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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第六章 湊の選択

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第53話 憑依

 ようやくシュウの許可をもらった(みなと)が、紫呉(しぐれ)の方に身体を向ける。

 紫呉は眠ったまま、今も荒い呼吸を繰り返していた。


「おれの声、聞こえてましたよね?」


 優しい声音は、紫呉に取り()いている生霊(いきりょう)に対してのものである。


 きっと生霊は、紫呉の中でこれまでの会話を聞いていただろう。湊はそう信じて疑わなかった。


 だが、まだ生霊が姿を現す気配はない。


 湊は居ずまいを正し、人好きのする笑顔をみせる。


「これからあなたにおれの身体を貸します。だから、紫呉さんから一旦離れてもらえませんか? お願いします」


 そして、礼儀正しく頭を下げた。


 変化は少しして起こった。


「……っ!」


 突然のことに湊が瞠目(どうもく)する。おそらく隣のシュウも同じだったはずだ。


 これまでほんのわずかにしか感じられなかった生霊の気配が、いきなり(ふく)れ上がったのである。

 次に認識できたのは、紫呉の上に現れた、生気のない青白い顔と長い髪。


 今の湊はコンタクトレンズをつけていない。だから、生霊の姿がはっきりと見える。


(ああ、やっぱり女の人だったんだ)


 どこかほっとしながら浮かんだ感想は、なぜかそれだけだった。


 前に見た悪霊とは違って、怖いとはまったく思わなかった。黒いもやのようなものも見えないし、きっと悪霊寄りではないのだろう。そのことにさらに安堵する。


 あとは紫呉の身体から抜け出して、自分に憑依(ひょうい)してくれればいい。


 そう願って、湊は静かに(まぶた)を伏せた。



  ※※※



 シュウには、生霊が紫呉から離れ、湊の中に入っていく様子がしっかりと見えていた。


 意識を失った湊の身体が、ゆっくりと畳の上に倒れる。


「湊くん!」


 反射的にシュウが声を上げ、片膝を立てた。

 その次の瞬間である。


「……シュウ……どうして、お前がここにいるんだ……?」


 (かす)れた声が聞こえてきて、とっさにシュウの視線と意識はそちらへと持っていかれた。

 視線の先にあるのは、目を覚ました紫呉の姿だ。


「紫呉……。よかった」


 シュウが心底安心したように目を細めて息を吐くと、紫呉は上半身を起こしながら首を傾げる。


 どうやら現在の状況がわかっていないらしい。これまでずっとうなされていたのだから、当然の反応だろう。


 紫呉は汗で額に張りついた前髪を雑にかき上げて、疲れたように大きく息を吐いた。


「……これはどういうことだ? 退院して家に帰ってきたところまでしか記憶がねぇ」

「ああ、そうだね。ちゃんと説明──」

「ちょっと待て。何で湊が倒れてる? まさか寝てるわけじゃねーよな? 一体何があった?」


 シュウが説明しようと口を開いた時である。紫呉は近くに倒れている湊の姿を見つけて、途端に声を低めた。


 紫呉の声に反応したのか、湊が黙ったまま起き上がる。


「……」


 きちんと正座はしたものの、紫呉に向ける表情はどこか(うつ)ろだった。いつもは透き通っている左目の青も、今は光を失い暗く(にご)っている。


「湊! おい、どうした!?」


 様子がおかしいことに気づいた紫呉は前のめりになって、すぐさま湊の(そば)へ寄ろうとした。

 その時だ。


『……月城(つきしろ)くん』


 紫呉の動きを止めたのは、湊の声である。いや、正確には湊の口から発せられた女性の声。


「……どういうことだ」


 目を大きく開いた紫呉は、怪訝(けげん)そうに(うな)ると、湊をまっすぐに見据えたのだった。



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