〕

初めて描くホラーです。温かい目で読んでください!

ホラーなので寒くさせるのが正解なんですけどね!

人魚を見た。綺麗な歌声で、僕を海に導いている…

そんな気がした。海へと近づく僕を、人魚が抱きしめようと腕を広げたところで――


「…ッはぁ、はぁ……!…なんだ、夢か。」

ふと頭上に目を向ける。時計の針は、真夜中の刻を指し示していた。寝ている間に息を止めていたようで、今まで取り込めなかった酸素をかき集めるような間隔の短い呼吸を繰り返す。頭がぼんやりする。何も考えられない。何も考えられないはずなのに、夢に出てきた人魚のことが忘れられない。

「綺麗だったなあ。」

なぜこんなにも惹かれるのだろう。

「……僕がモテないからか?初めて女の子に優しくして貰ったから?」

やめだ。これ以上考え事をしていたら僕のライフが持たない。

「よし、学校へ行こう!」

…あっ、今0時だったわ。


◆◇◆◇◆◇


「おはよう」

「おはよー!」

クラスメート達の声が教室に響き渡る。一人一人の言葉を聞き取るのは難しい。油断すると、全員の声が雑音に聞こえてきそうだ。

そう考えていると、親友が僕の席に近づいて来た。

「おっすー」

「やあ、どうも〜」

「なあ聞いてくれよぉ」

彼との会話が始まる。話題が目まぐるしく変わって、最初に話していた内容なんか2人とも気にしていない。

(そうだ。今日の夢の話を聞いて貰おう。)

僕は、夜中の体験を話した。人魚のことが頭から離れないって話も。

「……お前、女子と縁が無さ過ぎてとうとう自分好みの女の子を…!」

「やっぱりそう思う?」

納得はしたけど、今コイツ失礼なこと言ったよな?え、やっぱり僕って女子と縁無いの?え、泣くよ?

「でもさ、…こういう都市伝説もあるんだぜ。」

「よかった結論が変わりそうだ。」


――海にいる『人魚姫』は、100年に1度だけ人間と交流を持とうとする。歓迎の気持ちを込めた美しい歌声を響かせて、人々を海へと導くんだ。その歌声を聞いた人は、全員が海へ人魚を探しに行く。見つかるまで、ずっと。深い深い海へと、人魚を探しに、人魚が見つかるまで。でも人魚はその内の1人にしか会わないから、もしも会えない運命にある人は――


「……まあ、お前の場合はただの夢だからな。」

「随分ロマンと皮肉の交じった夢だったんだな。」

「都市伝説っていうけど、そもそも人魚の存在すら怪しいし、何人も溺れてるってんならニュースにでもなってるはずだ。つまり、お前はモテない。」

「唐突な悪口!」

…人魚の都市伝説、か。そういうのもあるんだな。僕には関係ないってことで、今日は忘れることにしよう。


◆◇◆◇◆◇


海だ。歓迎の歌が聴こえる。

――行かなきゃ。姫の所に。姫はどこ。会いたい。会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会えた

会えた。いた。東に進んで、走って、海に潜った。しばらく泳いで見つけた姫は、僕に微笑みかけてくれた!口を動かして、僕に何かを訴えている。

「ワタシに、アイにキて」

……なぜ?今僕は、貴方の目の前にいるのに。会いに来たのに。溺れそうになりながら、意識が戻りそうになりながら。……戻りそう?


「……ッはあ、はあ、はあ、はっ…」

また夢か。せっかく人魚姫に会えそうだったのに、。って、いやいや、ただの夢だぞ。会いに行かなきゃ…じゃなくてすぐに忘れないと忘れたくなくて呼ばれているのは僕だけじゃなくて僕は選ばれた人間で実際に選ばれたのかはわからなくて美しくて残酷で姫は人魚で息が苦しくて肺呼吸のえら呼吸の皮膚の人魚の肉の繊細なポタージュに行かなきゃ僕が行かなきゃ行かなきゃ行かなくちゃいけないんだ僕が僕が僕が僕だけが


◆◇◆◇◆◇


海に来た。これは現実。そのはずだ。

夢の通りなら、東に進んで、海に潜れば見つかる。人魚姫に、あの方に会いに行くんだ。

地上で息を吸ってから、僕は海に潜った。深い深い海へと、あの方を探しに。ああ、海の水が冷たい。夢の時のように上手く泳げない。潜るのに適した格好で来なかったから、目が痛くて周りが見えないし水の抵抗が大きい。まあでも、貴方に会えるならばそんな事も問題ではありませんよね、姫様。


…ッ!あそこにいる、輝く光を放つ方は!僕に、女神のような微笑みを向けてくれる方は!

「アイにキたのね」

ええ、貴方が導いてくださった通りに、歌声の通りに、会いに来ましたとも。

姫様は僕を抱きしめて、放さなかった。抱きしめる力が強いのか、息が苦しくなる。僕は嬉しくて意識が朦朧としてきた。人魚姫様はさらに深く潜ろうとしている。歓迎してくださっているのかな。この僕を、貴方の近くに置くことを許してくださるのか。恐悦至極に存じます、…どうか、ずっと貴方といさせて。


◆◇◆◇◆◇


「ねぇ聞いた?最近入院してきた学生さんの噂。」

「聞いた聞いた!入院してきた日、夜になるとすぐ脱走したんでしょ。砂浜に行って、回復してない身体で海に潜って。入院初日でまた死にかけたんですって!」

「それが今も変わらないらしいのよ。あまりにも外に出たがるから拘束器具を付けているんだけど、それを必死で取ろうとしてくるとか…。」

「えー!大変ねぇ。」

「隙あらば溺れ死のうとしているだなんて……。彼がよく口にしている『姫様』が、何か関係しているのかしらね。」

「……まさかねぇ。」

読んでくださりありがとうございました!

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