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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第三章 手紙が運んでくるもの

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第18話 猫あるあると謎の箱

 その日の閉店後のことである。


「晩飯食ってけ」


 紫呉(しぐれ)のその一言で、(みなと)は夕食を食べていくことになった。


 最初は遠慮していた湊だったが、桜花(おうか)も「一緒に食べよう」と誘ってくれたので、二人の厚意に甘えることにしたのである。


 母親にきちんと「食べて帰る」と連絡してから、湊は二人と一緒に店の奥にある紫呉の自宅へと向かった。


 これまでは知らなかったが、店と紫呉宅はドア一枚で隔てられているらしい。ちなみに、正式な玄関はこことは別に裏の方にある。青い軽自動車が置かれている車庫の隣だ。


「わあ、猫がいるんですね」


 ドアを開けてすぐ目に入ってきたモフモフに、湊は思わず頬を緩める。


 出迎えるように寄ってきたのは、アッシュブルーの綺麗な毛並みに、ブルーグレーの瞳を持った子猫だった。


 ()でても大丈夫だろうか、などと思いつつしゃがみ込むと、頭上からは紫呉の声が降ってくる。


「ああ、こいつはツムギってーんだ。『(えん)の糸を紡ぐ』って意味で俺が名付けた」

「ええ! 紫呉さんにしてはめちゃくちゃネーミングセンスいいじゃないですか!」


 湊は目を見開きながら、勢いよく顔を上げた。


 その様子に、紫呉があからさまに(あき)れたような溜息を漏らす。


「お前なぁ……」

「あ、えっと、ツムギの種類って何ですか? ミックスには見えませんけど」


 また不穏なものを感じ取った湊が、慌てて対紫呉用の護身術を発動させた。そうして話を逸らせると、紫呉はすぐに「ああ」と(うなず)く。


「聞いた話だと、ロシアンブルーってやつらしい」

「へえ、やっぱり血統書付きなんですね。目はまだキトンブルーなのかな」


 湊は足元に()り寄ってきたツムギの頭をそっと撫でながら、その大きな瞳を(のぞ)き込んだ。


「キトンブルー?」


 すぐさま聞き返したのは、もちろん紫呉である。


「猫飼ってるのに知らないんですか? 子猫の時だけに見られる目の色ですよ。それから徐々にその猫本来の色になるんです」


 湊自身は猫を飼っていないが、友人が飼っていて、そこからの情報だ。友人宅で実際に会った猫も、子猫の時はツムギと同じような瞳の色だった。


 それを端的に説明してやると、紫呉は驚いたように目を見張る。


「へぇ、そうなのか」

「だから、もう少ししたらちゃんと大人の目の色になると思いますよ」


 そう答えた湊の隣に、桜花が並んで膝を抱えた。ツムギを少し見つめてから、次に湊の顔を見上げる。


「……今の色じゃなくなるの?」

「そうだね。でも目の色が変わっても、ツムギがツムギであることには変わらないでしょ?」

「うん。ツムギはツムギだよね」


 湊が笑みを浮かべて桜花の顔を見やると、桜花も柔らかく微笑んで頷いた。



  ※※※



「ツムギのやつ、桜花にはすげー懐いてるくせに、何でか知らんが飼い主の俺にはそうでもねーんだよな」


 オスだから女子が好きなのか、などと不満そうにブツブツ愚痴(ぐち)りながら、紫呉がリビングのドアを開ける。


「……」


 紫呉と桜花に続いて中に足を踏み入れた湊は、目の前に広がった光景に唖然(あぜん)とした。その場に突っ立ったままで、しばし声を失う。


 湊の双眸(そうぼう)に映っているのは、大きなキャットタワーと床一面に散らかされたティッシュや新聞、雑誌などだ。ついでに猫用のおもちゃや、爪とぎもいくつか転がっている。


 ティッシュを散らかした犯人は、おそらくツムギだろう。新聞や雑誌もそうかもしれない。


 これらはいわゆる猫あるあるだと思うが、湊にはそれ以上に気になって仕方のないものがあった。


 主に壁側にたくさん置かれている、様々なサイズの箱である。


 ぱっと見た感じでは、そのどれもが家電の箱のようだった。もちろん、一番下に置かれた箱にはツムギの爪痕がはっきりとつけられている。


 さすがに洗濯機はないようだが、炊飯器や電子レンジ、掃除機などの箱がいくつもあるのだ。しかも同じ種類の家電が数個ずつある。全部で十個くらいはあるだろうか。


 そして中身は入っているのか、いないのか。


 これが気にならないはずがない。


(この箱でテトリスとかできそうだなぁ。てか、ここは一体どんな空間なんだ……?)


 呆然(ぼうぜん)と考えてしまう湊だが、聞くと面倒なことになりそうな予感がしたので、今はあえて触れないことにした。それに、きっといつかは知ることになるような気もしたのだ。


 そこに紫呉から声がかかる。


「こっちで少し待ってろ」


 我に返った湊が振り返ると、食卓の方で紫呉が手招きしていた。


「あ、はい。わかりました」

「……うん」


 素直に食卓についた湊と桜花を置いて、紫呉がキッチンの奥へと消える。

 それを見送った湊はふと思ったことがあって、正面に座っている桜花に笑顔を向けた。


「桜花ちゃんも霊が見えるの?」


 紫呉のことだから、おそらく自分が霊と会話できることまで話しているだろう、そう考えてのことである。


 しかし、桜花は湊の問いに対して残念そうに首を横に振った。


「私は見えないの」

「そうなんだ」

「でも、紫呉くんには見えるから存在は信じてる」


 桜花は静かに答えると、今度はしっかり頷いてみせる。


「うん、ちゃんといるよ。おれにも見えるから」


 そう答えながら、先日、初めて霊の願いを叶えたことを思い返した。これまでの自分にはとても考えられなかった出来事である。


 あの時の霊──エリカに関わったことは、きっとこれからも忘れることはないだろう。


 そんなことを思い、湊は笑みを深めたのだった。



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