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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第四章 あなたを待つ

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第29話 キャンプとバーベキューとランタン

 七月、ある土曜日のこと。


「よし、来週はみんなでキャンプに行くぞ!」


 唐突にこんなことを言い出したのは、当然のことながら紫呉(しぐれ)である。


 あまりにも予想外すぎる台詞に、(みなと)はきょとんとして首を傾げると同時に、書類をめくる手を止めた。


「キャンプって、現地でコテージやテント借りるんですか? だったらもうどこも予約いっぱいじゃないかと思いますけど……」

「この俺を(あなど)るなよ。聞いて驚け、すでにネットで予約済みだ! 運良くコテージに空きがあったからな。俺の強運に感謝しろよ!」


 誰も頼んでいないはずなのに、紫呉はなぜか胸を張っている。


 その姿に湊が(あき)れた様子で、溜息を一つ落とした。


「これ、すでに拒否権ないやつじゃないですか……。でもまあ別にいいですけど」


 ちょうど予定も入ってないですし、と素直に答えて、また書類をめくり始める。


 淡々とした態度の湊ではあるが、心の中では「ちょっと楽しそうだな」などと、密かに思い始めていた。


 そんな湊に、紫呉がさらに良い意味での追い打ちをかけてくる。


「キャンプ飯は格別に美味いからな。楽しみにしとけ」


 湊は反射的にキャンプ場で食べるバーベキューを想像してしまった。ついよだれが出そうになって、慌てて想像するのをやめる。


 そこであることに気づいて、湊は紫呉に問いかけた。


「あ、でも、ツムギはどうするんですか? さすがに連れていけないですよね?」

「それも問題ねーよ。シュウが一晩預かってくれるからな」


 ツムギの心配をする湊に対して、紫呉は「すでに対応済みだ」とまた偉そうにふんぞり返る。


 その姿に、大人としてどうなんだとは思いつつも、湊は手をぽんと打った。


「なるほど。シュウさんはツムギと一緒に過ごせて、おれたちはキャンプができる。一石二鳥ってやつなんですね。いや、ツムギはお母さんや兄弟に会えるんだから一石三鳥かな」


 湊が顎に手を当てて納得していると、紫呉は近くで棚の掃除をしていた桜花(おうか)に声をかける。


「もちろん桜花も行くだろ?」

「……うん、行きたい」


 紫呉に満面の笑みを向けられて、桜花も静かに、けれどしっかりと(うなず)いた。


 桜花の答えに満足したように、紫呉が大きく声を張る。


「よし、決定な。二人ともちゃんと来週の土日は空けておけよ。絶対に予定入れんじゃねーぞ」


 こうして急な話ではあるが、三人でキャンプに行くことが決定したのだった。



  ※※※



 翌週の土曜日は快晴だった。まさにキャンプ日和だろう。ちなみに天気予報では明日も天気はいいらしい。


「ここで一泊するんですね!」


 楽しそうな湊の声に、隣の桜花が黙って頷いた。桜花は相変わらず口数が少なくおとなしいが、その表情はいつもより明るく見える。


 そんな二人に向けて、紫呉が目を細めた。


「いい所だろ?」


 紫呉の声を受けて、湊は辺りをぐるりと見回す。


 ここは札幌市定山渓(じょうざんけい)自然の村。紫呉がコテージを予約したというキャンプ場だった。その名の通り、木々に囲まれた自然豊かな場所だ。


 紫呉の車でここまでやってきた三人は、ほぼ手ぶらである。色々と準備をするのが面倒だったので、道具はレンタルすることにして、バーベキュー用の食材くらいしか持ってきていなかった。


 それから、夕方になってコテージの外でバーベキューを始めたところまではいい。


 今は、テーブルに置かれたレンタル品のランタンが、その炎を不自然に揺らめかせていた。


「霊ってやっぱ俺らに引き寄せられるようになってんのかねぇ」


 ランタンを前にした紫呉が、いい感じに焼けた肉を頬張る。


「ずいぶん霊に会う頻度が高いと思いますけど、おれがバイトに来る前からこんな感じだったんですか?」


 湊も同じように食べながら、その美味しさに頬を緩める。舌鼓(したつづみ)を打っていると、ランタンの炎が何かを言いたげに、また揺らめいた。


「そこまで多いって記憶はねーけど。な、桜花?」

「私には見えないからわからないけど、紫呉くんからはあまり見たって話は聞いてなかったと思う」


 紫呉に顔を向けられた桜花が大きく頷く。その手にある皿の中身には、大量のコショウとタバスコがかけられていた。

 コショウとタバスコは、辛いもの好きの桜花がわざわざ持参したものだ。


 辛いものが少々苦手な湊は、桜花の皿とその持ち主を尊敬の眼差しで見つめながら、「うーん」と首を捻る。


 三人を急かすかのように、ランタンの炎がまた揺れた。


 そう。今回は現地でレンタルしたランタン、これが問題だった。


 先ほど借りてきてすぐに霊が宿っていることが判明したのだが、湊たちはすでに肉や野菜などを焼き始めていたので、霊のことは後回しにしてまずは食べることに専念した。


 そうしないと、食材が焦げてたちまち炭になってしまう。バーベキューはある意味、時間との戦いなのだ。


「じゃあ、霊によく会うのってもしかしておれのせいですかね……?」


 食べる手はほぼ止めることなく、湊が不安そうな表情をみせる。

 だが、紫呉は程よく火の通ったピーマンを皿に取りながら、(ほが)らかに笑った。


「仮にお前のせいだとしても、そんなことは気にすんな。それだけ多くの霊の願いを叶えてやれるってことだろーが。むしろ俺たちにとってはいいことだ」

「そうですよね」


 いつも通りの紫呉の台詞に湊はほっとして、そろそろ焦げそうな気配のするソーセージを割り(ばし)(つか)んだのだった。



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