上杉謙介(23) の場合
はぁ~やっと終わった。
苦手な報告書を書き終え
僕は急いで着替えると、ひよこストアに走った。
腹がぺこぺこだ。
職場の老健「エデンの園」からひよこストアまでダッシュで7分。
息を切らしながら、自動ドアを抜け
まっすぐに総菜コーナーへ行く。
キョウハ ナニガ ノコッテイルカナ、
ハンガクショウヒン ゲットデラッキー
アレヤコレヤ ネビキデハッピー
(なぜかラップ調になってしまう)
あちゃー、きょうは店長残業の日かー。
タナニハ セールガ ヒトツモNE-!
ひよこストアの閉店時間は21時。
現在時刻20時20分。
あと40分しかないのだから、いい加減値引きしろ
いや してください、頼むから。
おばさん店員の時はさっさか値引きシールを貼ってくれるのに、
店長の時はギリギリまで定価で売ろうとする。
僕が棚の前でうろうろしていると、
赤と黄のシールをたなびかせて店長登場。
と思ったら僕をチラリと見捨て
果物コーナーへ行き値引きシールを貼り始めた。
あのー、果物には興味ないんですけど。
できましたら、このお寿司とか、そのお寿司とか、
あちらのお寿司とかに貼って戴けたらとても嬉しいのですが・・・
そうなのだ、きょうはどうしてもお寿司の気分なのだ。
僕は今春、学校を卒業したばかりの新米介護福祉士。
昨日でやっと見習い期間の8か月が過ぎ、
明日からは正式な職員として
患者さんを担当することになる。
なので、お祝いをしようと思ったのだ。
本当はちゃんとしたお寿司屋さんに行きたいが、
とてもじゃないけどハードルも値段も高い。
それに僕にはどうしても節約しなくちゃならない訳がある。
10分ほど店内を回り、
時間稼ぎをしてみたがあまりの空腹に耐えられず
結局定価で寿司を買うことにした。
クソ店長覚えてろ!
おまえが年取ってエデンに来ても
絶対にウンコ取り替えてやんねーからな。
第三のビール一本と寿司をかごに入れ、レジ台に置いた。
「お願いしまぁす」
「いらっしゃいませ」
レジのおばさんは時々見かける人だ。
胸のプレートには武田と書いてあった。
僕、上杉。おばさん武田って、川中島~
とか脳内で勝手に合戦していると
おばさんはサッと寿司に半額シールを貼ってくれた。
えっ?もしかして上杉が戦の時送った塩のお礼ですか?
ってそんなはず無いだろう。
とにかくびっくりしすぎて、僕は
「あ、どどどもどもです」
とか訳わかんないお礼を言って、お金を払った。
アパートの部屋で寿司と発泡酒でセルフお祝いをした。
半額にして貰ったのもご祝儀のようで嬉しかった。
明日からがんばるどーーー!
今日から青年のお話になります
担当する人物はいったい誰?
お楽しみに!