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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第六章 湊の選択

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第43話 聞こえた声

「じゃあおれ達はそろそろ帰ります。あまり長居するわけにもいかないし」

「おう、気をつけて帰れよ」


 (みなと)が立ち上がると、紫呉(しぐれ)はそう答えて片手をひらひらと振った。


「はい。桜花(おうか)ちゃん、行こう」

「……うん」


 湊に促された桜花は、ここでまた心配になったらしく、紫呉を見つめながら名残惜(なごりお)しそうに腰を上げる。


「そんな顔すんな。俺はもう元気なんだから。見ればわかんだろ?」


 紫呉が励ますように明るく笑うと、桜花はようやく納得した様子で黙って(うなず)いた。


「それじゃあ、また明日来ますね」


 湊がそう告げて、紫呉に背中を向けた時である。


 どこからか声が聞こえたような気がして、湊は思わず目を見開き、すぐさま振り返った。


 紫呉が不思議そうな表情で、湊を見据える。


「湊、どうした?」

「今、誰か(しゃべ)りました?」


 湊の問いに、紫呉と桜花は揃って首を左右に振った。


「いや、誰も喋ってねーぞ。空耳じゃねーのか?」

「私も喋ってないよ」


 紫呉に続いて、桜花もしっかりと頷く。どうやら嘘はついていないようだ。


「……ですよね」


 湊は首を傾げながらも、そう答えるしかない。


 少々納得がいかない気もするが、とりあえずは気のせいだと思い直すことにした。もしかしたら、思った以上に紫呉のことを心配しすぎたのかもしれない。


 そこで、紫呉が意地の悪い笑みを浮かべた。


「ちょうどここ病院だし、これから耳の検査でもしてもらえ。あとついでに頭も」

「それはさすがに失礼だと思いますよ……!」


 あまりにも失礼すぎる紫呉に、湊は頬を(ふく)らませて抗議する。


「まあそれは冗談として、きっとお前も疲れてんだろ。休みなのに、わざわざここまで来てくれたんだし。心配かけて悪いな」


 途端に優しくなった紫呉の声音に、


「そこまで疲れてないと思うんですけどね」


 湊はまた首を捻りつつ、そう返した。


(よくわかんないけど、まあ仕方ないか……)


 結局、声の正体は不明なまま、改めて紫呉に背を向けると、桜花がそれに続く。


「紫呉くん、ちゃんと休んでね」

「そうですよ。病院で暴れないでくださいね。周りの迷惑になりますから」


 湊が先ほどの仕返しとばかりに(くぎ)を刺すと、紫呉の表情が途端に険しくなった。


「お前……っ。帰ったら覚えとけよ」

「はいはい。お大事にしてくださいね」


 紫呉の(うな)るような脅しを華麗にスルーして、湊は桜花を先に行かせる。


 桜花が病室を出ると、湊もその後について外に出た。ドアを静かに、しっかりと閉める。


 湊はそのままの状態で一度、ドアを見上げた。しかし目の前には、自分と紫呉を隔てるドアがあるだけである。


(おれだけに聞こえたってことは、まさか霊……?)


 やはり、そんなことを考えてしまう。


 紫呉と桜花には聞こえなかった声。

 自分だけに聞こえたということは、霊の可能性が高いが、言葉までははっきりと聞き取れなかったせいで、詳しくはわからないままである。


 病院には様々な霊がいるから、たまたまその中の誰かの声を拾っただけかもしれないし、紫呉の言う通り、空耳だったのかもしれない。


(やっぱり空耳かなぁ)


 だがそう思い込もうとしても、湊はその声が何となく気になって仕方がなかった。


(でも、もう聞こえないし、どうにもできないよな……)


 後ろ髪を引かれながらも、病院を後にする。

 桜花とは病院前で別れた。


 紫呉の家に行くのなら桜花と同じ方向なのだが、湊には一旦自宅に戻る必要がある。


(さて、家に帰るか。準備とはいっても大したものはいらないだろうけど)


 気を取り直して、湊は空を見上げた。澄んだ青空がどこまでも広がっている。


 大きく深呼吸をしてから顔を戻すと、紫呉の家に泊まる準備をするため、桜花とは反対の方向に向かって歩き出したのだった。



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