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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第六章 湊の選択

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第45話 紫呉のいないつきしろ骨董店・2

 レジカウンターを挟んで向かい側に座った女性が、静かに話し始めた。


「娘のことなんですけど、ここ最近ずっと具合が悪いみたいなんです」

「具合、ってどんな感じなんですか?」


 普段の紫呉(しぐれ)と同じように、(みなと)が話を促す。

 女性はさらに続けた。


「昼間はほぼ一日中部屋で寝ていて、夜だけは何とか食事などに起きてくるんですけど、またすぐに部屋に戻ってしまうんです」

「引きこもりってわけでもないんですよね?」

「それとは少し違うと思います。とにかく顔色が悪いし、心ここにあらず、っていうんですかね、とにかく覇気(はき)がないんです。それがまるで死んでいるように見えて……」


 ここで女性は持っていたハンドバッグからハンカチを取り出して、目尻に当てる。


「最近って、いつからなんですか?」

「そうですね、八月半ばくらいだと思います。それからずっと仕事も休んでいて」


 とにかく心配で、と女性は大きく息を吐いた。


「病院には行ってないんですか?」


 湊が不思議そうに首を傾げる。

 具合が悪いのなら、まずは病院に行くべきではないかと考えたのだ。


 しかし、女性はうつむきがちに、力なく首を横に振った。


「連れて行こうとは思ったんですが、本人が『大丈夫だから行かなくていい。絶対に嫌だ』って行きたがらないんです」

「なるほど……」


 そこまで拒絶されては、連れて行くのはなかなか難しいだろう。湊は納得しながら相槌(あいづち)を打つ。


「それに、私には何かに取り()かれてるようにも見えて」

「ああ、それでここまで相談に来られたんですね」


 湊の言葉に、女性はしっかりと(うなず)いた。


 確かに悪霊の憑いたモノを持っていて、そのせいで今の状態になっている可能性はあるかもしれない。

 少し前に会った依頼人の野田(のだ)が、悪霊に憑かれた扇子(せんす)のせいで体調を崩していたことを振り返った。


 女性が膝の上に置いた両手を握り締める。すると、その手の中のハンカチがぎゅっと小さくなった。


「それで、前に娘からここの話を聞いていたんで、相談にと思って来てみたんですけど」

「今日はちょうど店長が不在だったんですよね。おれだと話を聞くことしかできなくて、すみません。もっとアドバイスとか色々できればよかったんですけど」


 心底申し訳なさそうに湊が謝ると、女性はすぐさま両手を顔の前で振る。


「いえ、いいんです。こうやって話せただけでも、少し気持ちが楽になったような気がします」

「そうですか? それならいいんですけど。明日の午後以降なら多分店長もいるはずなんで、店長ならもっと詳しくわかると思いますよ」

「そうなんですね。じゃあ、また改めてここに来ることにします。ありがとうございました」


 言いながら、女性がハンカチをバッグにしまう。深く一礼すると、次には静かに立ち上がった。どうやらこれで帰ることにしたらしい。


「いえ、お気をつけて」


 湊も続いて腰を上げた。


 結局、話を聞くことしかできなかったが、それでも少しは満足してくれたようで、安心する。


 しかし女性を外まで見送った湊は、その背中を見つめ、無意識にぽつりと零した。


「おれももう少し、役に立てるようになれたらいいのにな」



  ※※※



 その後、家に戻った湊は少しだけリビングの片づけをすることにした。


 じゃれてくるツムギの相手をしながら、大雑把(おおざっぱ)に片づける。ある程度片づけたところで時計を見ると、ちょうど夕食にいい時間だった。


 だが、わざわざ一人分を作るのも面倒だったので、今日は近所のコンビニで適当に済ませることにする。


 それから一息ついてシャワーを浴びたあとは、適当にテレビを見てくつろいでいた。もちろん時々ツムギと遊んでやりつつだ。


「紫呉さん、もう寝たかな」


 不意に思い出し、(ひと)()ちる。


 紫呉はああ見えても、きちんとした大人である。消灯時間は守っているはず。眠れないでいる可能性もあるが、それは湊のあずかり知らぬところだ。


 紫呉の具合のことも気になったが、退院が延びたという連絡は来ていないので、今のところは大丈夫だろう。


 何気なく時計に視線を向けると、夜の十一時を回っていた。


「おれもそろそろ寝よう」


 最初は客間で寝ることも考えたが、ツムギが入ってきては困るので、結局リビングのソファーでツムギと一緒に寝ることにする。


 ソファーに横になってタオルケットをかけると、一気に眠気が押し寄せてきた。


(今日は色々あったな……)


 思い返そうとするが、その前に眠気の方が(まさ)る。湊はそれに(あらが)うことなく、ゆっくり夢の世界へと落ちていったのだった。



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