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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第六章 湊の選択

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第41話 倒れた紫呉

 九月初めの土曜日。


 夏休み中、かつアルバイトも休みだった(みなと)は、家で平和にゴロゴロしていたのだが、その平和は一本の電話によって壊されることになった。


 午前中のことである。


「そろそろお昼かなぁ」


 ベッドの上に寝転んで漫画を読んでいた湊が、横に置いていたスマホで時間を確認しようとした時だった。


 いきなりスマホが着信を知らせてきて、その身体が大きく跳ねる。


「うわ、びっくりした……」


 あまりにも上手く重なったタイミングに、まだ心臓がバクバクと高鳴っていた。

 すかさず画面に目をやると、『桜花(おうか)ちゃん』と表示されている。


「桜花ちゃんからの電話? どうしたんだろ」


 これまで、桜花から電話がかかってきたことはほとんどない。珍しく思いながら電話に出ると、今度は桜花の焦ったような声が耳を直撃した。


紫呉(しぐれ)くんが倒れたの!』

「え、紫呉さんが倒れたってどういうこと!?」


 予想外の言葉に、湊は思わず起き上がってその場に正座すると、さらに続きを促す。


 自分の耳がおかしくなければ、今桜花は『紫呉が倒れた』と言った。これはさらに詳しい話を聞かなければならないだろう。


 桜花はいつもよりもやや早口で説明してくれた。


『私が聞いた話だけど、ランニングの途中で倒れたらしいの』

「つまずいて転んだ、とかじゃなくて?」


 まさか冗談ではないか、と湊は眉をひそめつつ、別の可能性を確認する。


 紫呉が倒れるなど、これまで想像したことすらないし、実際にそんな不健康な人間でもない。むしろ病気の方から逃げていくはず。そう考えた湊が疑うのも当然だ。


 けれど、ここで桜花や紫呉が自分を(だま)す必要性はどこにもないだろう。紫呉だけならまだしも、桜花が嘘をつくとは到底思えなかった。


 やはり桜花はすぐに否定する。


『ううん、それは違うみたい』

「熱中症とかは?」


 この時期はまだまだ熱中症の危険もある。そう思って湊が改めてしっかり聞くと、桜花はか細い声でぽつりと零した。


『詳しいことは全然わからないの』


 それは、今にも泣き出しそうな声だった。


 桜花は紫呉のことを本当の兄のように(した)っている。その兄が倒れたと知って、不安や心配で胸がいっぱいなのだろう。


「じゃあ、桜花ちゃんが知ってることだけでいいから全部教えてくれる?」


 湊があえて優しく声をかけると、電話の向こうの桜花は『うん』と(うなず)いた。


 それから桜花がわかっている範囲の情報をまとめると、こういうことだった。


 どうやら、紫呉は早朝のランニングの途中でいきなり倒れたらしい。決してつまずいて転んだわけではないようだ。

 たまたま近くにいて救急車を呼んでくれた人物が、救急隊員にそう話したのだという。


 熱中症かどうかは、今の桜花にはわからない。


 そして、現在は搬送された病院に入院しているとのこと。


「そう、わかった。桜花ちゃんは今病院にいるの?」

『さっきお母さんから聞いたばかりだから、これから行こうと思って』

「じゃあ、病院前で待ち合わせて一緒に行こう」

『うん。湊くん、ありがとう』


 電話を切ると、湊はすぐに出かける支度を始める。もちろん、コンタクトレンズをつけることも忘れない。


 着替えている最中、少し前にシュウから言われた言葉がふと頭を(かす)めて、その手を止めた。


 あの時のシュウは、「紫呉に違和感があるから、しばらく様子を見ていてくれ」と湊に頼んだ。


 それから、湊は紫呉の様子をできるだけ注意して観察していたが、これといって特に変わった様子はなかった。


「もしかして、これが……?」


 倒れたことが、シュウの言っていたことと何か関係があるのか。思わず顎に手をやり、首を傾げる。


 シュウ自身も「まだ詳しくはわからない」と言っていたが、その『違和感』はおそらく霊絡みなのではないか、と湊は漠然とそう考えていた。


 もちろん、まだはっきりとした確証はない。それに今回の件は、桜花の話を聞く限りでは霊が関わっていないように思える。


 だから、これはシュウの話とは関係ないのではないだろうか。たまたま紫呉の体調不良か何かがタイミング的に重なっただけでは。湊はそう考えた。


「いや、ここで考えてる場合じゃないな。今は急がないと」


 一旦シュウの話は置いておこうと、頭を横に数回振る。これは紫呉に会ってから考えるべきことだろう。


 ここでぐだぐだ考えていても、紫呉が倒れたという事実は変わらないし、様々な不安も消せない。


 とにかく今は、一刻も早く紫呉の容態を直接確認しなくては。その一心で湊は急いで家を出たのだった。



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