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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第三章 手紙が運んでくるもの

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第28話 奇跡と、紫呉の幸せ

 兼造(けんぞう)が成仏してから三日ほどが経ち、つきしろ骨董店(こっとうてん)には満足そうな(みなと)紫呉(しぐれ)の姿があった。


「今回も無事に願いを叶えられてよかったですね」


 レジカウンターの(そば)にある椅子に座った湊が、屈託のない笑みを紫呉に向ける。心底嬉しそうだ。


 エリカに続き、兼造の願いも叶えられたのだから、これが嬉しくないはずがない。


「そうだな。加奈(かな)さんもあの手紙を持ってイギリスに帰ったらしいが、もうおかしな気配はしなくなったみたいだな。今回はうちで解決した案件だから、報酬もあとで振り込むってよ」


 昨日シュウから報告の電話来たわ、と紫呉が答えて、レジカウンターに肘をつく。その表情も明るいものだった。


 紫呉のことだから、おそらく報酬よりも兼造を成仏させられたことの方が嬉しいのだろう。


「兼造さんが成仏して、加奈さんやお母さんも安心できたみたいですね」

「あまり大したことはできなかったけど、成仏はさせられたからな。兼造さんも満足したってことだろ」


 紫呉はそう答えて、さらに頬を緩ませる。

 そこで、湊が不思議そうに首を傾げた。


「でも、『ほんの一瞬だけ兼造さんの姿が見えた』ってシュウさんたちは言ってましたけど、本当なんですかね?」


 兼造が成仏した時、霊が見えないはずのシュウや加奈、母親の三人にも一瞬だけ兼造の姿が見えたらしい。


 そんなことがあるんだろうか、とさらに湊が首を捻っていると、


「多分ホントだろうさ。あのシュウが見たって言ってるんだからな。奇跡、とまではいかねーかもしんねーけど、似たようなもんじゃねーの」


 紫呉はすぐにそんな答えをよこす。


 シュウだけでなく、加奈や母親も嘘はつかないはずだ。つく理由もない。だから、きっと奇跡のようなものが本当に起きたということなのだろう。


「そうですね」

「そういうことにしとけ」


 湊は黙って(うなず)いてから、隣に座っている紫呉の端正な顔を見上げた。


「……前にも似たようなこと聞きましたけど、紫呉さんはどうして霊に対してそこまで真剣に向き合えるんですか?」


 湊のふとした問いに、紫呉はわずかに目を見張るが、すぐに事もなげに言ってのける。


「そんなの決まってんだろ。今までできなかったことができてるからだよ」

「今までできなかったこと、ですか?」

「ああ。今まで叶えてやれなかった霊の願いを叶えてやれることがすっげー嬉しいし、楽しいからだよ。これが俺の幸せなんだなって思う」


 やはり紫呉の口から出てきたのは、ほぼ予想通りの台詞だった。さすがに『幸せ』とまでは予想していなかったが。


 紫呉の笑顔がとても(まぶ)しく見えて、湊は一瞬だけ目を(すが)める。

 眩しさから顔を背けるようにしてうつむくと、膝に置いた両手を握り締めた。それから、か細い声でさらに言葉を紡ぐ。


「……そう思えることが、少し羨ましいです。おれはそういう風に思ったことなんてなかったから」

「だったら、お前もこれからそう思えるくらい霊の願いを聞いて、叶えてやればいい」


 紫呉は珍しく優しい声でそう返して、湊の肩にそっと手を置いた。

 その行動に少々戸惑いつつも、湊はゆっくり顔を上げる。改めて紫呉を見つめた。


「……はい。おれの能力が役立つなら、何でも言ってください」

「お、言ったな? これからもっとこき使ってやるから覚悟しとけよ」


 先ほどの優しさはどこへ行ったのか、今度は思い切り背中を叩かれる。


「い、いや! 今のは言葉の(あや)っていうか、聞き流してくださいよ!」


 何だかまずいことを言ってしまった、と湊が途端に慌てると、紫呉は意地の悪い笑みを浮かべて、さらに何度も湊の背中を叩いたのだった。



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