第26話 洞爺湖から届いたもの
数日後。
つきしろ骨董店──紫呉のもとに、一つの小さな段ボールが届いた。
中身はネット通販で購入した『わかさいも本舗のおいしいまんじゅう』である。洞爺湖温泉にある『わかさいも本舗』という店で作られている、人気の温泉まんじゅうだ。
やはり北海道の有名メーカーなだけあって、ネットでの評判もいい。
加奈の実家から帰ってきた湊は、改めて兼造に『どこの温泉まんじゅうを食べたかったのか』を確認した。
しかし、兼造は先日と同じような反応しか返してこないので、ネットで調べたものを片っ端から「これですか?」と聞いていった。
そうして兼造がようやく首を縦に振ったのが、この温泉まんじゅうだったというわけだ。
洞爺湖までは札幌から車でだいたい片道二時間ほどで行けるが、今回はネット通販である。
紫呉は直接現地まで買いに行きたかったようだが、「早く行きたい」と言う紫呉に対して、湊とシュウの予定が合わなかったのだ。
さすがに一人で行くのはつまらなかったらしく、紫呉もすぐに諦めたようだった。
そのせいか、ついでとばかりに自分たちの分もしっかり注文してある。シュウは「いらない」と言ったが、紫呉は無理やり押しつける気満々だ。
「洞爺湖、懐かしいなぁ。小学校の修学旅行で行ったんですよね」
「ああ、俺も行ったな」
レジカウンターで書類を片づけていた湊が懐かしむようにしみじみ言うと、紫呉も同意するように「うんうん」と何度も頷く。
「男子は結構お土産に木刀買ってましたけど、おれは買わなかったんですよね」
洞爺湖の木刀はお土産として有名だ。
湊の通っていた小学校の『修学旅行お土産ランキング』でも、男子部門の一位を獲得するくらいだった。
「俺はちゃんと買ってきたぞ。多分まだ実家にあるんじゃねーかな。木刀って何かかっこいいし、実家から持ってきて護身用に携帯して歩くのもいいかもしんねーな」
紫呉は腕を組みながら、「これはいい考えだ」とでも言いたげに瞳を輝かせる。
そこに湊がすかさずツッコミを入れた。
「いや、さすがにそれはやめておいた方がいいと思いますよ。ほぼ間違いなくお巡りさんに捕まって職務質問されますから」
「ああ? 俺がそんな不審な人間に見えるってーのか?」
「だから、それが職務質問される原因なんですよ……」
相変わらずの鋭い眼光で睨んでくる紫呉に、湊は大げさに溜息をついてみせる。
そこで紫呉が頭の後ろで両手を組んで、ぽつりと残念そうに言った。
「あーあ、枕投げしたかったな」
「枕投げ? だったら家でやればいいじゃないですか」
「あれは旅行先でやるから楽しいんだよ」
「……そういうものなんですかね」
突然子供のようなことを言い出した紫呉に、湊は思わず眉をひそめてしまうが、恋バナではなく枕投げなのが紫呉らしいと言えなくもない。
「たまには旅行とかもいいじゃねーか。まあ男三人で泊まるのは全然楽しくねーけど、枕投げとかやりたくならね?」
「まあ、たまにやる分にはいいですけど。でもホントに枕投げなんてやったら、絶対紫呉さんの一人勝ちじゃないですか」
紫呉に楽しそうな笑顔を向けられた湊は、不満そうに小さく頬を膨らませた。
間違いなく湊やシュウでは、紫呉に敵わないだろう。おそらく二対一でも無理そうだ。それ以前に、紫呉の力で枕を投げられたら怪我をする可能性も高いのではないか。特に突き指あたりが危険な気がした。
そんなことを考えていると、次に紫呉が不敵な笑みを浮かべてみせる。
「じゃあ今度やってみっか」
「その時はハンデくださいね。紫呉さんは右手の使用禁止ってことで」
紫呉の言葉に、湊はそう答えながらも挑戦的な視線を投げつけたのだった。




