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彼女の妹が可愛すぎる

作者:

 高校二年生になった四月に俺に人生初の彼女ができた。

 相手は一年時からのクラスメイトで吹奏楽に所属している大森恵梨香おおもりえりかだ。

 彼女とは入学当時から気が合い、自然と休み時間によく話をするようになった。

 そして、二年に学年が上がっても変わらずに同じクラスになったことで運命を感じて告白した。

 ここから夢にまで見た恋人とのバラ色の青春が待っていると浮かれていたのだが……。


 「なぁ、恵梨香えりか。俺らってキスもまだしてないよな」


 「ん?そういえばそうね」


 学校終わりの帰り道。

 夕日に照らされた川沿いの道で本を片手で器用に開いている恵梨香は興味なさげに返事をした。

 黒髪をなびかせながら、切れ長の瞳で本を読む姿は高身長なのも相まって男の俺からしてもカッコよく映る。


 「あのさ」


 この先の言葉を口にしてもいいのかと口よどみながら頭上を見上げると広葉樹が励ますように風に揺られていた。

 生暖かい七月の熱風のせいか歩いているだけで汗が額からこぼれ落ちる。


 「キスしてみないか?」


 乾いた喉からなんとか声を絞り出すと、恵梨香は本から目を離しちらりと俺を見る。

 身長差がないために真っ直ぐと突き刺さる黒い瞳からは彼女の感情は読み取れず、ごくりとつばを飲み込んだ。

 そんな気まずい雰囲気を察してか、カラスの鳴き声が静寂を埋めるように響いた。

 

 「今はそんな気分じゃないわ」


 「そ、そうだよな。いきなり変なこといってごめん」


 安堵あんどと失望の気持ちが同時に胸にく。

 恋人っていうのはこんなにドライな関係なのか?

 でも、考えてみれば当たり前なのかもしれない。下校中にいきなりキスしようなんて雰囲気もあったものじゃない。

 なんて身勝手なんだ俺は。そう心の中でつぶやいて恵梨香に聞こえないように、ため息をく。

 付き合いだしてもう三か月にもかかわらず、俺達の関係は友達から何一つ動いていなかった。


 「そうだ、代わりと言ってはなんだけど、今週の土曜日、私の家に遊びに来ない?両親は二人で旅行するみたいで、家には私と中三の妹の二人しかいないんだけど」


 「もちろん行くよ。妹さんには会ったことないけど急に遊びに行って嫌われないかな?」


 「大丈夫よ。あの子はそんな繊細せんさいじゃないから」


 両親不在の家に恋人から誘われるってことは、期待してもいいやつだよな。

 さっきまでの沈んだ気持ちはどこへやら、高揚感で満たされた。


 「よっしぁ!初めての家デートだぜ」


 「そんなに喜んでくれるなら誘った甲斐かいがあったわ」


 そう言って恵梨香は静かに笑った。


 「あっ、言っとくけど妹がいくら可愛いからって手を出したら許さないからね」


 「そんなことするわけないだろ。恵梨香の妹は俺にとっても妹みたいなものだろ」


 「そう……それならいいわ」


 なぜか照れたようにほおを赤くさせた恵梨香を見て、俺は自分が遠回しにプロポーズをしていることに気が付き、二人してうつむいたのだった。


 家デート当日。

 白シャツに青のベストを重ね着した俺は恵梨香の家の呼びりんを鳴らしていた。

 女子の家に入ったことないから緊張するな。

 直前にシャワーを浴びたから変な匂いはしないはず。

 俺は軽く腕やわきの匂いを確かめながら待っているとドアがゆっくりを開いた。

 

 「今日が待ち遠しくて早起きしちゃった……よ?」


 出てきたのは恵梨香じゃなくて妹のほうだった。

 俺の肩ぐらいしかない小柄な子で黒髪を短く左右にまとめて垂らしている。いわゆるツインテールというやつだ。

 その女の子は黒の半そでに黄色いミニスカートをはいた格好で不思議そうに小首をかしげた。

 

 「んー?……あっ!もしかして、お姉ちゃんの彼氏さん?」


 恵梨香から俺のことを聞いていたのか、ぱんと手のひらを叩くと笑顔を見せた。

 その様子に思わずドキッとしてしまう。

 この子めちゃくちゃ可愛い。

 クールでかっこいい系の恵梨香を幼くした容姿だ。

 

 「あ、急にごめんね。うん、俺は恵梨香の彼氏の吉田浩二よしだこうじだよ」


 「ふ~ん。よろしくね、浩二こうじさん。私は理央りおです」


 自己紹介を終えると、どうぞと家の中へと案内をしてくれた。

 テーブルの上に置いてあったコップにはオレンジジュースが入っていた。

 さっきまで飲んでいたのかもしれないな。


 「ソファーにでも座って待っててください。お姉ちゃんは直前におやつがないって騒いでコンビニに買いに行きました」

 

 「ありがとう。別にそんなこと気にしなくてもいいのに」


 言われた通りソファに座ると、横に理央がぴたっとくっつくように座ってきた。


 「理央ちゃん?」


 「えへへ、だめですか?」


 「だめじゃないけど」


 甘えた声で肩をくっつけてくる理央を拒否できなかった。

 まぁ、相手は妹だし浮気には入らないよな?うん、大丈夫だ。

 柔軟剤のいい香りが、細い肩から漂ってきてドキドキしてしまう。

 視線を理央のほうへ向けると、緩くなっているシャツの隙間すきまから綺麗な胸元が見え隠れしていた。


 「どうしたんですか?浩二さんの顔赤いですよ?」

 

 「な、なんでもないよ。今日は暑いからそのせいかも……」


 「確かに~。エアコンついてるけど私も動いたらちょっと汗かいてきちゃったよ」


 そういって、理央は黒シャツのえりの部分に手を入れてあおぎはじめる。

 ブラはつけていないのか、胸の膨らみがちらっと見えてしまった。

 彼女の妹とはいっても健全な男子の俺からすると嫌でも意識してどぎまぎしてしまう。

 

 「あっ、私ゲームの途中だったの忘れてた」


 そういって、ソファーから立ち上がりテーブルに置いてあったゲーム機を手に取った。

 ようやく離れてくれたと安堵の息を吐いた。

 てか、女子中学生相手に何を緊張してるんだ俺は。

 恵梨香の妹は俺の妹だ、なんてカッコつけておいて情けない。

 パンパンと頬を軽く両手で叩いて気分を入れ替える。


 「お姉ちゃんはもうちょっとで帰ってくると思うから適当にくつろいでいてください」


 「ああ、俺のことは置物とでも思って気にせずに好きにしててくれ」


 「あはは、じゃあそうします」


 てっきりゲーム機を持って自分の部屋にでも行くのかと思っていたら俺の横でうつ伏せになり携帯機でゲームを始めた。

 足をバタバタと動かすたびに黄色いミニスカートがひらひらと揺れるが理央は気にもせずにゲームに夢中になっている。

 姉の彼氏だとはいっても家の中で男と二人なのだから、もうちょっと警戒すべきではないだろうか。

 そう思いながらも、ひらひらと揺れるスカートを横目で追ってしまう自分がいた。

 待て待て、理央がいやらしい目を向けられたと感じたら姉に報告するだろうし、そしたら妹好きな恵梨香に振られてしまうだろう。

 

 「浩二さん。ちょっと、マッサージしてくれない?」

 

 悶々としていたところに、理央が突然振り向きそんなことを言った。

 

 「え?マッサージ?」


 「そう。なんか体がこってきちゃった。お願い~」


 甘えるような声に俺もほだされて頷いてしまう。

 薄々気づいていたけど、この子初対面にも関わらずまったく人見知りしない子だな。

 恵梨香があの子はそんな繊細じゃないと言っていた通りに図太い神経を持っているようだ。

 とはいえ、不思議と悪い気にはならないのは理央の社交力が高いからだろう。

 これは将来、男を骨抜きにする魔性の女になる資質を秘めているな。


 「痛くないか?」


 「平気だよ~」


 俺は理央の体を足ではさむように膝立ちになり小さな背中を指圧する。

 それっぽくやってはいるが別にマッサージに関する知識があるわけではなく、ただ本やテレビで見たものを真似ているだけである。


 「ん~、気持ちい~。浩二さん上手いね」


 「そう言ってもらえて嬉しいよ」


 お世辞か本音か分からないが、褒められて悪い気はしないな。

 親指で背中を押すたびに理央から吐息とうめき声の反応が返ってきて徐々に楽しくなってきた。


 「お姉ちゃんにもいつもしてるんですか?」


 「いや、人にマッサージをしたのは初めてだよ」


 恵梨香と恋人らしいことは手を繋ぐことぐらいしかしていない。

 よく考えると、こんなに無防備に体を触ったこともないな。


 「それって~、私が浩二さんの初めてをもらったってこと~?」


 「言い方は置いといて、まぁ、そういうことになるな」


 「えへへ~、やった~」


 うつ伏せのまま顔を横にしている理央は無邪気に笑った。

 不思議と理央の笑顔を見ているだけでこっちまで幸せな気分になる。

 

 「ねぇ、背中だけじゃなくて足もやってよ」


 「お、おう。分かった」


 俺はまたがったまま後ろにずるずると下がるとマッサージしやすいようにか理央の両足が軽く開いた。

 思わずごくりと唾を飲み込む。

 ただでさえ短いスカートにも関わらず、催促するように足をバタバタさせるから太ももの際どい所まで露出している。


 「まだ~?」


 俺の葛藤を知ってか知らずか無邪気に頬を膨らませて不満顔だ。

 そうだ、恵梨香の妹は俺の妹。

 ただの妹だと思えば興奮なんてしないはずだ。

 深呼吸をして心を平静にさせてから足裏からマッサージを始めた。


 「んっ、あんっ」


 うつ伏せになりながら俺が指圧するたびにくぐもった声を出す。

 

 「変な声を出すんじゃない」


 「だって、くすぐったかったんだもん」


 そのままふくらはぎから太ももへと手を滑らせていく。

 全体的に細いが、程よく筋肉がついており揉み心地がいい。

 

 「ねぇ、もっと上のほうもやってよ」


 「う、上だと?」


 「うん、さっきから中途半端なとこで終わるから逆にうずうずしちゃうよ~」


 そういって理央は右手で自分のお尻を叩いた。

 相手が女子なことを考慮して、スカートの丈以上は触らずに適当なところで往復させていたのが不満だったみたいだ。

 だが、さすがにマッサージとはいえ彼女の妹のお尻にまで触るわけには……。

 そうだ、この子はくすぐりに弱いから適当に笑わせて終わりにしよう。


 「よしっ、分かった。上のほうだな」


 力強く言ってから理央の胴体を挟むように両脇へと手を入れてくすぐった。

 

 「うわっ、はははあははは!や、やめっ!ははっはは、くすぐったいよ~」


 「ほれほれ、上のほうをやってくれっていったのは理央のほうだろ?」


 「ははははっ、上すぎだよ~。んっ、あははっはは」


 予想通り笑いをこらえ切れずにバタバタと足を動かして黄色い声を上げた。

 ふぅ、こんなもんだろう。

 俺が両脇から手を離すと理央がゲーム機を地面に慎重に置いてから体を仰向けにして両足で俺の両脇をくすぐってきた。


 「ひゃっい!」


 「何その声~、女の子みたいで可愛いっ」


 「ちょっ、たんま!たんまっ、んっふふふ」


 小学生以来の脇腹への刺激に成すすべもなく気持ち悪い声が出てしまった。

 両足のつたない動きが威力を倍増させている。

 こいつ、よくもやってくれたな。

 

 「仕返しだ!」


 「きゃああはははは、前からは卑怯だよ~」


 「くっ、くくく。どっちが先に耐えられなくなるかの我慢比べだ!」


 理央の脇腹をくすぐるために四つん這いの格好になっていた俺はソファーに膝を滑らしてしまった。

 

 「わっ」


 「え?きゃっ!」


 「あっごめん」


 ぎりぎりでひじを立てて理央をつぶすことはなかったが、お互いの唇が近距離まで接近。

 荒れた鼻息までも感じられる距離で二人見つめ合う形になる。

 恵梨香とは違って幼さの残る小顔はリンゴのように赤くなっていた。

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 

 「浩二さんの顔赤くなってる……」


 「い、いやっ、これでもくらえっ」


 自分ですら何をごまかそうとしたのか分からずに理央の脇腹を再びくすぐった。


 「きゃっ!もう。私も本気出すからっ」


 理央は両足で脇腹をさっきよりも強くさすり始めるが、勢い余って俺のズボンを下げてしまった。

 

 「ちょっ、ほんと、一回待って!」


 「ははは、浩二さんの手が止まった今がチャンス!待たないよ~だ」


 自分が何をしたのか気づいていない様子だ。

 今日は緩めのズボンを履いていたのが失敗だった。

 こうなったら、俺もとことんやってやる。


 「わっ!浩二さん激しいっ。ははっはははは」


 「くくく、どうだっ!くはははっ」


 「あはははははっ」


 「くはははははっ」

 

 こんなに笑ったのは久しぶりだ。

 まさにこれが俺が望んでいた恋人との理想の距離感なのだが、皮肉なことにその相手が彼女の妹だとは。

 なんとなく空しくなって体を起こそうとすると、軽く脱げていたズボンに膝を滑らせて再び理央に覆いかぶさった。


 「あっ悪い」


 「またですか?ふふふ」


 笑いすぎたためか理央の目は赤くなっており涙が出ていた。

 思いがけなく始まったくすぐり大会で理央との仲が縮まった気がした。

 玄関で恵梨香の妹と初めて会ったときはどうなるかと思ったが、これならうまくやれそうだ。

 俺は理央の顔を見て優しい笑みを浮かべたときだった。


 「ただいまー……」


 ガサっと袋が落ちる音がして振り向くと、恵梨香が口を開けたまま立っていた。


 「あっ、恵梨香」


 「お姉ちゃん助けてぇ~」


 状況が飲み込めてないのか理央は遊びの延長で姉に助けを求めた。

 そんなことを言うと余計に勘違いさせるじゃないか。

 

 「こ、こ、浩二!うちの妹に何してるのよ!」 


 「ち、違うぞ!誤解なんだ!」


 「誤解?」


 俺は視線を下げて自分の状況を認識した。

 ズボンが半脱ぎ状態の俺が、スカートがめくれておへそが見えるほど上着が乱れている理央に、上から覆いかぶさっていた。

 顔から血の気が失せていく。


 「まさか浩二が彼女の妹に手を出す変態男だったなんて!」


 「ま、待て違う!話を聞いてくれ」


 弁明なんて聞きたくないと言わんばかりに近づいて、ばちんっと恵梨香に頬を思いっきり叩かれた。



 それから一年がたち、学校終わりの帰り道。

 高校三年生になった俺は夕日に照らされた川沿いの道を歩いていた。

 広葉樹が道を覆い隠すように生えている場所を通るたびに昔のことを思い出す。

 あの時、キスしてみないか?なんて言わなければ結果は違っていたのだろうか。

 暖かい風が慰めるように肌を撫でる。

 

 「浩二先輩。急にたそがれてどうしました?」


 隣を歩いている同じ高校の制服を着た女子が不思議そうに覗き込んできた。


 「いや、ちょっと昔を思い出して」


 「ふ~ん。そうですか」


 「あのさ」


 「はい?」


 俺は口よどむ。

 一瞬のフラッシュバック。

 一年前同じ場所に立っていた自分から挑戦状をたたきつけられた気分になった。

 不安な気持ちを抱きながらも口を開いた。


 「キスしてみないか?」

 

 目の前の女子がためらう様に視線を動かす。

 しばらくの沈黙。

 カラスの鳴き声が静寂を嫌う様に響いた。


 「はい。いいですよ」


 身長差がある俺に女子生徒はつま先立ちで目を閉じたのを確認して優しく唇を重ねる。

 どれだけそうしていただろうか。苦しくなってどちらともなく唇を離した。


 「ぷはっ」


 「浩二先輩どうして泣いてるんですか?」


 言われて指を目元に持っていくと冷たく濡れた。

 

 「多分、嬉しくて」


 「変なの。ふふふ、私お姉ちゃんより上手でしょ?」


 「分からないよ。だって、恵梨香とはしたことないから」


 「え~恋人だったのに?浩二先輩可哀そう」


 そう言って、よしよしと背伸びをして俺の頭を撫でながら、

 

 「それじゃ、お姉ちゃんと出来なかったこと私とい~っぱいしようね!浩二先輩」


 「ああ、これからよろしくな理央」


 「はいっ。末永く」


 夕日に照らされながら真っ赤な顔を破顔させた理央はとても美しく見えた。

 今年の夏はひどく暑い夏になりそうだと理央の体を抱きしめながら思ったのだった。

 

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魔性過ぎる…。いや、ワンチャン、天然無邪気なだけの可能性も…? う~ん…。 普通に姉彼氏を「良いな。」と近づいたのは間違いないはず。しかし、それから1年間キスをすることなく過ごしてきたみたいだし、真っ…
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