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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第三章 手紙が運んでくるもの

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第20話 祓い屋からのメール

 数日後の木曜日、午後。


 つきしろ骨董店(こっとうてん)には、いつものようにレジカウンターの上で書類整理をしている(みなと)の姿があった。そこから少し離れた場所では、紫呉(しぐれ)がのんびり商品を並べている。


 湊にとってはすでに慣れた光景だった。


 ちょうど書類の整理が終わった時である。店内に軽快な音が鳴り響いて、湊は顔を上げた。


 一瞬、店の電話が鳴ったのかと思ったが、どうやら違うようだ。


 音のする方に視線を向ければ、すぐ(そば)にスマホが置いてある。正体はこれの着信音らしい。


 湊は反射的に自身のポケットを探り、そのスマホが自分のものではないことをしっかり確認すると、紫呉に声をかけた。


「紫呉さん、スマホ鳴ってますよ」

「ん? この着信音はメールだな。ちょっと誰からか見てくれ」


 湊の声に、紫呉は背中を向けたままでそう答える。

 持ち主に言われた通り、湊は素直にまだ明るい画面を(のぞ)いた。


「あ、はい。えーと、シュウ……さん?」

「ああ、あいつか」

「お友達ですか?」


 まだ背中を向けている紫呉に問うと、紫呉はすぐさま否定する。


「ちっげーよ。仕事仲間っていうか、知り合いの(はら)い屋だ」

「祓い屋……?」


 湊は紫呉の言葉を思わず繰り返し、大きく首を捻った。


 どこかで聞いたことのある単語だな、と懸命に考えていると、紫呉が端的に情報をよこす。


「こないだ話したろ。モノに悪霊が取り()いてる場合に祓ってもらうってやつ」

「あっ、そうだ! そういえば、そんな話ありましたね。確か依頼料がすごい高いんでしたっけ」


 宙を(にら)んでいた湊は、ようやく思い出して手を打った。


 以前、紫呉が「あいつには頼みたくねぇ」などと、苦々(にがにが)しく言っていたのを改めて思い返す。腕はいいが、依頼料が相場の倍以上とすごく高いらしい。


 その祓い屋が、メール相手のシュウという人物のようだ。


「そう。あいつからの連絡なんて、ロクな用事じゃねーだろ。どうせツムギの写真送れとかそんなんだよ」


 さらに紫呉は溜息の交じった声を返してくる。

 その言葉に、湊はまたも不思議そうに首を傾げた。


「ツムギ? シュウさんって猫好きなんですか?」

「そういや湊にはまだ言ってなかったか。ツムギの母猫がシュウの飼い猫なんだよ」

「ええ! そうだったんですか!?」


 思わず大声を上げてしまった湊が、慌てて口を塞ぐ。


 今は仕事中である。さすがに店長の紫呉に怒られてしまうだろう。


 そう思ったのだが、紫呉は意外にも怒ることなく、商品を並べていた手を止めると、湊の方へ戻ってきた。


「ああ。たくさん子猫が生まれたらしくて珍しくすっげー困ってたから、俺がツムギを引き取ったんだ」

「へえ、そうだったんですね」


 ツムギを引き取った時の紫呉のことを思うと、何だか微笑ましい。つい湊の頬が緩んだ。


(普段の態度は問題あるけど、やっぱり優しいところもあるんだよな)


 そんなことを考えていると、紫呉はさらに続ける。


「で、その代わりに俺は『シュウを一回タダで働かせる権利』をもらった」

「へえ、そうだったんですね。……って、ちょっと待ってください! それ明らかにおかしくないですか!?」


 やっぱり微笑ましい話だな、などと(うなず)いていた湊の瞳が、途中で大きく見開かれた。

 すぐに先ほどよりも声を荒げてしまうが、


「何が?」


 紫呉は「こいつは何を言ってるんだ?」とでも問いたげに、首を傾げる。

 その姿に、思わず前のめりになった湊が早口でまくし立てた。


「ツムギって血統書付きの猫ですよ!? 普通はこっちからお金を払って譲ってもらうものです! ペットショップで買うとそれなりの値段しますよ! ちゃんと相場とか調べました!?」

「いや、調べてねーな。でも、一匹引き取ってやるってその話したら、少し悩んでから『いいよ』って言われたけど?」

「ほら、シュウさん少し悩んでるじゃないですか!」


 紫呉がさらにきょとんとした表情を浮かべると、ついに湊は額に手を当て、天井を仰いだ。


 しかし、湊の言いたいことを理解できていないらしい紫呉は、


「けどよ、こっちは善意だぞ?」


 まだ納得のいかない様子で腕を組む。


「どうして善意が『タダで働かせる権利』に変わるんですか! むしろこっちがタダ働きしなきゃいけないんですよ!」


 湊は仕事中であることも、紫呉が店長であることもすっかり忘れて、必死に叱りつけた。

 それに対して、紫呉は相変わらず怒ることはせずに、何やら困ったように頬を()いている。


 少しして、


「んなこと言われてもなぁ。まあ双方の同意を得てんだから別にいいだろ」


 とうとう開き直った。


「まったくもう……」


 そんな紫呉に、湊が(あき)れて嘆息する。


 これ以上はもう何を言っても無駄だ。それにすでにシュウの同意を得ているのなら、自分の出る幕ではないだろう。


 そう考えて、「わかりましたよ」と諦めたように返せば、途端に紫呉の表情がいつもの明るいものに戻った。


 気を取り直した紫呉が、早速レジカウンターに置かれたスマホを手にする。着信音はとっくに止んでいた。


「さて、最近のツムギの写真を大量に送りつけてやるか」

「それって、もはや嫌がらせですよね」


 いたずらっぽい笑みを浮かべてメールを確認する紫呉に向かって、湊はじとりとした視線を投げつけながら、またも大げさに溜息をついてみせる。


「……ん?」


 だが、メールの内容を確認したらしい紫呉の表情が、突然真剣なものに変わった。


 急に様子の変わった紫呉を不思議に思い、湊はその顔を覗き込むようにして問いかける。


「どうしたんですか? 何か変なことでもありました?」

「湊、仕事だ」


 紫呉は低い声でそれだけを告げて、顔を上げたのだった。



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