第3話 オッドアイがもたらす出会い・3
(うん、こういう流れだったなぁ……)
数十分ほど前からの出来事を振り返り終えた湊が、現在へと意識を戻す。
「青ってめちゃくちゃ綺麗だし、俺はいいと思うけどな。オッドアイに憧れる人間だって多くね? 少なくとも俺は羨ましいと思う」
紫呉は満面の笑みで何度も頷きながら、湊の青い左目とオッドアイをまだ褒めていた。
「そう、ですかね……?」
湊はそのことが意外でどこか呆けたままだったが、ふと紫呉のペンダントに目を向ける。
(そういえば月城さんのペンダントも青いよな。青が好きなのかな……)
だから自分の目を褒めてくれるのかもしれない、そんなことを考えた。
「俺が言ってんだから、そうに決まってんだろ。ほら」
紫呉がこれまで持っていたコンタクトを湊に返して立ち上がる。
「あ、ありがとうございました。あの、オッドアイのことは……」
「誰にも言わねーよ。他人に知られたくねーんだろ?」
「……はい。本当にありがとうございました」
紫呉を見上げて、湊はもう一度お礼の言葉を口にした。それはコンタクトレンズを探してくれたことと、左目を褒めてくれたこと、両方に対してだった。
「ああ、じゃあまたな」
紫呉はそれだけを告げて背中を向けると、手をひらひらと振りながら去っていく。
(また、なんてない方がいい)
そう思いながら見送る湊だが、何となく紫呉の存在は気になった。
それは、両親以外で初めてオッドアイを褒めてくれたからかもしれない。いや、そもそも両親以外に見せたことがないのだから、実際に紫呉以外の他人がどういう反応をするのかはまったくわからないのだが。
きっと瞳の色を褒めてくれたからだ、などと自身を納得させる。そのまま去っていく背中を見送っていると、不意に紫呉が向かう先、電柱の傍に霊がいることを思い出した。
(しまった、あっちには霊が……!)
紫呉は今まさにそちらの方へと向かっている。霊も地縛霊なのか、その場にまだ留まっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
湊が慌てて立ち上がり、紫呉を大声で引き留める。
おそらく害はないだろうとは思ったが、どうしてもそのままにしておけなかったのだ。
湊の声に反応して紫呉はすぐ振り返るが、その顔はどことなく意地の悪い笑みを浮かべていた。
「お前やっぱ『見えて』んだろ?」
「え? どういうことですか……?」
踵を返して大股でこちらに戻ってくる紫呉の問いの意味がわからず、反射的に聞き返す。
「そのまんまの意味だよ。お前、『霊が見える』んだろ?」
自信満々に言ってのける紫呉に、湊は目を見開き、一瞬声を失った。
「何でそのこと……」
「何で、って聞かれても俺の野生の勘がそう言ってただけだからな」
「野生の勘って何ですか……」
湊が呆れたように返すと、その正面で足を止めた紫呉は片手を腰に当てる。それから空いている方の手を、湊の頭に乗せた。
「まあ正確には、お前の纏ってるオーラっていうか空気が一般人とは全然違ったからだな。だからすぐにわかった」
「じゃあ、もしかして月城さんも?」
湊が自分よりも背の高い紫呉の顔を見上げる。そのまままっすぐに見つめると、紫呉は湊にもはっきりとわかるように口角を上げた。
「俺のことは紫呉でいい。そう、俺もお前と同じ側の人間だ」