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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第三章 手紙が運んでくるもの

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第19話 桜花、闇鍋事件

 少しして出てきたのはスープカレーだった。


「わ、すごく美味しそうですね!」


 目の前に置かれたスープカレーの器に、(みなと)の瞳が子供のように輝く。


 鶏の手羽元に、素揚げされたじゃがいも、人参、かぼちゃ、ナスなどが一緒に盛りつけられていた。香辛料の香りが、否応なく食欲をそそる。


「だろ?」


 湊の隣に腰を下ろした紫呉(しぐれ)は、自慢げに腕を組んで湊を見やった。


 なぜ紫呉が自慢するのか、湊は不思議に思いながら、改めて口を開く。


「これ、もしかして桜花(おうか)ちゃんが作っておいたの? 料理得意そうだもんね」


 心底嬉しそうに目を細めるが、横からすぐさま否定された。


「ちっげーよ。作ったのは俺だ」

「え、そんなまさか……冗談ですよね?」


 途端に湊の笑みが引きつったものに変わる。


 あれだけがさつそうに見える紫呉に、料理なんてできるわけがない。できるとしても、お茶漬けがせいぜいだろう。


 そう思ったのだが、湊の表情に構うことなく、紫呉は淡々と続けた。


「冗談なんかじゃねーよ。料理は俺の得意分野だ。そもそも桜花に料理なんてさせてみろ。死人が出るぞ」

「やだなぁ、大げさすぎますよ。さすがに桜花ちゃんが料理したって死人は出ないでしょう?」


 あまりにも物騒な紫呉の台詞に、湊は苦笑を浮かべてそう返す。


 桜花はどこからどう見ても、おとなしくて清楚(せいそ)な少女だ。料理だってきっと得意だろう。それにただ料理をしただけで死人は出ないはず。


 むしろ死人を出すのは紫呉くらいのものではないのか、とは考えたが、どうやら目の前にあるスープカレーは本当に紫呉が作ったようだ。もちろんまだ味は保証されていないが、ここで嘘をつく理由も見当たらないのである。

 

 湊が紫呉の顔を見上げると、紫呉は腕を組んだままで、まっすぐ前を見つめていた。視線の先にいるのは桜花だ。


「まあ死人が出るってのは極端な話だけどな」

「ほら、誇張しすぎなんですって。ね、桜花ちゃん?」


 湊は紫呉と同じように桜花に顔を向けて、再度微笑んでみせた。


 しかし二人の視線を受けた桜花は、気まずそうにそっと顔をうつむけてしまう。


「……学校の調理実習では盛りつけと片づけしかさせてもらえないの。みんな『桜花は黙って見てるだけでいいから』って」


 その後、静かに桜花の口から語られたのは、とても悲惨な出来事だった。


 小学生の時、初めての調理実習でなぜか闇鍋が出来上がったというのである。


 桜花は「なぜか」と言ったが、よくよく話を聞いてみれば、児童が各自で持ち寄った食材を何も考えることなく、適当に鍋に放り込んでいたのだ。もちろん調味料も同様である。


 そしてカオスな闇鍋が出来上がったわけだが、勇気を出した男子児童が一口食べるなり「これやべぇ……」と呟いて、机に突っ伏してしまったそうだ。


 幸い食中毒などではなかったが、逆にそのことが桜花の料理のやばさを物語ってしまうことになる。


 そんな『闇鍋事件』以降、調理実習では桜花が余計なことをしないよう、必ず見張りがつくようになったらしい。


「マジか……」

「だから言ったろ」


 桜花の話を聞き終えた湊が呆然(ぼうぜん)と呟くと、紫呉は湊たちに顔を向けることなく、のんびりスープカレーを口に運ぶ。


「紫呉くんは料理得意だけど、私は違うみたい」


 小さく溜息を零した桜花の表情は、心なしかとても寂しそうに見えた。



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