第49話 繋がる情報
湊が急いで開けたドアの向こうには、昨日ここに来た女性の姿があった。
女性は顔を覗かせると、ドアにかけられた『本日休業』の札と店内の様子を交互に見比べる。
「お店はお休みのようだけど、今日は店長さんいらっしゃるのかしら?」
「あ、すみません。今日もちょっと……」
頬に手を当てて薄く笑みを浮かべる女性に、湊は申し訳なさそうにそれだけを答えることしかできなかった。
「そうなのね。じゃあまた今度にしようかしら。あら? これって……」
しかし、そこで女性が何かに気づいたように小さく声を上げる。そして湊の方を指差した。
「どうかしましたか?」
聞きながら、湊はつられるようにして女性の示した場所に目を向ける。
視線の先にあったのは湊自身の手だが、そこにはしっかりと万年筆が握られていた。
どうやら無意識に持ってきていたらしい。けれど、今は先ほどみたいに電流のようなものは感じられなかった。
「その万年筆、もしかして……」
「これを知ってるんですか?」
湊が万年筆を持ち上げながらさらに問うと、女性は首を縦に振る。
「ええ、多分うちの娘のものじゃないかしら」
「これ、ここに相談に来られた方が持ってきたものなんですけど、娘さんってどんな方ですか?」
守秘義務があるんでこちらからは言えないんです、と湊は女性から話してくれるように促した。
こちらからは話せないが、女性が話して確認する分には問題ないだろう。そう考えてのことだ。
「ああ、そうよね。そういえば私も名乗ってなかったわ。ごめんなさいね。私は上田真理子っていいます。それで娘は沙也っていうの」
そこで、湊の瞳が大きく見開かれる。と同時に心臓が高鳴った。
「娘さん、ウエダサヤさんって名前なんですか?」
「そうよ」
湊が思わず前のめりになって、真理子の顔をまっすぐに見つめる。すると、真理子はそれにも動じることなく、ゆっくりと頷いた。
まさかの同姓同名である。もしかしたら、という期待が湊の中に生まれた。
※※※
その後、真理子から教えてもらった髪型などの情報で、真理子の娘がこないだ紫呉のもとに相談に来た上田沙也であったことが判明した。
ちなみに、万年筆も沙也のもので間違いないようだ。
しかも真理子の話では、その沙也が今まさに体調を崩している娘だという。
この店で紫呉が霊に関わる相談を受けていることも、真理子は沙也から聞いていたらしい。それで昨日ここに来たというわけである。
(やっぱり同一人物だ……!)
湊は、ようやく一筋の光明が見えたような気がした。
沙也が体調を崩しているのは、やはり生霊を飛ばしているからかもしれない。
それならば、色々とつじつまが合う。
「沙也さんが体調を崩した時期って、確か八月の半ばくらいでしたよね?」
「ええ、そうね」
湊が改めて確認すると、真理子はそう答えて大きく頷いた。
(紫呉さんに万年筆を預けた時期とほぼ一致してるし、これは偶然じゃないと思う)
紫呉に取り憑いているのが本当に沙也の生霊であれば、その生霊をどうにかすることで、紫呉と沙也の二人を救えるのではないか。
沙也が生霊を飛ばしている理由はまだわからないが、ここまでの情報があればまた一歩前進といえるだろう。
湊はそう考えて、真理子の方に向き直った。
「少し調べてみたいことがあるんで、お時間をいただけますか? その間に沙也さんに何かあったらおれに連絡してください」
いつになく真剣な表情で告げた湊は、レジカウンターの上に置かれているメモ用紙とボールペンを手に取る。手早く自分の名前と電話番号を書いて、真理子に渡した。
それから、しっかりと真理子の連絡先を聞いておいたのだった。




