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つきしろ骨董店へようこそ!~霊の願いは当店におまかせください~  作者: 市瀬瑛理
第二章 梅とネックレス

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第16話 見つけたネックレスと涙

「この辺りまで来て引き返したみたいですよ」


 エリカの声を聞いた(みなと)が、紫呉(しぐれ)にそう通訳する。


 湊がネットで調べてきた公園の案内図で確認したところ、『梅の広場』と書かれた場所の手前のようだ。


 下に落ちているのではないかと、足元に注意しながらここまで来たものの、やはりまだネックレスは見つけられていなかった。


「そっか。だったら、また戻りながら探してみるか」

「そうですね」


 紫呉の判断に従って、湊は素直に(きびす)を返す。


「やっぱ下に落ちてるわけじゃねーのかな」


 そんなことをブツブツ言いながらも、紫呉は時々しゃがみ込んでは地面を注意深く見ていた。


 二人が来た道を真剣に眺めながら歩いていた時である。


「あっ!」


 小さくつまずいた湊の手から懐中電灯が抜け落ちて、草の上に転がった。


「大丈夫か?」

「あ、はい。懐中電灯を落としただけなんで大丈夫です」


 数歩先を歩いていた紫呉が振り返ると、湊は慌てて屈みながらそう答える。


 (そば)に落ちている懐中電灯を拾いながら立ち上がった時、不意に懐中電灯の明かりで少し離れた梅の木々が照らされた。


 薄闇の中、ほんのわずかに照らされた木たちは少々不気味と言えなくもない。

 湊はそんなことを一瞬だけ考えるが、すぐに反対の手に持った絵画を思い出した。


 落としたのがエリカの宿った絵画でなくてよかった、とほっとする。いや、落としたところで問題はないのだろうが、何となくエリカに申し訳ない。


 そう思いながら湊が顔を上げると、目の前にはまっすぐどこかを見つめている紫呉の姿があった。


「紫呉さん? どうかしたんですか?」


 湊は不思議そうに首を傾げ、紫呉に声をかける。


「ああ。今、向こうで何か光った気がしてな」

「鳥とか、動物の目じゃないんですか?」

「そうかもしれねーけど、そうじゃない可能性もあるかもしれねーだろ。ちょっと見てくるわ」


 そう告げると、紫呉はすぐさま駆け出した。


「あ、待ってください!」


 湊は懐中電灯をしっかり握り締めると、絵画を抱え、その背中を急いで追いかける。


 紫呉が足を止めたのは、ある梅の木の前だった。


「さっきお前が懐中電灯を拾った時に、ちょうどこの辺が照らされて何かが小さく光ったんだよ」

「もし動物の目以外だとしたら、何が光ったんですかね?」


 少しばかり息を切らした湊が、紫呉の隣に並んで問う。


 紫呉は無言で辺りを見回しながら、手にした懐中電灯で傍の木を照らした。そのままじっくり眺める。


 懐中電灯に照らされている梅の木は、夜のせいもあって近くで見てもやはり何となく不気味に思えた。

 しかし湊はそれを口には出さず、ただ黙って紫呉を見守る。


 しばらくして、紫呉が声を上げた。


「もしかしてこれか?」

「これ、って何ですか?」

「ちょっと待ってろ」


 湊が聞くと、紫呉は木の方へとさらに寄っていく。腕を顔の高さまで伸ばすと、手で何かを取るような仕草をみせた。


「ほら、これ」


 すぐに戻ってきた紫呉が、湊に向けて片手を開く。その上には綺麗なシルバーのネックレスが乗っていた。


「まさか、エリカさんの!?」

「木の枝に引っかかってた。ちょっと確認してみてくれ」


 湊はすぐさまネックレスを受け取り、エリカに確認する。


「エリカさん、ネックレスってこれですか?」

『……そうだわ。これよ』


 絵画から頭だけ出したエリカの声は、心なしか弾んでいるように聞こえた。


 きっとこの辺で拾った心優しい誰かが、木にかけておいてくれたのだろう。湊は無事にネックレスが見つかったことと、拾ってくれた誰かに深く感謝する。


「このネックレスで合ってるそうです」

「じゃあ、これで成仏できるな」


 湊が満面の笑みを紫呉に向けると、紫呉もまた心底嬉しそうに破顔した。


『……二人とも、探してくれてありがとう。あの人にも今までありがとうって伝えてくれる?』


 さらに言葉を紡ぐエリカの目尻には光るものが見える。


「あの人って、田中(たなか)さんですか?」

『……ええ』

「わかりました。必ず伝えます」


 湊がしっかりと(うなず)いた次の瞬間だった。


 エリカの身体が、すうっと絵画から抜け出ていく。これまでみたいに絵画の上に留まることなく、エリカはさらに上空へと昇り、そのまま霧散(むさん)するように姿を消した。


「……成仏したか」


 エリカを見送った紫呉が、両手を腰に当てながら小さく呟く。湊が見たその表情は、とても清々しいものだ。


 湊はエリカの消えた夜空にまた顔を戻して、静かに口を開いた。


「エリカさんの願いを叶えてあげられてよかったです」

「ああ、俺の初仕事はお前のおかげで大成功だな」


 紫呉はそう言うと、湊の背中を思い切り何度も叩く。


「ちょ、紫呉さん! 痛いですって!」


 いつものように痛がりながらも、湊は紫呉と一緒になって笑みを零した。

 今は背中の痛みも忘れてしまうくらい、満足した気持ちでいっぱいである。


「無事に終わったし、俺たちも帰るか」

「そうですね」


 紫呉が腕を大きく伸ばすと、湊も同意して頷いた。それから、手の中に残ったエリカのネックレスを握り締める。


 こうして二人は初めて、『霊の願いを叶える』という大仕事を終わらせたのだった。



  ※※※



 それから数日後。

 つきしろ骨董店(こっとうてん)に田中の姿があった。


 詳しい事情などはすでに紫呉が電話で伝えてあったので、特に問題はない。今日は絵画とネックレスを引き取りに来ているだけだ。


「これ、預かっていた絵画とエリカさんのネックレスです」


 紫呉がエリカの宿っていた絵画と、ネックレスを田中に差し出す。

 それを見て、田中は瞳を潤ませた。


 大事そうに両手で絵画とネックレスを受け取ると、


月城(つきしろ)さんも、古賀(こが)くんも本当にありがとうございました」


 小さく震える声でそう言って、深々と頭を下げる。


 そこで、紫呉が静かに湊の背中を押した。


「ほら湊、お前からも言うことあるんだろ」

「あ、はい。エリカさんから田中さんへの伝言を預かってます。『今までありがとう』だそうです」


 湊がエリカの言葉をそのまま伝えると、田中はとうとう(こら)え切れなくなったのか、絵画とネックレスを抱えたまま、無言で大粒の涙を零したのだった。



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― 新着の感想 ―
ネトコン13に挑戦しているブロマンス作品を潜っていたらお見かけしまして、拝読させてただきました。(実はカクヨムコンに参加されていた時から気になっておりました……!) かっこいい紫呉お兄さん、すっき……
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