第50話 シュウとの電話
湊がふと腕時計に目をやると、夕方の時刻を指していた。先ほど外で見た太陽も、だいぶ傾いただろうか。
「尊さんが言ってたのが、沙也さんの生霊だろうってところまではわかったけど……。生霊なんて初めてだし、おれだけじゃ対処のしようがないな」
真理子を外まで見送ったあと、湊はリビングに戻りながら、困ったようにブツブツと呟いていた。
これまでに普通の霊や悪霊は見てきたが、さすがに生霊は初めてである。
普通の霊は願いを叶えてやることで成仏できる、悪霊の場合は祓えばいいと対処法はわかっているが、生霊の場合はどうすればいいのか。
そんなことを考えて唸りつつ、リビングのドアを開けようとした時である。
「……あ、シュウさん! 紫呉さんが昨日倒れたのはたまたまだと思ってたから、まだ連絡してなかった!」
思わず声を上げて、手を叩いた。
さっぽろ羊ヶ丘展望台で、「紫呉に何かあった時は連絡して」とシュウに言われていたことを、今になって思い出す。
「そうだ、昨日から色々ありすぎてすっかり忘れてた。もしかしたら、シュウさんなら生霊のこともわかるかもしれないな」
シュウは普段、悪霊を相手にしているのだから、生霊のことも多少は知っているかもしれない。悪霊専門とはいえ、他の霊についても自分よりはずっと詳しいはずだ。
これで、また一歩前進できるだろう。
そう期待して、湊はシュウにすぐ連絡することにする。
パンツのポケットに入れていたスマホを取り出して、シュウの電話番号を探した。
前に名刺をもらった時に、電話番号とメールアドレスはスマホにきちんと登録してある。
湊は一度大きく深呼吸をすると、意を決したように発信ボタンをタップした。
緊張しながら、シュウが出てくれるのを待つ。
五回ほどコール音が鳴ったあと、
『……湊くん?』
聞き慣れた、優しい声が電話の向こうから聞こえてきた。
※※※
「あ、シュウさん。こんにちは。実は……」
電話に出たシュウに、湊は現在の紫呉の状況を説明する。
紫呉が昨日倒れて病院に運ばれたこと。今も家で寝込んでいること。紫呉の祖父──尊が現れて、その原因が生霊にあるらしいと教えてもらったこと。そして、沙也のこと。
それらをかいつまんで話すと、電話の向こう側からはシュウの溜息が漏れ聞こえてきた。
『やっぱり……。あの時の違和感はこれか。きっと羊ヶ丘展望台の時には、沙也さんはすでに生霊として紫呉に取り憑いてたんだ。確か、午前中に来たって言ってたよね?』
「はい、羊ヶ丘展望台に行った日の午前中ですね。つまり相談に来た時か、その直後に憑いたってことですか?」
スマホを耳に当てたまま、湊が眉をひそめる。
『うん。タイミング的に考えてそうだと思う』
「でも、憑かれてから何週間も紫呉さんが気づかなかったなんて……」
これまでずっと霊に関わってきたのに、よりにもよって自分に憑いた霊に気づかないとは。もっと早くに気づいていれば、ここまでの事態にはなっていなかっただろうに。
そう考えて、湊も大きく嘆息した。
『生霊はきっと姿を現さなかっただろうし、紫呉は霊の気配を感じられないから、これまで気づかなかったんじゃないかな』
湊くんも集中して探るまで気配とか感じなかったんでしょ、シュウにそう聞かれて、湊は納得しながら一人頷く。
「なるほど。あの、シュウさん。これから家の方に来てもらうことってできますか?」
『わかった。僕としても放っておけないから、今からそっちに向かうよ』
快く了承してくれたシュウに、湊はほっと安堵の息を吐いたのだった。




