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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第三章 手紙が運んでくるもの

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第22話 シュウが持ち込んだもの

「どうして今日はあんなに片づいてたの?」


 リビングを通って客間に入ったシュウが、「珍しい」とでも言いたげに、驚いた声を上げた。


 客間はさすがにツムギを入れないようにしているからか、綺麗に保たれている。


 シュウが驚いていたのは、リビングについてだった。


「今日は(みなと)に片づけを頼んだんだよ。お前も来るし、ちょうどいいかと思ってな」

「ああ、普段は片づけが間に合ってなかったもんね」


 紫呉(しぐれ)が簡単に説明すると、シュウは納得したように手を打ち、苦笑する。


 どうやら、いつもシュウが来る時のリビングは、先ほど湊が片づける前の状態だったらしい。

 それなら今の片づいている様子を見て驚くのも無理はない。


「で、俺たちに見せたいものって何だ?」


 早速、座布団の上にあぐらをかいた紫呉が、単刀直入に切り出した。


 紫呉の話では、シュウからのメールには『見て欲しいものがある』と書かれていたらしい。


 湊は紫呉の隣で正座をして、背筋を伸ばす。今回はどんな依頼なのかと、緊張と不安の入り混じった表情だ。


 テーブルの向こう、二人の正面で礼儀正しく正座をしているシュウは一つ(うなず)くと、自身の横に置いていたショルダーバッグを開ける。


「これなんだけど」


 そうして中から取り出したのは、宛名しか書かれていない、一通の真っ白な封筒だった。



  ※※※



「どっからどう見ても手紙だよな。これがどうしたって? てか、手紙なんて個人情報の塊だろ。ここに持ってきてもいいのかよ?」


 紫呉が腕を組んで、怪訝(けげん)な視線をテーブルの真ん中に置かれた真っ白な封筒に向けた。その宛名には『加奈(かな)へ』とだけ書かれている。


「ちゃんと依頼人の許可は得てるから大丈夫。手紙の内容は大したものじゃなかったけど、今回は同封されていたものが問題なんだよ」


 シュウは封筒を手にすると、静かにそれを開けた。


 出てきたのは、封筒とお揃いの真っ白な便せんと、とても小さな紙切れの二つだった。

 テーブルの上を滑らせるようにして、それらを紫呉の方へと差し出す。


「つまり手紙の中身は見ても大丈夫ってことか?」

「うん、それも許可は取ってあるよ」

「じゃあ、まずは手紙から確認してみっか」


 シュウが頷いたのを確かめて、紫呉は綺麗に畳まれた便せんの方を手に取った。躊躇(ちゅうちょ)することなく開き、テーブルの上に広げる。


 手紙を見ようと前のめりになった紫呉と同じように、湊も隣から一緒になって(のぞ)き込んだ。


「えーと、『元気にしているか。あまり仕事ばかり頑張りすぎるな。今度お前が帰ってくるのを楽しみにしている。兼造(けんぞう)』か。確かに大した内容じゃねーな」


 紫呉が言った通り、角ばった文字で(つづ)られたその内容は当たり(さわ)りのないものだった。


 湊が顔を上げて、シュウを見る。


「宛名の人、加奈さんが今回の依頼人なんですか?」

「うん、そう。依頼人は山下(やました)加奈っていう二十代の女性なんだけど、仕事で世界を飛び回ってるような多忙な人でね」


 湊の質問に、シュウがしっかりと頷いた。


「ああ。それでここに来られなくて、お前に代理を頼んだってとこか」


 なるほどな、と紫呉が納得したように膝を打つ。


「手っ取り早く言えばそういうことだね。僕のところには最近、一時帰国した時に来てるんだよ」

「けど、お前のところってことは悪霊絡みじゃねーのか?」


 シュウの説明に、紫呉はまたも怪訝そうな表情を浮かべると、あぐらをかいている足を組み替えた。


「加奈さんはそう思って僕のところに来たんだけど、今回は僕の出番じゃなくてね」

「『出番じゃない』ってどういうことですか?」


 今度は湊が首を傾げながら、シュウに問う。


 悪霊専門の(はら)い屋が、わざわざここに持ってくるものとは一体何だろうか。まさか、目の前の手紙や紙切れに悪霊でも()いているのではないか。


 そんなことを考えて湊が顔を青ざめさせていると、シュウの返事を待たずに、紫呉が何かに気づいたように口を開いた。


「ああ、これには『取り憑いてない』ってことか」


 すぐに理解したらしい紫呉に対して、


「そういうこと」


 シュウは一言だけ答えると、真剣な眼差しを二人に向けたのだった。



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