表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第六章 湊の選択

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/57

第54話 生霊が抱えていた想い

「この声、(みなと)……じゃねーな。おい、シュウ! これはどうなってんだ!?」


 警戒するように湊を正面に見据えたまま、紫呉(しぐれ)は声を荒げた。

 すると、シュウが静かに口を開く。


「気づいてなかったみたいだけど、キミは生霊(いきりょう)に取り()かれてたんだ。湊くんはキミを助けるために生霊に身体を貸した、憑依(ひょうい)させたんだよ。今は生霊が湊くんに乗り移った状態なんだ」

「生霊を憑依させた? お前がついていながらどうして止めなかったんだ!」


 シュウの冷静かつ端的な説明に、紫呉はさらに声を張り上げた。

 しかし、シュウは小さく息を吐いて、首を横に振るだけである。


「もちろん僕だって止めたよ。でも湊くんは『大丈夫だから』って聞いてくれなかったんだ。とにかく、今は湊くんに憑いた生霊の声を聞いてやって」

「……わかった。おい、お前は俺に何が言いたい。どんな文句でも聞いてやる」


 紫呉は不機嫌そうに渋々(うなず)くと、湊の中にいる生霊に向き直った。


 そこで、また生霊がゆっくりと唇を動かす。


『……こないだは相談に乗ってくれてありがとう』


 発した言葉に、思わず紫呉は呆気(あっけ)にとられた。


 きっと罵詈雑言(ばりぞうごん)が飛んでくると思っていたのだろう。だが、実際に生霊の口から出てきたのは感謝の言葉だった。


 しばし目を見開いていた紫呉だったが、ふと何かに気づいたように口を開く。


「こないだ、ってお前もしかして上田(うえだ)か? どうして生霊になんてなってやがる?」

『うん、上田沙也(さや)だよ。生霊になったのは、月城(つきしろ)くんに伝えたいことがあったから』

「伝えたいこと?」


 紫呉が途端に眉をひそめた。その姿は、少なからず緊張している様子だった。


 わざわざ生霊になってまで伝えたいこと、それは一体何なのか。おそらく想像もつかないのだろう。


 紫呉は布団の上であぐらをかいて、沙也の次の言葉を待つ。


 胸に手を当てた沙也は、大きく深呼吸をしてから、思い切ったように紡いだ。


『私ね、高校生の時からずっと月城くんのことが好きだった。それを伝えたかったの。今までずっと、ずーっと言いたかったんだけどね』

「だったらもっと早く言えばよかっただろ」


 紫呉が緊張していた表情を緩めて、小さく息を吐く。


『……返事を聞くのが怖くて、言えなかった。だから勇気が出せなかったの』

「そっか、悪いな。俺、そういうのに(うと)くてさ」


 全然気づかなかった、と紫呉が申し訳なさそうに頬を()くと、沙也は柔らかく微笑んだ。


『ううん、月城くんがそういう人だって高校生の時から知ってる』

「でも、気持ちは嬉しいけど──」

『それ以上は言わないで! 答えなんて聞きたくない!』


 紫呉の言いかけた言葉を、沙也は大声で(さえぎ)る。表情も険しいものになり、これまでの穏やかな雰囲気が一変した。


 それから、沙也は衝動的に両手を自身──湊の首へとかける。


 このまま首を絞める気だ。すぐさまそう気づき、紫呉が動いた。


「やめろ!」


 急いで沙也の両腕を(つか)んで、首から離そうとする。だが力が強く、紫呉一人ではどうにもならない。


「湊くん!」


 すかさずシュウも沙也を止めようと、紫呉と一緒になってその腕を掴んだ。


 男二人がかりでも、まだ沙也の方が強い。少しでも気を抜くと、湊の首はあっという間に締め上げられてしまうだろう。そうなったら、おそらく沙也も無事では済まないはずだ。


 紫呉は必死になって腕を掴みながらも、沙也を至近距離でまっすぐに見つめた。


「別にお前のことが嫌いってわけじゃない!」

『……嫌いじゃ、ない……?』


 沙也の腕の力が、わずかに緩む。だが、まだ湊の首から引き()がすことはできない。


 そこでさらに紫呉は畳みかけるように言葉を続けた。


「ああ、そうだ! ただ、今は仕事も忙しいし、恋愛をしてる余裕もないんだ。だから、友達としてならこれからも仲良くしていきたいと思ってる。それじゃダメか!?」


 きっぱり告げると、沙也は紫呉から視線を外し、逡巡(しゅんじゅん)する様子をみせる。


 そのまましばらく考え込んだ沙也は、ようやく小さな声で言葉を紡いだ。


『……いつかは恋愛対象として見てくれる?』

「それは今の俺にはわかんねぇ」

『……そうだよね』


 紫呉が正直に答えると、沙也は苦笑を漏らす。それからまた何かを考えるように目を閉じた。


 先ほどよりも少し長い時間が経って、


『……わかった。じゃあ、これからも友達としてよろしくね』


 目を開けた沙也は、穏やかな表情を浮かべていた。紫呉の素直な返事を聞いて、ようやく納得したのだろう。


『……色々と迷惑かけてごめんなさい。月城くんにも苦しい思いさせちゃった』


 沙也が謝罪を口にして湊の首を解放すると、紫呉とシュウはほっとした様子で、揃って掴んでいた腕の力を緩める。


「迷惑だなんて思ってねーから気にすんな。もう元気になってるしな」

『それならいいんだけど』


 満面の笑みを浮かべる紫呉に、沙也はつられるように微笑んだ。その微笑みは少し困っているようにも見える。迷惑をかけたことを、まだ申し訳なく思っているのかもしれない。


 真剣な表情に戻った紫呉は、改めて沙也に向き直った。ゆっくり言葉を(つづ)る。


「……上田、ありがとな。もういいだろ? そろそろ湊の身体を返してくれ」


 その懇願を合図にするかのように、沙也はそっと(まぶた)を伏せた。


 次には、湊の身体がゆっくり崩れ落ちる。おそらく沙也が抜けたのだろう。


 紫呉は自分の方に倒れてきた湊をしっかり抱きとめると、天井を見上げ、心底安心した様子で大きな息を吐いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ