源 政子(24)の場合 その3
日々の買い物だけでなく、夫の両親はあたしらの生活に
ことごとく密着してくる。
雨が降りそうだったから、洗濯物取り込んでおいた。
(お陰で夫を悩殺した濃厚なランジェリーは封印。
小学生みたいな白いパンツと白いブラしか着けれない)
郵便物持ってきてやった。
(流石に封書は開けないが、はがき類等はしっかり読んでる)
おかず作り過ぎたから、食べてね。
(旨いなら、食ってやってもいいぞ。旨いならな!)
(ゴミ袋から見えないように捨てるのが大変なので、本当はいりません)
勿論、休日も平日も出入りを監視しているので
出発・帰宅は全て把握されている。
この前なんか、夫が久しぶりの有給取れたので、
前の晩に燃えまくり朝寝坊しちゃったら
7時半に鶏ガラが合鍵を使って起こしに来た。
二人とも素っ裸だったので、お互いにすごーく気まずかった。
こんな生活よく我慢してるって?
大丈夫なんだな、これが。
ちゃーんと息抜きしてますので。
夫は職業柄、泊まり込みの出張が多い。
あたしは「ダーリンが留守だと、寂しい・・・」
とか言いながら、ウルウルと夫を送り出す。
よっしゃあ!
今晩もかっ飛ばすぞーーー!
一人の時の晩御飯なんて、ほんと適当。
どんぶり飯に山のように丸美屋のすき焼きふりかけをかけて、
卵をトッピング。
すき焼き定食、豪華だろーw
そして母屋の住人が寝静まる夜10時半、
裏口からそっと出かける。
まあ、ばれたら
「寂しくて眠れないので少し散歩してた」
とでも言えばいいだろう。
徒歩10分の所にバイク屋がある。
ここに引っ越してから、偶然見つけたバイク屋だった。
あたしはブティックや化粧品屋にはあまり興味ないけど
昔からバイクが大好き。
ここのオヤジともすぐに仲良くなった。
しかもオヤジは偶然にもあたしと同郷で、父の事も知っていた。
で当然あたしの噂も知っていた。
マズったと思ったが、意外にも話の判るオヤジで
めんどくさい家に嫁いだあたしの味方になってくれた。
「よお、待ってたよマーちゃん。整備はバッチリ。
気ぃつけて走ってきな」
「おっちゃんあんがとね。スカッとしてくるわ」
ライダースーツに着替え、
キメキメのあたしは思いっきりスロットルを回した。
メグロ650㏄が雄たけびをあげる。
あたしの愛車はきょうも機嫌がいい。
毎日のこまごまとしたストレスが後ろへ後ろへと吹き飛んでいく。
きょうはどこを流そうか。
静かな海岸へでも行ってみようかな。
ハンドルを大きく切り
海に向かって加速したその時だった。
バイパスの分岐点の陰にちらっと見えた赤色灯。
ヤバい!
とっさにあたしはスピードを上げてしまった。
ていうか、実は過去に何度も同じ場面に遭遇し
全部振り切ったので、今回もイケると思ったのだ。
ところが、である。
逃げても逃げてもついてくる。
スピードメーターは140をとうに超えている。
ただ不思議なことに
ついては来るが決して制止のサインを出してこない。
サツの白バイはホンダかヤマハ、たしか1300㏄。
あたしのメグロなんか簡単に追いつけるはずなのに。
あたしはだんだん、白バイとツーリングをしているような気分になり
楽しくなってきちゃった。
こちらがスピードを落とすとむこうも落とす。
一定の距離を保ちながら、
とうとう海辺の公園まで来てしまった。
海の見える高台でバイクを停めると、警官もバイクから降りてきた。
切符切られたら夫に悪事がバレちゃうなぁ・・・
「なんだって、随分飛ばしてたんでねーの」
「すみません、逃げてしまって、、、」
あたしがヘルメットを取ると警官は
「ありゃっ、おなごだったのがい。ねーちゃんやるなあ」
と言い、笑った。
それにしても恐ろしく訛っている。
「ねーちゃん、ただのバイク乗りでねーべ?
ながながのテクニックで俺も久しぶりにおもせがった(※面白かった)」
「あのー、ちょっと昔ならしました・・・」
「はっはっは!やっぱしな。おれもそーだったがら、わがんだよ。
あっち系の転がしがだは独特だかんな(※暴走族あがりの運転は特別)
それにしても今どぎメグロってなぁ。
いいもん見せでもらったでば」
佐藤というその警官は
「んじゃな、気ぃつけで帰れよ」
と言い残して行ってしまった。
あたしはキツネにつままれたような気分で、ポカンとしてしまった。
家に着いたのは日付が変わった頃。
夢?
そう言えばあの警官、とんでもないハンサムだった気がする。
それにないでしょふつう、スピード違反見逃すなんて。
あー、相当ストレス溜まってんなあ。
それから暫くの間、あたしは大人しく過ごしていた。
バイクの件がバレるとまずいし、
夫の職場も少し落ち着いてきて出張が少なくなったから。
一応新婚なもんで、あっちのほうも忙しいし。ふふふ
「新じじぃウォーズ」を読んでくださった方は
もうお気づきでしょう
そう あの 佐藤清七 の登場です 笑