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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第四章 あなたを待つ

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第32話 ランタンの告白

 裕太(ゆうた)の家から帰ってきてから数日後。七月半ばのことである。


 (みなと)紫呉(しぐれ)はまた、札幌市定山渓(じょうざんけい)自然の村にやってきていた。

 今日はここの駐車場で裕太と待ち合わせをしている。


 時間よりも少し早く着いた二人は、車から降りて裕太を待っていた。


「それにしても、よく信じてもらえましたよね」


 腕時計に目を落とした湊が呟くように言うと、紫呉はすぐさま反応する。


「だからそれは俺の人徳ってやつだよ」

「紫呉さんにそんなものありましたっけ……?」

「どこからどう見ても人徳の塊だろーが」


 湊の言葉に、紫呉はそう答えて両手を腰に当てた。いつも通りの紫呉である。


 湊は「そうですね」と棒読みで返しつつ、仰々(ぎょうぎょう)しく溜息をつく。それから先日のことを振り返った。


 紫呉の話を聞いて快諾してくれた裕太は、意外にも湊と紫呉のことを怪しくは思っていなかったらしい。

 裕太(いわ)く、「何となくだけど嘘は言ってないと思った」とのことだ。


 あまり疑われなかったこと、そして断られなかったことはとてもありがたい。さすが『爽やかな好青年』である。


 そこまで考えて、湊は途端にそわそわし始めた。


 これから(あかね)が裕太に告白するのだ。他人事とはいえ、これが緊張しないはずがない。それに、湊には『通訳をする』という大事な役目が待っている。


 コンタクトレンズを外した湊の手には、茜の宿ったランタンがあった。今回も管理センターから借りてきている。火はついていない。


『……ホントに来るの?』

「ちゃんと約束しましたから、大丈夫ですよ」


 茜の不安そうな声に、湊は微笑みを返す。


『……それならいいんだけど』


 茜が不安になるのも無理はないだろう。湊と紫呉がしてきたのはあくまでも口約束であって、法的拘束力などは一切ない。


 約束を破る可能性ももちろんないとは言えないが、裕太はそんな人間には見えなかった。それは茜が一番よく知っているだろう。


 そう思った湊が、改めて茜を励まそうとした時である。


「お、来たんじゃねーか?」


 紫呉が目の上に手をかざし、嬉しそうな声を上げた。



  ※※※



 三人とランタンに宿った茜は駐車場の端、あまり人目につかない場所に移動する。


「今日は来ていただき、ありがとうございます」


 紫呉が人好きのする笑顔で裕太を迎えると、湊はその隣で小さく頭を下げた。


「いえ、こちらこそありがとうございます。それで僕はどうしたらいいでしょうか?」


 裕太の言葉に、すぐさま紫呉が反応を返す。


古賀(こが)が持っているランタン、これに茜さんが宿ってるんです」

「これですか?」


 裕太は「へぇ」と興味深そうにランタンに視線を向けた。


「そうです。で、これから茜さんに出てきてもらって、古賀に通訳してもらおうと思います。その話を聞いていただければと」

「なるほど。古賀くんが霊と会話できるんでしたっけ」

「あ、はい」


 湊は緊張の(にじ)んだ声で、それでもしっかりと(うなず)いてみせる。


 その様子を見て、紫呉は湊の背中を数回軽く叩いた。


 何となくだが「大丈夫だ。頑張れ」と言われているような気がして、湊は紫呉の方をちらりと見やってから、大きく深呼吸をする。


 そして、手に持っているランタンを少しだけ持ち上げて、声をかけた。


「茜さん、出番ですよ」


 すぐに姿を現した茜は、裕太が目の前にいることがまだ信じられない、とでも言いたげな表情を浮かべている。


『……本物なの?』

「当たり前じゃないですか」


 茜の疑いの声に、湊が思わず苦笑を漏らした。


 今、茜の姿が見えているのは湊と紫呉だけである。見えていない裕太は、ランタンと会話している湊を不思議そうに眺めていた。


『……そ、そうなんだけど。裕太に言いたいこと、もう言ってもいいの?』

「もちろんいいですよ。ちゃんと伝えますから」


 湊が柔らかい笑みで促すと、


『……わかった。ちょっとだけ待って』


 胸に手を当てた茜が、先ほどの湊と同じように深呼吸をする。

 それを数回繰り返してから、意を決したように一つ頷いて、おもむろに口を開いた。


『……私は、ずっと裕太のことが好き、でした。付き合って、とかはもう言えないけど、裕太が私のことをどう思ってたのかだけは知りたいの』



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