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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第六章 湊の選択

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第49話 繋がる情報

 (みなと)が急いで開けたドアの向こうには、昨日ここに来た女性の姿があった。


 女性は顔を(のぞ)かせると、ドアにかけられた『本日休業』の札と店内の様子を交互に見比べる。


「お店はお休みのようだけど、今日は店長さんいらっしゃるのかしら?」

「あ、すみません。今日もちょっと……」


 頬に手を当てて薄く笑みを浮かべる女性に、湊は申し訳なさそうにそれだけを答えることしかできなかった。


「そうなのね。じゃあまた今度にしようかしら。あら? これって……」


 しかし、そこで女性が何かに気づいたように小さく声を上げる。そして湊の方を指差した。


「どうかしましたか?」


 聞きながら、湊はつられるようにして女性の示した場所に目を向ける。


 視線の先にあったのは湊自身の手だが、そこにはしっかりと万年筆が握られていた。

 どうやら無意識に持ってきていたらしい。けれど、今は先ほどみたいに電流のようなものは感じられなかった。


「その万年筆、もしかして……」

「これを知ってるんですか?」


 湊が万年筆を持ち上げながらさらに問うと、女性は首を縦に振る。


「ええ、多分うちの娘のものじゃないかしら」

「これ、ここに相談に来られた方が持ってきたものなんですけど、娘さんってどんな方ですか?」


 守秘義務があるんでこちらからは言えないんです、と湊は女性から話してくれるように促した。

 こちらからは話せないが、女性が話して確認する分には問題ないだろう。そう考えてのことだ。


「ああ、そうよね。そういえば私も名乗ってなかったわ。ごめんなさいね。私は上田(うえだ)真理子(まりこ)っていいます。それで娘は沙也(さや)っていうの」


 そこで、湊の瞳が大きく見開かれる。と同時に心臓が高鳴った。


「娘さん、ウエダサヤさんって名前なんですか?」

「そうよ」


 湊が思わず前のめりになって、真理子の顔をまっすぐに見つめる。すると、真理子はそれにも動じることなく、ゆっくりと(うなず)いた。


 まさかの同姓同名である。もしかしたら、という期待が湊の中に生まれた。



  ※※※



 その後、真理子から教えてもらった髪型などの情報で、真理子の娘がこないだ紫呉(しぐれ)のもとに相談に来た上田沙也であったことが判明した。


 ちなみに、万年筆も沙也のもので間違いないようだ。


 しかも真理子の話では、その沙也が今まさに体調を崩している娘だという。


 この店で紫呉が霊に関わる相談を受けていることも、真理子は沙也から聞いていたらしい。それで昨日ここに来たというわけである。


(やっぱり同一人物だ……!)


 湊は、ようやく一筋の光明(こうみょう)が見えたような気がした。


 沙也が体調を崩しているのは、やはり生霊(いきりょう)を飛ばしているからかもしれない。

 それならば、色々とつじつまが合う。


「沙也さんが体調を崩した時期って、確か八月の半ばくらいでしたよね?」

「ええ、そうね」


 湊が改めて確認すると、真理子はそう答えて大きく頷いた。


(紫呉さんに万年筆を預けた時期とほぼ一致してるし、これは偶然じゃないと思う)


 紫呉に取り()いているのが本当に沙也の生霊であれば、その生霊をどうにかすることで、紫呉と沙也の二人を救えるのではないか。


 沙也が生霊を飛ばしている理由はまだわからないが、ここまでの情報があればまた一歩前進といえるだろう。


 湊はそう考えて、真理子の方に向き直った。


「少し調べてみたいことがあるんで、お時間をいただけますか? その間に沙也さんに何かあったらおれに連絡してください」


 いつになく真剣な表情で告げた湊は、レジカウンターの上に置かれているメモ用紙とボールペンを手に取る。手早く自分の名前と電話番号を書いて、真理子に渡した。


 それから、しっかりと真理子の連絡先を聞いておいたのだった。



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