第37話 さっぽろ羊ヶ丘展望台
同日、昼過ぎのこと。
湊は紫呉とともに、さっぽろ羊ヶ丘展望台を訪れていた。
「このジンギスカン、すごく柔らかくて美味しいですね!」
湊が焼けたばかりのジンギスカンを口に入れる。その表情はとても幸せそうだ。
さすがに日曜日なだけあって、このレストハウスも家族連れなどで賑わっている。あちこちでジンギスカンが焼かれ、美味しそうな匂いが充満していた。
「そうだろ? まずは腹ごしらえしとかねーとな」
湊の向かいに座っている紫呉も、口を大きく開けてジンギスカンを頬張る。
二人がここにいるのには、きちんとした理由があった。決してただの観光ではない。
この後には、先ほどの沙也とは別件で、霊絡みの依頼が待っているのだ。もちろん湊の能力も必要になる予定である。
今食べているジンギスカンは、そんな湊の『特別手当』の一部、その前払い分だった。
「あとでソフトクリームも食べたいですね。メロンのやつがあるらしいですよ。あ、白い恋人ソフトっていうのもありました」
どれを食べるか悩みますね、と湊が嬉しそうに目を細める。
先ほど少しだけだが、軽食やお土産を扱った店の入っているオーストリア館を覗いてきたのだ。ちなみに、オーストリア館はレストハウスの隣にある。
平岡公園に続き、ここに来るのも初めてだった湊は少々はしゃいでいた。
前に平岡公園に行った時は、梅ソフトクリームを食べられず悔しい思いをしたので、今日はここぞとばかりにしっかり食べておこうと考えている。
「おお、それだったら食べ比べもいいな。他にも美味そうなもん、たくさんあったしな」
一緒になってオーストリア館を覗いてきていた紫呉も、顔を綻ばせる。
二人が『次に何を食べるか』で盛り上がっている時だった。
「ずいぶんとのんびりしてるね」
不意に後ろからとても覚えのある声が聞こえて、湊は反射的に後ろを振り返る。
瞳に映ったのは、全身をモノトーンで統一したシュウの姿だ。その全身は、紫呉と比較すると本当に細い。
腕を組んで立っているシュウに、湊が明るく挨拶をする。
「あ、シュウさん。こんにちは」
「こんにちは、湊くん。で、紫呉はここで何をしてるの?」
シュウは湊を見てわずかに微笑んだあと、すぐに険しい顔つきで紫呉に向き直った。
「おう、お前もジンギスカン食うか? 今なら奢ってやらないこともないぞ」
しかし楽しそうな紫呉はそんなことはお構いなしに、満面の笑みをシュウに向ける。
途端にシュウの表情が呆れたものに変化した。そして大げさに溜息をついてみせる。
「それは丁重にお断りするよ」
「お前は食わなすぎなんだよ。ちゃんと家で食ってんのか?」
紫呉は食べながら、あからさまに眉をひそめた。
これでも一応、シュウの食生活を心配しているのだろう。それくらいは湊にもわかる。
「それなりには食べてるよ」
だが、シュウは突っぱねるようにそう返すだけだ。
その姿に、箸を止めた紫呉が、怪訝な顔で聞き返す。
「それなりってどれくらいだよ」
「それなりはそれなりだよ。あまり僕に干渉しないでもらえるかな。これ以上その話を続けるつもりなら僕は帰らせてもらうからね」
「ちっ、わかったよ。せっかく心配してやってんのに」
不機嫌を隠すことのないシュウに、紫呉は不満そうに一つ舌打ちすると、また食事に戻った。
(よほど自分のプライベートには関わらせたくないんだな。きっと誰に対してもそうなんだろうけど)
紫呉とシュウのやり取りを控えめに眺めながら、湊はそんなことを考える。
湊にとって、シュウは今も憧れの対象だ。
これから先シュウに嫌われることのないよう、自分も下手に突っ込んでプライベートについて聞いたりしないでおこう。
そう誓いつつ、湊は残りのジンギスカンを口に運んだのだった。




